できることを、できる人が、できるかたちで

京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

これも「教育の地方分権」のかたち

2008-09-19 12:45:10 | 受験・学校
全国学力テスト、参加しません。―犬山市教育委員会の選択 全国学力テスト、参加しません。―犬山市教育委員会の選択
価格:¥ 1,260(税込)
発売日:2007-03

 橋下知事がマスメディアでさかんにあれこれいうように、まずは府教委や府知事の側から府下の各自治体教育委員会に、全国学力テストの結果の市町村別結果公表を迫っているのが、今の大阪府下ですすめられようとしている教育改革の取り組みです。また、昨今のマスメディアの伝えるところでは、これから先、大阪府下の学校改革のプランとして、学校選択制の導入などもあがってきたようです。そして、大阪府下のいくつかの自治体教委からは、橋下知事や大阪府教委の要請に答えて、学力テスト結果の公開に踏み切ろうとしているところもでてきたようです。

 ところが、日本全国で唯一、犬山市教育委員会は、全国学力テストそのものへの参加を拒否しました。また、その上で、これまで数年かけてきた自分たち独自の教育改革を、たとえば「自ら学ぶ力、学びあい、習熟度別ではない少人数授業、副読本作成、学校裁量による授業づくり・学級づくり、教師の自己改革と学校の自立、教育の地方自治」(以上は『全国学力テスト、参加しません。』のオビに書いていたことば)といった観点からすすめています。

 ちなみに、上に紹介した犬山市教育委員会編『全国学力テスト、参加しません。』(明石書店)は、全国学力テスト参加を拒否した理由を説明した本なのですが、そのなかには、次のような文章がありました(同書、40~42ページ)。犬山市教委の立場がどういうものであるのか、ここから伝わってくると思うので、引用しておきます。

「2005年12月、犬山市の教育委員会と校長会は、『2006年度の学びの学校づくりプラン』の作成を始めました。そのなかで私たちは、人格の完成をめざし、自ら学ぶ力を人格形成の重要な要素と位置づけたこれまでのとりくみをさらに推し進めていくことを確認し合いました。

 他方、2006年1月、文科省の『全国的な学力調査の実施方法等に関する専門家検討会議』は、『全国的な学力調査の具体的な実施方法等について(中間まとめ案)』を公表しました。この中間まとめ案では、結果の公表は競争激化・序列化を招くおそれがあると書かれているものの、『競争による教育改革』をすすめようとする政府の考えへの疑問と不安を払拭するものではありませんでした。教育の場に競争原理を導入して失敗した例は、これまで国内・国外を問わず報告されています。この競争原理は、犬山市教育委員会の教育観とは大きく異なるため、私たちは国(文部科学省)はすすめようとしている教育施策に強い危機感を抱きました。

 犬山の教育改革は、教育特区(特定の地域にだけ全国一律の規制を緩和・撤廃し特別な教育制度を認めるしくみ)でなければ実施できないという特別なものではなく、あくまでも現在の義務教育制度に則り、どこの地方でも実施できる教育改革であり、義務教育のあるべき姿を示そうとするものだったからです。画一的な全国学力テストや教員評価は、私たちの教育観と大きく異なり、これまで私たちがすすめてきた教育改革に逆行すると判断しました。このままでは、全国各地の学校教育が全国学力テストの結果にふりまわされ、日本の教育がとんでもない方向にすすんでしまうのではないかということを危惧したのです。」

 「教育の地方分権」の掛け声のもとで、大阪府下の各自治体教委が、何事も府知事や府教委の要請にこたえるのもひとつの道。でも、もう一方で、全国学力テストに関して、犬山市教委のように、自らの見識と取り組みに自信をもって、文部科学省の施策への協力を拒んだ自治体教委もある。そのことを、やっぱり、忘れないでほしいと思います。

 ところで、どうしても府庁記者クラブあたりで発表している情報を中心的に流しているのか、マスメディアでは橋下知事や大阪府教委サイド、あるいは、橋下知事や府教委の要請にこたえた自治体教委などの動きが中心的に伝えられる傾向にあるようです。

 しかし、例外的であることはまちがいないにせよ、日本全国の自治体のなかには、「そもそも全国学力テスト自体に参加しない」ことを決め、その学力テスト実施にともなう諸問題について、本を一冊書き上げてしまうような、そんな教育委員会があります。(実際、この本の随所に、そもそも全国学力テスト実施がなぜ問題かについて、個人情報保護や調査の趣旨、他の方法の可能性等も含め、あくまでも犬山市教委の立場からですが、いろんな角度からの見解が述べられています。)そのこともぜひ、橋下知事からの教育改革の提案に関連して、マスメディアで伝えてほしいと思います。

 今日の最後にひとつ、疑問です。今度就任される新しい大阪府の教育委員の方は、この本、読んでおられるのでしょうか・・・・?

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