セレンディピティ ダイアリー

映画とアートの感想、食のあれこれ、旅とおでかけ。お探しの記事は、上の検索窓か、カテゴリーの各INDEXをご利用ください。

ROMA ローマ

2019年03月17日 | 映画

「ゼロ・グラビティ」(Gravity) のアルフォンソ・キュアロン監督による、1970年代のメキシコシティを舞台にした半自伝的ヒューマンドラマ。ヴェネツィア国際映画祭・金獅子賞ほか、ゴールデングローブ賞、アカデミー賞で外国語映画賞を受賞しました。

ROMA ローマ (Roma)

劇場公開ではなく、映像ストリーミングサービスの Netflix でのみ配信、ということでも話題になっていた本作。既にヨーロッパの映画賞で高い評価を得ていましたが、アカデミー賞では (劇場公開作品ではないので) 対象とすべきか、議論をよびました。スピルバーグ監督の意見に対する Netflix の回答も興味深かったです。

というわけで、映画は見たいけれど、そのために Netflix に入会するのもな~と躊躇していたところ、イオンシネマで限定公開されると知り、横浜の港北ニュータウンまで遠征してきました。その後、拡大上映することが決まったようです。(映画.com)

とにかく映像がすばらしい作品なので、できれば劇場の大きなスクリーンで見ることをお勧めしたいです。モノクロ映画ですが、最新の技術で撮影されているので解像度が高く、細部にわたって色のグラデーションがきれいでした。

前置きが長くなりました。^^; 

ほとんど予備知識なく見始めましたが、オープニングから意表を突かれました。タイルの上をざ~っと水が流れ、ブラシで床をこする音が聞こえる...というシーンがしばらく続きます。この穏やかな数分間で、ぐっと映画の世界に引き込まれました。やがてそこは、市街地にある家のガレージで、メイドさんが掃除をしているのだとわかります。

彼女の名前はクレオ。メキシコシティのコロニア・ローマという地区にある家で、ソフィア夫婦と4人の子どもたち、ソフィアの母、2人のメイドがいっしょに暮らしています。物語はクレオの目を通じて展開していきますが、見ているうちに、おそらく子どもたちのうちの一人が監督で、これはきっと監督の自伝的な物語なのだろうな...と気が付きました。

70年代のメキシコシティを舞台に、モノクロのノスタルジーあふれる映像で、何気ない日常が描かれます。インテリの夫婦と元気でのびのびとした子どもたち。クレオは家事や子どもたちの世話に明け暮れますが、家族の信頼は厚く、子どもたちもクレオのことが大好きです。

平和で穏やかな日々の中で、クレオはお腹に小さな命が宿っていることに気がつきます。ボーイフレンドのフェルミンに打ち明けるも逃げられ、くびになることを恐れて、雇い主のソフィアにもなかなか相談できずにいましたが、ソフィアはクレオの妊娠を心から喜び、彼女の事情を受け入れるのでした。

詳細については映画に委ねますが、無口で健気なクレオがとても愛おしく感じられました。若くして望まない妊娠で、子どもを受け入れる心の準備も整わない中、どれほど不安な気持ちでいたことか。彼女の中には、不幸な結果に安堵する気持ちと、そんな自分を責める気持ちとが葛藤していたのだと思います。

そうしたすべてが、浜辺でのあの一言に込められていた、と感じました。そしてそんなクレオを、やはり一言で丸ごと受け入れるソフィアの深い愛にも心打たれました。ソフィアはソフィアで、つらい思いを乗り越えようとしているところでしたが...。

この作品では、男たちが人でなしでだらしなく、女性たちが美しくたくましい。女性賛歌の作品だと思いました。監督を育ててくれた、母親とメイドさんに感謝をささげる作品でもあるのでしょうね。

おもしろかったのが、ソフィアの夫へのいら立ちを車の運転で表現していたこと。ガレージにぎりぎりぴったり駐車することに無上の喜びを見出す夫と、そのことがストレスになっていた妻。自分に合う車を手に入れたソフィアは、さばさばとしてうれしそうでした。

コメント (10)

