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蜜蜂と遠雷

2019年02月06日 | 

国際ピアノコンクールを舞台に、音楽に魅せられた若きピアニストたちの挑戦と奮闘を描いた群像劇。2017年に直木賞と本屋大賞をダブル受賞しました。

恩田陸「蜜蜂と遠来」

一流ピアニストへの登竜門として注目されている、芳ヶ江国際ピアノコンクール。今年も国内外から話題のコンテスタントたちが集まっていました。養蜂家の父とともに各地を転々とし、自宅にピアノをもたない風間塵(16歳)。かつて天才ピアニストとしてデビューするも、母の死去以来ピアノが弾けなくなった栄伝亜夜(20歳)。

音大出身で楽器店に勤務している高島明石(28歳)。ジュリアード音楽院に在籍し、優勝候補と目されるマサル・C・レヴィ・アナトール(19歳)。他にも強豪が集う中、予選を勝ち抜き、本選で優勝するのははたして誰なのか...。

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昨年読んだ本ですが、遅ればせながら感想を...。上下2段で500ページ以上ある長編小説ですが、第1予選から第3予選、本選というコンクールの展開が、臨場感あふれる生き生きとした筆致で描かれていて、最後までわくわくしながら読み進めました。

本編の前に、課題曲に関する主催者の説明資料や、小説のメインとなる4人のコンテスタントが各予選、本選で弾いた曲が一覧になっているのも、リアリティがあって引き込まれました。(ただし最終頁にはコンクールの最終結果が書かれているので、ネタバレNGの方はご注意を)

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本作の魅力はなんといっても、緻密な人物描写、そして音楽描写。長編小説ということもありますが、4人のコンテスタントのキャラクター造形が丹念に描かれているので、読んでいるうちに彼らのイメージが自分の中にしっかりできあがり、行動や感じ方が手に取るようにわかるのが不思議でした。

4人のキャラクターと、彼らの選曲を見比べてみるのもおもしろい。特に選曲が私好みだったのが栄伝亜夜です。ショパンのバラード第1番や、ドビュッシーの喜びの島など、どれも好きな曲なので、彼女がどんな風に演奏したのだろうと想像しながら読むのが楽しかった。

そして目に見えない音楽を、これほど多彩な文章で表現していることへの驚き。まあ、結局のところ比喩のような表現になってしまうのは致し方がないですが、それでも情景を頭に浮かべながら音楽を”読む”ことは貴重な経験でした。

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この小説を映像化するのは難しいだろうな...と読んだ時には思いましたが、なんと今年の秋に映画が公開されるそうです。一度言語化された音楽を、今度はどうやって生身の音楽として表現していくのか。難しい作業になるでしょうね。

おそらくピアノの演奏部分は吹き替えになるのでしょうが、誰が演奏するのかも気になるところ。特に蜜蜂王子の風間塵は、コンクールの台風の目で、コンテスタントから審査員までいい意味で引っ掻き回す存在なので、どうなることやら...と今からにやにやしています。

この作品、4人のライバルが、互いを尊重し、高めあう存在というのがまたすてきなのです。他の人の演奏を聴くことで、自分自身と向き合い、自分の表現を研ぎ澄ましていくところがとても好きです。

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この本で唯一フィクションの課題曲「春と修羅」が映画ではどのように表現されるかも気になります。タイトルは宮沢賢治の詩集から来ているようですが、現代音楽でちょっと和のテイストが入った曲になるのかな?と勝手に想像しています。四者四様のカデンツァも楽しみです。

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