私は霧が好きだ。
霧の中では見慣れた景色も霧の魔法にかかってしまう。
霧というのは別次元への継ぎ目が現れたとき湧き上がるのに違いない。。。
今朝は霧が出てきたのでカメラを背負って外へ出た。道は薄く雪が積もっていたのでやけにすべって足元が緊張する。
霧がすううっと手を伸ばしてくる。
ひんやりと冷たくて、湿らせた絹布で顔を包まれるような感じがしてゾクリとする。
霧に背中を押されてどんどん進む。霧に手を引かれてどんどん歩く。
今朝はなぜか犬連れの散歩人やジョギングする人が見当たらなかった。
頭の上から飛行機の爆音が聞こえるけれど、見えない。空は真っ白。
何処からともなくアウトバーンを走る車の絶え間ない騒音が聞こえるけれど、もちろん見えない。
河から貨物船のモーターの音が聞こえるけれど、見えない。
用水路を流れる水のせせらぎが聞こえる。
灰色ガンがギャアギャア喋るのも聞こえる。
小鳥のついーっついーっという声も聞こえる。
こんなに生き物の気配がするのに視界の中には見当たらない。
すこし畑の中を歩いてゆくと徐々に霧が晴れはじめる。
ああ、もう少しだけ、この非日常的感触を味わっていたいのに。。。
もう少し。。。。
その時、いきなり大きな銃声が聞こえた。
。。。と書くと何だか事件の始まりのようだけれど、そうではなくて猟師だった。
しばらく歩いていると猟師が3人まだ血の滴るウサギを両手に3羽ずつぶるさげて歩いているのに出会った。
それを車に放り込んではまた撃ち始めるのだ。
比較的近くで写真を撮っていた私は発砲されるたびに、私が兎ででもあるかのようにびくっとした。
そうして霧の中を夢見心地に歩き回った後、家に戻ってみると驚いたことに、少しの散歩のつもりが三時間も経過していた。
霧が時間を食べてしまったのにちがいない。
霧の魔法って、やっぱりあるんだね。