お菓子の空き箱で ボックスフラワー

2019年03月16日 | 日々のこと

お世話になった方への小さなお礼に、お菓子の空き箱を使ってボックスフラワーを作りました。

きれいだなーと思ってとっておいた、いただきものの焼菓子の小箱。

箱の色に合わせて、お花屋さんで3束セットのサービスフラワーを購入しました。ペールオレンジの小さいバラ、それより少し濃いめ・少し大きめのオレンジ色のバラ、アクセントカラーにピンクとパープルのチューリップをそれぞれ選びました。

先日教わったやり方で、箱の中にアルミホイル、透明フィルム、水をたっぷり吸わせたオアシスをセットします。

あとはバランスを見ながら自由に挿していきます。家にあるアイビーもところどころに入れました。

角度を変えて見るとこんな感じ。

箱の本体とふたを重ねると、ツートンカラーがきれいです。

***

これはまた別の日。ガーベラやバラなど、ピンクのお花を使った春らしいアレンジメントを教わりました。ユリが開いたらもっと華やかになりそうです。細かいサクラコマチがなんとも愛らしい。

***

限定販売のようですが、キリンからグランドキリンという新しいクラフトビールのシリーズが出ていました。真ん中のIPA(インディア・ペールエール)は、以前ベルギービールのイベントで知ったビールです。

インドがイギリスの植民地だった18世紀、イギリスからインドにビールを輸送する際に、防腐剤代わりにホップの量を増やしたのがそもそもの始まりだとか。ホップが濃厚でアルコール度数がやや高いですが、苦味とコクがあっておいしいです。

右のホワイトエールは華やかさがあって、IPAよりはライトなお味。左のJPLはまだ飲んでいませんが楽しみです。

コメント (6)

OSTERIA dieci :麻布十番の北イタリア料理

2019年03月13日 | グルメ

映画のあと、麻布十番をぶらぶらと。裏通りにあるイタリアン、OSTERIA dieci (オステリア ディエチ) でお昼をいただきました。

お店は入り口からゆるやかな半地下となっていて、カーヴのような造り。テラコッタ色のしっくいの壁に、太い梁や石が埋め込まれ、イタリアの町の食堂を思わせる雰囲気です。

こちらでは北イタリアで修業されたシェフによる、イタリア北部の郷土料理がいただけます。オステリアは食堂、Dieciはイタリア語で数字の十を意味し、麻布十番から名づけられたそうです。

案内されて席に着くと、私たちの他に何組かお客さんがいましたが、みなさんわんちゃんといっしょに食事をしています。誰もがいっしょに食卓を囲むというイタリアの風習にならい、こちらのお店ではわんちゃんOKにしているそうですが、日本ではそうしたお店が少ないことから、遠くから訪ねてくる方もいらっしゃるそうです。

サラダと前菜の盛り合わせ。コッパ、プロシュート、ミラノサラミは、パリッとしたグリーンといっしょにいただきます。奥に見えるのはオリーブ、カポナータ、そして珍しいのがそら豆のムース(スフォルマート)。しっとりふわっとした食感でした。

スパゲティ・カヴァリーニ。アサリとカラスミのスパゲティですが、どちらもふんだんに入っていて贅沢なお味でした。カラスミの塩気がいいアクセントになっています。イタリアで直伝された看板メニューとのことでした。

私は本日のパスタをいただきました。この日は、サルシッチャとトマトソースのペンネでした。ひと口にカットされたサルシッチャは、まるで小さいミートボールといった感じ。ローズマリーが香ります。自家製のフォカッチャも絶品でした。

***

帰りは例によって裏道を散策しましたが、あちらこちらで桜が咲いていました。

麻布十番で見かけた桜。時期的に彼岸桜でしょうか。青い空にピンクが映えてきれい。

元麻布で見かけた桜。こちらは小ぶりのお花なので、おかめ桜かな? いよいよ春本番です。

コメント (6)

運び屋

2019年03月12日 | 映画

クリント・イーストウッド監督の最新作は、ニューヨークタイムズの ”90歳の麻薬の運び屋” という記事に着想を得て作られたヒューマンドラマ。イーストウッド自ら主演を務め、ブラッドリー・クーパーが共演しています。

運び屋 (The Mule)

