名優グレン・クローズがノーベル文学賞受賞作家の妻を演じる、サスペンスフルなヒューマンドラマです。
夫ジョゼフ(ジョナサン・プライス)がノーベル文学賞を授与されることになり、妻のジョーン(グレン・クローズ)と息子デヴィッドも同行し、授賞式が行われるストックホルムへと向かいます。セレモニーを前にジョゼフとジョーンはお祝いムードに包まれますが、2人には長年抱えてきたある秘密がありました...。
グレン・クローズの演技がとにかくすごいと聞いて、楽しみにしていた作品です。ジョゼフとジョーンが長年抱えてきたある秘密というのは、序盤でまもなく明らかになりますが、実はジョゼフがこれまで発表してきた作品は、すべてジョーンが書いていたというもの。
才能があり、若き日に作家を夢見ていたジョーンですが、女性の名では売れないという当時の状況もあり、ひょんなことからジョゼフのゴーストライターとして作品を発表し続けていたのです。
同じような設定の作品に、ティム・バートン監督の「ビッグアイズ」という、実話をもとにした映画がありました。本作は実話ではありませんが、妻が長年抱えてきた葛藤や怨念、心の叫びがひしひしと伝わってきて、同じ女性として考えさせられる深いドラマとなっていました。
本作は、夫がノーベル賞を受賞することになったことに嫉妬して「ほんとうは私が書いたのよ!!」と言い出した身勝手な女の話では決してないのです。彼女の積年の思いをくみ取ると、よくもまあ、ここまで連れ添ってきたと思いますが、時代背景もあるし、この夫婦にしかわからない機微もあるのでしょう。
そもそもジョゼフがジョーンの指導教授で、知り合った時に既に妻子がいたという時点で、この男がいかに信用できないかわかりそうなものですが、どうしてジョーンはジョゼフを好きになったのかな? ダメな男ほど愛おしいということでしょうか。しかも今も夫をかいがいしく世話し、浮気を黙認しているなんて。
ジョーンにとっては、自分の作品を発表するのにふさわしい”器”を見つけたということでしょうか。ふつうは人の書いたものを自分の作品だと発表するなんて、恥ずかしくてできないもの。ジョーンには、ジョゼフの軽薄さが必要だったのかもしれません。
ノーベル賞受賞者たちが集まっている時、ジョゼフはきっとむなしさをひしひしと感じていたでしょうね。世界の天才が集まっている時に、自分だけが偽物だという真実。思えば彼がこれまで味わってきた劣等感が、彼をジョーンへの裏切り行為へと掻き立てたのかもしれません。
2人の分業はこれまでうまくいってたのでしょう。でもそれも互いが互いを尊重しあってこそ。ジョゼフは”内助の功”なんて陳腐なことばでジョーンを語るべきではなかった。しかも「彼女は書けない」だなんて...これはジョーンはブチ切れて当然でしょう。
グレン・クローズの凄みのある演技は圧倒的でした。ジョーンは、誰にも自分が書いたとは一言も言っていません。それどころか、ジョゼフの伝記を書こうとしているジャーナリストには「彼の名誉を傷つけたら承知しないわよ」とさえ言っています。でも目ははっきりと真実を物語っていた...。大人のドラマを堪能しました。