クリント・イーストウッド監督の最新作は、ニューヨークタイムズの ”90歳の麻薬の運び屋” という記事に着想を得て作られたヒューマンドラマ。イーストウッド自ら主演を務め、ブラッドリー・クーパーが共演しています。
90歳の園芸家アール(クリント・イーストウッド)は長年家族を顧みず、デイリリーの栽培一筋に生きてきましたが、インターネットの波に勝てず事業に失敗。家を失い、家族からも見放されたところに、思いがけない仕事のオファーが来ます。それはメキシコの麻薬密売組織が扱うドラッグの運び屋でした...。
映画を知り尽くしたイーストウッド作品にはずれなし。本作も、笑いあり、涙あり、どきどきする展開あり...とすごくおもしろかったです。
アールはイーストウッドその人といった感じの、軽妙洒脱で女性にもてもてのおじいちゃん。デイリリーという一日だけ咲く特別なユリに魅せられ、何度も賞を取っている才能あふれる園芸家ですが、仕事のためにいつもおんぼろピックアップトラックで全米を走り回っていて、家族の大切な場面を蔑ろにしてきました。
妻とは別居?離婚?しているようですし、結婚式にも出てもらえなかった娘(イーストウッドの実の娘アリソン・イーストウッドが演じています)は怒ってアールとは口も利かないほど。唯一、孫娘だけはアールの味方をしてくれていましたが...。
そんなアールが一文無しになり、麻薬の運び屋を始めます。運転に自信があり、これまで一度も捕まったことがないというのが自慢のアール。
麻薬取締官のベイツ(ブラッドリー・クーパー)は、タタ(お爺さん)という名の運び屋を追いますが、なかなか捕まえることができません。まさか、90歳のおじいちゃんが毎月のように長距離運転して、何百キロもの麻薬を運んでいるとは思いもしませんものね。
映画ではアールが次々と繰り出すジョークや、飄々とした仕事ぶり、麻薬王のとんでもなくゴージャスな生活など、笑えるポイントがたくさん。一方、パンケーキハウスでアールとベイツがばったり会う場面ではビリビリと緊張が走りました。そしてクライマックスの捕り物劇。
家族とようやく和解したと思ったら、実は犯罪に手を染めていたなんて...。ふつうだったら縁を切られかねないですが、かつてあれほど父親を憎んでいた娘が、彼のすべてを受け入れるところは、罪を憎んで人を憎まず、家族の犯罪を恥とみなさないアメリカらしいな...と思いました。
それにしてもお金は魔物。一度大金を手にしてしまうと、犯罪をやめられなくなってしまうものなのでしょうね。もっとも麻薬組織がからむ危険なお金ですから、どちらにしても途中で抜けるなんてことは無理だったかもしれませんが。
あとアメリカにおいて、白人で男性であることは生きていく上での最強のパスポートだな...と実感しました。ラテン系というだけで警察から犯罪者と疑われる場面や、アールが悪意なくぽろっと口にする差別発言など、さりげなく今のリアルが描かれていました。