90歳の園芸家アール(クリント・イーストウッド)は長年家族を顧みず、デイリリーの栽培一筋に生きてきましたが、インターネットの波に勝てず事業に失敗。家を失い、家族からも見放されたところに、思いがけない仕事のオファーが来ます。それはメキシコの麻薬密売組織が扱うドラッグの運び屋でした...。

映画を知り尽くしたイーストウッド作品にはずれなし。本作も、笑いあり、涙あり、どきどきする展開あり...とすごくおもしろかったです。

アールはイーストウッドその人といった感じの、軽妙洒脱で女性にもてもてのおじいちゃん。デイリリーという一日だけ咲く特別なユリに魅せられ、何度も賞を取っている才能あふれる園芸家ですが、仕事のためにいつもおんぼろピックアップトラックで全米を走り回っていて、家族の大切な場面を蔑ろにしてきました。

妻とは別居?離婚?しているようですし、結婚式にも出てもらえなかった娘(イーストウッドの実の娘アリソン・イーストウッドが演じています)は怒ってアールとは口も利かないほど。唯一、孫娘だけはアールの味方をしてくれていましたが...。

そんなアールが一文無しになり、麻薬の運び屋を始めます。運転に自信があり、これまで一度も捕まったことがないというのが自慢のアール。

麻薬取締官のベイツ(ブラッドリー・クーパー)は、タタ(お爺さん)という名の運び屋を追いますが、なかなか捕まえることができません。まさか、90歳のおじいちゃんが毎月のように長距離運転して、何百キロもの麻薬を運んでいるとは思いもしませんものね。

映画ではアールが次々と繰り出すジョークや、飄々とした仕事ぶり、麻薬王のとんでもなくゴージャスな生活など、笑えるポイントがたくさん。一方、パンケーキハウスでアールとベイツがばったり会う場面ではビリビリと緊張が走りました。そしてクライマックスの捕り物劇。

家族とようやく和解したと思ったら、実は犯罪に手を染めていたなんて...。ふつうだったら縁を切られかねないですが、かつてあれほど父親を憎んでいた娘が、彼のすべてを受け入れるところは、罪を憎んで人を憎まず、家族の犯罪を恥とみなさないアメリカらしいな...と思いました。

それにしてもお金は魔物。一度大金を手にしてしまうと、犯罪をやめられなくなってしまうものなのでしょうね。もっとも麻薬組織がからむ危険なお金ですから、どちらにしても途中で抜けるなんてことは無理だったかもしれませんが。

あとアメリカにおいて、白人で男性であることは生きていく上での最強のパスポートだな...と実感しました。ラテン系というだけで警察から犯罪者と疑われる場面や、アールが悪意なくぽろっと口にする差別発言など、さりげなく今のリアルが描かれていました。

コメント (10)

横浜 大倉山公園の梅

2019年03月10日 | おでかけ

今年の2月はいろいろあって、梅を見に行く余裕がなかったのですが、先日ふと思い立って、横浜の大倉山公園に梅を見に行こう、ということになりました。ピークはやや過ぎていたものの、遅咲きの梅が美しく、いいお花見になりました。

大倉山公園は、東急東横線の大倉山の駅から線路沿いに急な坂道を上った丘の上にあります。着いたのは夕方4時頃で、そろそろ日が傾いていましたが、人も少なくゆったり散策できました。

公園に入って木立を抜けると、ギリシャ風の白亜の洋館 大倉山記念館が現れます。実業家で東洋大学学長を務めた大倉邦彦氏が、大倉精神文化研究所として創設した建物で、のちに横浜市に寄贈されました。会議室やホールがあり、文化活動や展覧会、コンサートなどに使われています。

記念館からさらに歩くと、眼下のなだらかな斜面いっぱいにみごとな梅林が現れます。梅林はゆるやかな起伏を見せながらVの字に続いていて、まるでどこかの里山に来たような、のどかな風景でした。すでに陰り始めた日の光が、谷間に陰影を作っています。

