できることを、できる人が、できるかたちで

京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

大阪府PT試案への批判(2) 渡日生徒支援

2008-05-11 18:19:21 | ニュース

大阪府のPT試案を府庁ホームページからダウンロードして、ていねいにみていくと、一事業あたりの予算はせいぜい300~500万円程度と少額であっても、それがたとえば「行政と民間のパートナーシップ」としてみればモデル的な事業であったり、あるいは、大阪府下に暮らすマイノリティにとってはきわめて重要な事業であったりするケースがでてくる。

先日、ここで批判的に意見を述べた、学校における子どもの権利擁護関連の事業がそうであるし、今日、とりあげる大阪府教委の渡日生徒関連の事業予算の削減・廃止もそうである。

大阪府下には、アジア諸国や中南米諸国など、いろんな国・地域出身の親子が暮らしている。当然ながら、日本の学校生活になじむにあたって、子どもも保護者(親)も、自分の生まれ育った国や地域の学校文化や生活習慣、言語などが異なるわけだから、さまざまな面で困りごとがでてくる。こうした子どもや保護者の困りごとについて、在日外国人の教育にとりくむ教員団体や府下各自治体の教育委員会、国際交流関係の団体、NPOなどが連携して、さまざまなサポート活動を行っていくのが、府教委の「帰国・渡日児童生徒学校生活サポート事業」である。また、この事業を通じて、日本以外の国・地域出身の子どもや保護者への支援活動として、府下7ブロックごとに連携のための組織がつくられるとともに、多言語で学校生活に関する情報を提供する試みを行なったり、何か困りごとがあったときに母語で相談ができるような体制を整えたりしてきた。

また、特に最近増加傾向にあるアジア諸国から渡日する子どもとその保護者に対して、文化や生活習慣、言語などの違いに配慮しつつ、学校生活にうまくなじめるように適切にサポートを行なう相談員を養成する取り組みも、大阪府教委が今まで行なってきた。これが「アジア渡日児童生徒支援者養成事業」である。この事業は具体的にいえば、アジア諸国の文化や言語と日本の学校教育の状況に詳しい支援者を、さまざまな研修機会を整えることを通じて養成して、その支援者が積極的に渡日の子どもとその保護者からの相談に応じたり、学校の活動に協力したりする、というものである。

ちなみに、2008年度の当初の予算案でいえば、「帰国・渡日児童生徒学校生活サポート事業」が約374万円、「アジア渡日児童生徒支援者養成事業」が約306万円である。「たった」ということばがぴったり来るように私などは思うのだが、出身国・地域の異なる子どもたちの就学権を保障する営みのために、大阪府教委は民間団体や各自治体教育委員会、さらにはボランティアなどの協力を得ながら、とにかく、何か責任をはたそうと努力してきたわけである。

私などは、この両者のとりくみを、はずかしながら、このPT試案の中身を批判的に検討する中で知ることになった。検討していくなかで、「これは今後、本格的に発展させて、新たな学校ソーシャルワークの取り組みにまで持っていくべきではないのか?」とすら思う、アメリカの学校ソーシャルワーク論の文献などを見ても、文化・生活習慣の異なる子どもの学校生活への対応は、とても重要な活動領域であるからだ。

しかしながら、今、出されているPT試案では、「アジア渡日児童生徒支援者養成事業」の約306万円の予算は、大阪府の「廃止」、もうひとつの「帰国・渡日児童生徒学校生活サポート事業」の約374万円の予算は、約150万円にまで大幅減額である。

たぶん、この2事業に対するPT試案上の扱いについては、大阪府教委のこの事業の担当者や、今まで府教委と連携しながらさまざまな活動を続けてきた民間団体、教員団体、国際交流関連の団体、自治体教育委員会の関係者などは、相当な憤りを感じているはずである。

私もまた、あらためてPT試案の内容を検討しながら、「この予算まで削るのか? いったい、渡日の子どもや保護者の生活をどう考えているのか? 今までだってわずかな予算の範囲内でやりくりしながら、それでも渡日の子どもや保護者の生活が落ち着くよう、学校教育の面で行政と民間とが手をとりあいながら、地道に蓄積してきたことを、このPT試案でぶちこわしにしたいのか?」と言いたくなる。そして、「大阪府のPT試案を作っている人々は、こうした行政施策を通じてのマイノリティ支援の取り組みを、これからどのようにしたいと思っているのか? その施策がはたしてきた役割を、どのように考えているのか?」と、思ってしまう。

この2事業の予算は、それこそ、府立国際児童文学館や青少年会館、ドーンセンターなどのような大きな施設関連の予算ではないから、ほんとうに目立たない。だから、マスメディアなどの伝える情報にはなかなか、あがってこない。その分、人びとの注目も集めないし、反対の声もなかなかあがってこない。

しかし、金額的にはとても小さな予算であっても、その予算で営まれているさまざまな活動によって、今日も暮らしを支えられている人たちがいる。その人たちの暮らしについて、府の財政再建案を作っている人たちは、今、どれだけ想像力を働かせているのだろうか。また、そのわずかな予算を効果的に使って、行政と民間の連携体制を構築して、かかっている経費以上の効果を発揮しているという事業があれば、こうした予算を削減するのは、かえって府民サービス上、マイナスでしかない。

そして、マスメディアが報道するような大きな事業予算の廃止・縮小や公共施設の統廃合の問題の陰で、こうして地味で小さな事業だけど重要なものの存続を求めるような、そんな動きを今、私はしていきたい。大きな事業の廃止・縮小や公共施設の統廃合などは、いろんな人がすでに反対の意思表明をして、さまざまな形で抗議活動を行い始めた。今後もその動きに興味関心を持ち続けたいし、情報発信も続けるつもりだが、大きな動きはそちらのみなさんの動きを応援することにしたい。

とはいうものの、実際、日々の仕事などの合間を見て、こうした小さな事業だけど重要なものをPT試案からピックアップして、大阪府庁や府教委のホームページや各種文献など、いろんなルートで情報を集め、こうして批判的な意見を発信するのは、なかなか、手間ひまがかかるものである。誰か、お手伝いいただける方はいないのだろうか・・・・?

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