「専守防衛」が救援の足かせ 【湯浅博の世界読解】
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110427/plc11042707480004-n1.htm
1995年3月20日の朝、東京で地下鉄サリン事件が起きた。当時、ワシントンで「東京でとてつもない事件が起きた」と続報を待ち受けた。それから何時間が経過しただろう。米軍の化学処理隊が、電光石火の速さで連邦議会の前庭で派手な訓練を公開した。
日本で都市型テロが起こったのなら米国でも起こりうる。米国を敵視する国際テロ組織に、米国で化学兵器を使ってもムダだと思わせる対テロ抑止のデモンストレーションだった。
日本がオウム真理教によるサリン事件を忘れてしまっても、米海兵隊は専門の「化学・生物兵器事態対応部隊(CBIRF=シーバーフ)」をひそかに創設していた。
東日本大震災による福島第1原発の危機に、そのシーバーフ部隊の140人が横田基地に派遣された。部隊は横田基地で万一に備え、陸上自衛隊の中央特殊武器防護隊との訓練を実施していた。
米軍は他国の都市型テロでも、自国内で起きたことを想定して柔軟に組織化する。その手法を考えれば、今回の東日本大震災の緊急対応で日本は自衛隊のどんな点を補うべきなのか。
確かに、自衛隊の初動は早かった。艦隊司令官は、「動ける船はすべて出せ」と命じて、修理に入っていたヘリ搭載型護衛艦「ひゅうが」や海外訓練に向かうエアクッション艇搭載型輸送艦「おおすみ」も動員した。3・11の翌日未明には、20隻あまりが東北沿岸の沖合に入っていたという。その後の自衛隊の活躍は報道の通りである。
問題は自衛隊が「専守防衛」という狭い枠の中で組織されるから、島嶼(とうしょ)奪還作戦などに有用な水陸両用戦能力がないことだ。一気に兵員や車両を運ぶ大型高速船や輸送機が欠落している。
自衛隊には敵地攻撃能力がなく、陸海空すべての攻撃システムを米軍に依存している。米軍が攻撃の「矛」を担い、自衛隊は防衛の「盾」の役割だけを装備する。その弊害が、実は震災有事に表れる。
空自のC130輸送機に比べ、米軍のC17輸送機は約4倍の積載能力がある。沖縄の第15旅団は、車両40台を米軍嘉手納基地よりC17のべ10機で横田へ運び、陸路で宮城県の被災地に向かった。
強襲揚陸艦エセックスが中核の海兵隊主力は、寄港中のシンガポールから南シナ海を北上、わずか4日強で東北沖に達した。陸自は陸路を切り開きながら進むが、海兵隊は海から物資を運び上げた。輸送量とスピードで米軍にかなわない。
日米同盟の見事なチームプレーである。もっとも、中国は日米の紐帯に驚きはするが、自衛隊の決定的な弱点を見極めている。それは海から陸に接近する水陸両用戦略の欠落である。
日本は米軍の「トモダチ作戦」を歓迎し、日米同盟の重要性を改めて気づかされた。しかし、気がつけば米国への依存心が習い性となってしまった。
災害時の初動救援や奪われた島嶼奪還には、この水陸両用戦能力が不可欠になる。災害時には威力を発揮し、かつ戦争回避への抑止力になる。古き時代の「専守防衛」放棄を推すゆえんである。(東京特派員)
2011.4.27 07:47
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110427/plc11042707480004-n1.htm
1995年3月20日の朝、東京で地下鉄サリン事件が起きた。当時、ワシントンで「東京でとてつもない事件が起きた」と続報を待ち受けた。それから何時間が経過しただろう。米軍の化学処理隊が、電光石火の速さで連邦議会の前庭で派手な訓練を公開した。
日本で都市型テロが起こったのなら米国でも起こりうる。米国を敵視する国際テロ組織に、米国で化学兵器を使ってもムダだと思わせる対テロ抑止のデモンストレーションだった。
日本がオウム真理教によるサリン事件を忘れてしまっても、米海兵隊は専門の「化学・生物兵器事態対応部隊(CBIRF=シーバーフ)」をひそかに創設していた。
東日本大震災による福島第1原発の危機に、そのシーバーフ部隊の140人が横田基地に派遣された。部隊は横田基地で万一に備え、陸上自衛隊の中央特殊武器防護隊との訓練を実施していた。
米軍は他国の都市型テロでも、自国内で起きたことを想定して柔軟に組織化する。その手法を考えれば、今回の東日本大震災の緊急対応で日本は自衛隊のどんな点を補うべきなのか。
確かに、自衛隊の初動は早かった。艦隊司令官は、「動ける船はすべて出せ」と命じて、修理に入っていたヘリ搭載型護衛艦「ひゅうが」や海外訓練に向かうエアクッション艇搭載型輸送艦「おおすみ」も動員した。3・11の翌日未明には、20隻あまりが東北沿岸の沖合に入っていたという。その後の自衛隊の活躍は報道の通りである。
問題は自衛隊が「専守防衛」という狭い枠の中で組織されるから、島嶼(とうしょ)奪還作戦などに有用な水陸両用戦能力がないことだ。一気に兵員や車両を運ぶ大型高速船や輸送機が欠落している。
自衛隊には敵地攻撃能力がなく、陸海空すべての攻撃システムを米軍に依存している。米軍が攻撃の「矛」を担い、自衛隊は防衛の「盾」の役割だけを装備する。その弊害が、実は震災有事に表れる。
空自のC130輸送機に比べ、米軍のC17輸送機は約4倍の積載能力がある。沖縄の第15旅団は、車両40台を米軍嘉手納基地よりC17のべ10機で横田へ運び、陸路で宮城県の被災地に向かった。
強襲揚陸艦エセックスが中核の海兵隊主力は、寄港中のシンガポールから南シナ海を北上、わずか4日強で東北沖に達した。陸自は陸路を切り開きながら進むが、海兵隊は海から物資を運び上げた。輸送量とスピードで米軍にかなわない。
日米同盟の見事なチームプレーである。もっとも、中国は日米の紐帯に驚きはするが、自衛隊の決定的な弱点を見極めている。それは海から陸に接近する水陸両用戦略の欠落である。
日本は米軍の「トモダチ作戦」を歓迎し、日米同盟の重要性を改めて気づかされた。しかし、気がつけば米国への依存心が習い性となってしまった。
災害時の初動救援や奪われた島嶼奪還には、この水陸両用戦能力が不可欠になる。災害時には威力を発揮し、かつ戦争回避への抑止力になる。古き時代の「専守防衛」放棄を推すゆえんである。(東京特派員)
2011.4.27 07:47