遅咲きの白梅が、元気に溌剌と咲いていました。

愛らしいピンク色が、遠くからもひときわ目立った玉簾(たますだれ)。

ひとつの木から白とピンクの花が咲く無類絞り(むるいしぼり)。

ほんのりピンクがかった白梅。つぼみも愛らしい。

池に張り出す東屋と、しだれ梅の淡路枝垂(あわじしだれ)。花はほとんど散っていましたが、名残の梅もまた風流です。

梅ではありませんが... 同じ時期に咲く馬酔木(あしび)も大好きな花です。和服を着たお嬢さんの髪飾りのようです。

青空の下、凛々しく咲く白梅の玉英(ぎょくえい)。

真っ赤な梅は、鹿児島紅でしょうか。この色も好きです。

緑の萼(がく)がさわやかな月影(つきかげ)。

中には、幹が空洞になりながらも、のたうち回るように枝を広げ、花咲き誇る古木もあり、生きる力に圧倒されました。

コメント (2)

トッパンホール ランチタイムコンサート

2019年03月09日 | 舞台・音楽会

トッパンホールで定期的に開催されている、ランチタイムコンサート に行ってきました。

99回目となる今回は「天才モーツァルトへの憧憬と探求」と題し、原嶋 唯さんのピアノによるモーツァルトの「ピアノ協奏曲第12番 イ長調 K414」が演奏されました。といってもいっしょに演奏するのはオーケストラではなく、弦楽四重奏。これはモーツァルト自身によって弦楽四重奏に編曲されているのだそうです。

演奏するのは、渡邉ゆづきさん(ヴァイオリン)、土岐祐奈さん(ヴァイオリン)、田原綾子さん(ヴィオラ)、伊東裕さん(チェロ)という編成。いずれも若い才能あふれる演奏家たちですが、土岐さんは以前、国立新美術館のロビーコンサートでもお聴きしたことがあります。

木目の美しいホールは広すぎず、室内楽を聴くにはぴったりの空間でした。時間ぴったりに5人の演奏家たちがステージに現れましたが、4人の女性たちはドレスが水色、藤色、ワインカラーと色のハーモニーも完璧で、まるで花が咲いたようでした。小鳥がさえずるような美しいアンサンブルに心洗われ、しばし夢の時間をすごしました。

演奏時間は12時15分から30分間ちょうど。アンコールもありません。もう少し聴きたいなーという気持ちになりましたが、きっとお昼休みに来て、さくっと聴けるというのが、このコンサートのコンセプトなのでしょうね。チケットは事前にはがきでの申し込みが必要ですが、当日券もあるようです。

***

トッパンホールのすぐ近くには、学生時代の教科書でなじみのある出版社 朝倉書店があって、へ~と懐かしくなりました。それから目白通り沿いには「国産飛行機発祥の地」という碑も。初めて試験飛行したのは今の代々木公園ですが、日野熊蔵大尉が飛行機を作った会社がここにあったそうです。

それから江戸川橋駅のすぐ横には、日本で初めてフランスパンを作ったという「関口フランスパン」の支店がありました。こちらのラスクをよくくださる方がいて、以前から名前を覚えていたのです。いろいろ発見がある一日でした。^^

***

おまけに、最近作ったバナナの朝食から。

バナナとバニラアイスのダッチベイビー・パンケーキ

生地をスキレットに流して、オーブンで焼くタイプのパンケーキです。半割りにしたバナナとバニラアイスクリームをのせて、刻んで乾煎りしたくるみをぱらぱら。チョコレートクリームをささっとして、粉砂糖をふるいました。

バナナとピーナッツバターのトーストサンド

トーストした食パンの片側に甘みのあるピーナッツバター、もう片側に甘みのないピーナッツバターをぬり、縦に薄切りにしたバナナをはさみました。バナナとピーナッツバターは最強の組み合わせです♪

コメント (6)

欅くろさわ :黒澤明監督ゆかりのお蕎麦

2019年03月07日 | グルメ

映画のあとに、お昼をいただくことに。行こうと思ったお店があいにく予約でいっぱいだったので、予定を変更して、その途中にあるお蕎麦屋さんに入ることにしました。

いつも車で前を通っていますが、今まで気が付かなかった...。ビルの1階にあってあまり目立ちませんが、中に入ると古民家風の重厚な作りで、趣がありました。そして気が付けばあちこちに、黒澤明監督の写真や映画のポスターが飾ってあります。

よく見ればお店の名前は「欅くろさわ」。後から知ったところでは、黒澤監督のご子息の、黒澤久雄さんがプロデュースしているお店ということです。お昼のメニューはご飯ものもあってなかなか豊富。決めるのに時間がかかりました。^^

天そば膳。海老や野菜の天ぷらに、ごはんと小さなお蕎麦、小鉢などがつくセットです。

私は季節限定の、海老と春の山菜の天ぷらのつく冷たいお蕎麦をいただきました。天ぷらは海老のほか、たけのこ、ふきのとう、たらの芽、菜の花など。春の恵みをいっぱいいただきました。お蕎麦のゆで加減はややかため。しゃきっとさっぱり、おいしかったです。

近くのテーブルのから聞こえてきた話によると、このお店では豚ざるというのが名物のようです。豚肉の入った温かいおつゆに冷たいお蕎麦をつけていただくようで、武蔵野うどんのお蕎麦版かな?と想像しました。機会があれば食べてみたいです。

黒澤明監督の作品はほとんど見たことがありませんが、唯一、学校の芸術鑑賞で「デルス・ウザーラ」を見に行ったことがあります。場所は、今はなき横浜・関内の映画館。それまで映画といえば、娯楽作品しか見たことがなく、芸術系の映画を見たのはこれが初めてでした。

でも子ども心にもすごくおもしろくて、引き込まれました。まわりの級友たちも、それは同じだったようで、いい映画というのは、子どもの心にもちゃんと届くものなのだな...としみじみ思います。その後しばらく学校で、カピタン!が流行語になったのは言うまでもありません。^^

そんな思い出話をしていたら、帰りがけにお店の中にデルス・ウザーラのポスターがあることに気づいて、びっくりしました。いずれは、黒澤作品も少しずつ見ていきたいです。

コメント (6)

グリーンブック

2019年03月06日 | 映画

人種差別の残る1960年代のアメリカで、ニューヨークから南部をめざして演奏ツアーを行うことを決めた黒人ピアニストと、彼の運転手として雇われた白人運転手が、旅を通じて友情を深めていくロードムービー。「メリーに首ったけ」のピーター・ファレリーが監督を手掛け、ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリが共演しています。

グリーンブック (Green Book)

1962年、ニューヨーク。高級クラブのコパカバーナで用心棒として働くイタリア系白人のトニー(ヴィゴ・モーテンセン)は、その問題解決能力を買われ、カーネギーホールの上階に住む黒人ピアニスト、ドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)から演奏ツアーの運転手としてスカウトされます。

ニューヨークから中西部、そして人種差別が色濃く残るディープサウス(深南部)へ。デコボココンビの2人は、グリーンブック(黒人が利用できる施設が書かれた旅行ガイド)を頼りに、ドライヴ旅行に出発しますが...。

コパカバーナと聞いて思い出したのは、バリー・マニロウの大ヒット曲。しかも客を殴り倒すのがトニーだなんて!歌の通りではありませんか。^^ イタリア系の用心棒と聞いてゴッドファーザーを思い浮かべたら、ほんとうにトニーご本人が映画「ゴッドファーザー」にマフィア役で出ていたと知って驚きました。

本作は実際にあった話で、トニーの息子さんが製作に加わり、実在のエピソードが使われているそうです。60年代のアメリカや人種差別の歴史がわかりやすく描かれていて、多少教科書的なところもありますが、笑って泣けて、温かい気持ちになる、素直に感動できる作品でした。

演じるマハーシャラ・アリと、ヴィゴ・モーテンセンもすごくよかったです。マハーシャラはもともと知的な雰囲気のある役者さんですが、いつもは渋くてすてきなヴィゴが、かなり体重を増やして、粗野で別人のようになっていたのにはびっくりしました。でもヴィゴが演じるトニーは、ハートが温かくて心意気があってとても魅力的でした。

黒人がホテルで宿泊拒否されるのは、ジャッキー・ロビンソンの伝記映画「42」でも描かれていましたが、白人といっしょに旅をして、自分だけ同じホテルに泊まれなかったり、トイレが外にあったりするのはどれだけ屈辱的なことでしょう。そうした理不尽に会うたびに、シャーリーは決して誇りを捨てず、妥協せず、粘り強く交渉していきます。

何もそんな苦労をしてまで南部で演奏活動をしなくても、と思いますが、シャーリーにとってこれは社会を変えるためのひとつのチャレンジなのでしょうね。実際、シャーリーと旅をしていくうちに、人種差別主義者だったトニーが、シャーリーをひとりの人間として尊敬し、彼の名誉を守るために奮闘するようになるのですから。

いつもはけんかっ早いトニーが、シャーリーに迷惑がかからないよう怒りを抑える姿にもぐっと来ました。その彼が唯一警官をなぐったのが、自らのイタリア系という出自を汚された時。白人、黒人だけでなく、白人同士の微妙な差別も垣間見えるひとこまでした。

シャーリーはお金と教養があって、当時の黒人の中では異色の存在。カーネギーホールといえばファッション写真家のビル・カニンガムも住んでいましたが、それとは比べものにならないほど豪華なお部屋で、いったいシャーリーは何者?!となりました。しかもロバート・ケネディ司法長官にも顔が効くなんて。

彼の白人でもない、黒人でもない、家族もいない、という孤独な心を慰めるものは、トニーと出会うまでは、これまで音楽しかなかったのだろうな...と想像しました。トニーは逆にイタリア系の大家族の中でにぎやかに育ち、愛に恵まれてきた人。妻のドロリスに手紙を書くくだりは、すごく微笑ましかったです。

シャーリーが演奏する音楽が、クラシックでもジャズでもないアメリカ音楽ともいうべきもので興味深かったです。黒人がクラシックを演奏することへの周囲の偏見があったからかもしれませんが、当時のアメリカ人はあまりクラシックを聴かなかったとも聞いたことがあります。個人的には最後のバーでシャーリーが弾く、ショパンとジャズが一番よかったです。

フライドチキンという人種的にデリケートな食べ物を、ユーモアにからませて描いているのもうまかった。私がこのことを知ったのは、1997年のマスターズでタイガー・ウッズが最年少で優勝した時で、今も衝撃とともに覚えています。一方、トニーのピザ丸かじりには大笑いしました。^^

ニューヨークへの帰り道に、眠くて眠くてしかたのないトニーのためにシャーリーがとった行動。そしてクリスマスのエンディング。心地よい感動を味わいました。

コメント (12)

ピーナッツクリームの朝食 @三度目の殺人

2019年03月03日 | +映画のひとさら

映画「三度目の殺人」に出てくる、ピーナッツクリームが気になりました。

三隅(役所広司)の部屋にあったものですが、のちに咲江(広瀬すず)がパン屋さんでピーナッツクリームを買うところを見た重盛(福山雅治)は、同じものを買って三隅に差し入れします。三隅は「これ、大好きなんですよ」と喜び、それを受け取ります。

この一連のシーンにどんな意味が込められているのか?はわかりませんが、その後、拘置所の独房でコッペパンにピーナッツクリームをぬって食べる三隅は、なんともうれしそうでした。

ところで今回画像を探していて知ったのですが、モデルとなった丸十ベーカリーは横浜・蒔田にあるパン屋さんだそうです。ローカルな場所ですが、こういうレトロで趣のあるお店をよく見つけたなーと感心しました。残念ながら丸十ベーカリーは現在は閉店しているようです。

***

前置きが長くなりましたが、映画の三隅を思い出しながら、ピーナッツクリームの朝食を用意しました。

これは、お正月に房総を訪れた時に、ホテルの売店で見つけたピーナッツクリームです。千葉といえば落花生が名産ですが、このピーナッツクリームも最高においしかった! ますだの落花生さんの商品で、スイートタイプ、渋皮入りビター、無糖の3種類がありました。

三隅はコッペパンにピーナッツクリームをぬっていましたが、私は厚切りのトーストにビター、スイート2種類のピーナッツクリームをぬりました。三隅がほかに何を食べていたか、映画では判別できませんでしたが、私がこの日用意したのは紫キャベツのコールスロー、菜の花の蒸し焼き、モッツァレラ入りスクランブルドエッグ

そして愛媛産の天草(あまくさ)というオレンジです。長崎・天草島で生まれた品種で、清見、みかん、ページオレンジを交配して作られたとか。甘くてジューシー、口当たりが柔らかくておいしいです。最近は柑橘類の種類がたくさんありますが、どれもよく研究されていておいしいですね。

***

手持ちのピーナッツクリームがそろそろなくなるので、先日は六本木ヒルズのグランドフードホールでピーナッツバターを買いました。

その場でバターピーナッツを挽いて作ってくれるもので、素朴な食感が魅力。甘みが加えられていないので、そのままお料理にも使えます。トーストに使う時ははちみつと合わせてもいいですね。

私は今まで何でもピーナッツバターとよんでいましたが、商品名はピーナッツクリームとなっていることが多いようです?? 調べてみたところ日本では、ピーナッツだけでできているものをピーナッツバター、甘みなどが加えられているものをピーナッツクリームと、区別されているようです。

【関連記事】三度目の殺人 (2019-03-01)

コメント (6)

三度目の殺人

2019年03月01日 | 映画

是枝裕和監督、福山雅治さん主演の、2017年公開の法廷サスペンス映画。役所広司さん、広瀬すずさんが共演しています。

三度目の殺人 (The Third Murder)

30年前に殺人を犯した前科のある三隅(役所広司)は、解雇された工場の社長を殺害して火をつけたとして起訴されます。三隅は犯行を自供していて、死刑はほぼ確実と思われましたが、弁護を担当することになった重盛(福山雅治)は、なんとか無期懲役に持ち込もうと調査をはじめます...。

昨年TV放映していたのを遅まきながら録画で見ました。映画は、頬に血のついた三隅が、河川敷で何かを燃やしている場面から始まるので、犯人が最初からわかっているコロンボ形式の推理ドラマか?と思いましたが、そういうわけではないようです。

重盛は、三隅の30年前の事件を父親が担当していたという経緯から、先輩弁護士から頼まれ、三隅の弁護を引き受けます。弁護士というのは、どんな凶悪な犯人であっても、なるべく刑を軽くしようと手を尽くすのが仕事。エリート弁護士の重盛も、なんとか無期懲役に持ち込もうと奮闘します。

ところが三隅というのが、なかなかの曲者。すべてを重盛に明かすわけではなく、時に嘘もついているようです。達観して潔く刑を受け入れようとしているように見えますが、かといってほんとうに殺したかどうか疑わしい。困惑する重盛を、どこか高みの見物で楽しんでいる余裕すら感じられます。

はたして三隅はこの事件の真犯人なのでしょうか。

でもこの映画は、事件の真相を明らかにすることが目的ではないようです。まずはタイトルの意味するところですが、一度目の殺人は30年前に三隅が起こした事件、二度目の殺人は今回の殺人事件。そして三度目の殺人は三隅の死刑を指している、と私は受け止めました。

では誰が三隅を殺したのでしょう。私は最初は ”司法が三隅を殺した” つまりこの作品は司法の限界を描いた作品かと思いました。真実はひとつですが、弁護士の力量や、裁判長の判断で刑が左右されることに、疑問を唱えているのかな?と。

でも後で、三隅を殺したのは ”私たち” ではないかと思い当たりました。三隅は被害者の娘 咲江(広瀬すず)の犯行をかばっているのかもしれないし、あるいは咲江の代わりに殺したのかもしれません。いずれにしても、そのことが立証されれば、三隅の刑は軽くなるはずです。

でも弁護士だけでなく、公平を期するはずの検事も、咲江を法廷に呼ぼうとしませんでした。それは、真実を明らかにするよりも、咲江の未来を守ることを第一に考えたのだと思います。当の三隅が罪を受け入れようとしているのだから、それでいいではないか、という考えです。

私たちは時に、すべてを丸く収めるために、真実をほんの少し曲げることがあります。誰も傷つかず、みんなが納得するのであれば、それでよいではないかと。真実が必ずしも正しいとは限らないのだから...。

でもそれが、命に係わることだったら? たとえ三隅が納得していたとしても、冤罪によって死を受け入れることがあっていいのか。真相は藪の中ですが、割り切れないものを感じました。

【関連記事】ピーナッツクリームの朝食 @三度目の殺人 (2019-03-03)

コメント (6)