読書日和

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「平成マシンガンズ」三並夏 -再読-

2018-07-08 18:23:08 | 小説


今回ご紹介するのは「平成マシンガンズ」(著:三並夏)です。

-----内容-----
逃げた母親、横暴な父親と愛人、そして戦場のような中学校……
逃げ場のないあたしの夢には毎週、死神が降臨する。
黒いTシャツにジーンズをはいた”そいつ”は、「誰でもいいから撃ってみろ」と、あたしにマシンガンを渡すのだが!?
言葉という武器で世界と対峙する、史上最年少15歳での衝撃の文藝賞受賞作。
「穴」を併録。

-----感想-----
※以前書いた「平成マシンガンズ」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。

三並夏さんが2005年に更新するまで、史上最年少での文藝賞受賞記録は綿矢りささん(17歳)が持っていました。
好きな作家の史上最年少記録が更新されたことで興味を持ったのが2005年当時「平成マシンガンズ」を読んだきっかけでした。
今回久しぶりに読んでみたくなり書店に行って文庫本を手に取りました。

「平成マシンガンズ」
語り手は中学一年生の内田朋美で、「あたし」という一人称で語られています。
冒頭から勢いの良い言葉で一気に物語に引き込まれました。
朋美が自身の身に起きたことを振り返る形で語り始めています。
語りは口語調で、~するんだ、笑っちゃうね、なのかもねなどの語尾がよくあります。
一文がとても長い時があり、さらにほとんど読点(、)を打たずにスピード重視の勢いのある文章になっているのも印象的です。

朋美は父にぞんざいに扱われていて、毎夜、父、父の愛人、家から逃げていった母、寂しさ、プライド、構ってほしいと思ってしまう自分の子供心と闘っています。
愛人は光浦カナコといい、家に残っているお菓子作りのキットや主婦向けの雑誌などの母の残骸を捨てさせようとするため朋美は苦々しく思っています。
朋美は父のことを嫌いになりきってはおらず、父の目が覚めてカナコを追い出してくれるのを期待しています。

友達でグループのリーダーでもある橋本リカは要領が良く先生からの印象も良く、女の子らしい反応を見せるため男子からの支持がとても高いですが女子からは妬まれています。
朋美はよくリカを慰める役をしています。
リカのグループに対し朋美は「それほどお互いを好き合っているわけではないけどあたしたちは無意識下、青春のおままごとに憧れを持っていてありもしない友情に縋って仲良し劇を演じ~」と語っていて、これは冷めているなと思いました。
またクラスの男子が愚痴を言っていた時に「適当に「言えてるね」と相槌を打ってあげた。」とあり、上から目線で物事を考えていると思いました。

リカと電話で話している時、「家の事情を相談するなんて絶対にしたくなかった。」とあり、リカが聞いてきても父の愛人のことは極力余計なことを話さないようにしていました。
これは相談したい気持ちも相談したくない気持ちも分かります。
自身の心の内に留めておくのは辛すぎて聞いてほしいと思えば相談すると思いますし、友達に父に愛人がいるという話をして変な風に思われたくないと思えば相談しないと思います。
さらに朋美の場合は友達を冷めた目で見ているため、最初から相談などするような相手ではないという気持ちも大きいのではと思います。

父の愛人のことを話したがらない朋美にリカが「うちら友達でしょ、言ってよ」と言いますがこの考えはおかしいと思います。
友達でも話したくないことはあると思います。
そして話したくないことを分かってあげ無理に聞き出そうとしたりはしないのが「友達」ではないかと思います。

朋美の夢には一週間に一回くらいのペースで死神が現れます。
死神は黒いマシンガンを朋美に渡し、誰でもいいから撃ってみろと言います。
私は死神がマシンガンを渡す夢が何を暗示しているのかが気になりました。

リカのグループのマキという子が愛人のことを聞いてきた時の朋美の受け答えがマキを激怒させ、それがきっかけで朋美はリカのグループから無視されるようになります。
すぐにクラス中から無視されるようになり学校が辛い場所になり、家に帰ってもカナコが居て嫌な思いをします。
朋美はカナコと敵対していますが、しかしカナコ相手なら学校で取り繕って話していたのとは違う本来の姿を出せているように見えます。

靴を隠された朋美は学校を休むことを決意します。
「あたしはこの決定打を待っていた。」とあり、クラスの子達に自分達のせいでクラスから不登校を出させたというプレッシャーをかけて意義のある休みにしたいと考えていました。
やられてもただでは不登校にならないこの意地は凄いと思います。
「かがみの孤城」(著:辻村深月、2018年第15回本屋大賞受賞)の感想記事で言及した真田美織という子を倒すための案と似た考え方です。

学校を休むと担任の先生が家に来ます。
担任の先生は朋美がクラス中から無視されていたのを知っていて、「何がいやなのか、どうすれば内田さんが学校に来れるようになるのか、教えてくれるかな?」と言いますがこの聞き方は最悪だと思います。
「原因を探り、原因への対策を講じる」という理論に則った聞き方ですが、これは政治問題や経済問題などとは違い、無視に遭って苦しむ人間の心の問題です。
「原因を言いなさい、そうすれば対策します」という理論だけに頼った聞き方は最悪と考えます。

朋美は3日後に学校に呼び出されます。
担任の先生は保険の先生を指差して「三村先生は心のカウンセリングもしていらっしゃるんだ。あなたの悩みも解決してくれるはずだから、なんでもいい、話してみなさい」と言いますがこれも酷い言い方だと思います。
最初から「あなたは病んでいるからカウンセリングを受けるべき」という前提で話していますが、そう見えたとしても「もし心に溜まっているものがあって誰かに話したいと思ったら、もちろん先生も聞くし、この学校で一番聞くのが得意な三村先生もいるよ。先生に言いずらかったら、三村先生に言ったのでも大丈夫だからね」のような言い方にしたほうが良いと思います。
また「あなたの悩みも解決してくれるはずだから」と言っていますがこれは簡単に解決できるとは限らないです。
人間の心は機械ではないので「この状態に対し、この対策をすればすぐ治る」といった簡単なものではないのが分かっていないのだと思います。
担任の先生の酷さはかなり印象的でした。

カナコは近々朋美の母になると言い、結婚が近いことを知らせてきます。
愕然とした朋美は家を飛び出して母の妙子のアパートに行きます。
そこしか頼れる場所がないとありました。
アパートに行くとカナコの弟の光浦宗太がカナコに頼まれ妙子に離婚届をもらいに来ていて、へらへらと話して掴みどころがない人でした。
妙子が帰ってくると朋美は「待ってたのに、二年間も、ずっと待ってたのに」と言いますが反応は冷たく、母に抱いていた幻想が打ち砕かれます。

夢の中に現れる死神は誰かを集中して打つようなことはせずみんなを同じだけ撃てと言っていました。
これは所詮この世はどうしようもない人ばかりなので(良い人もたくさんいると思いますが)、誰か一人を集中して撃ったとしても他の人に不快にさせられるので、みんなを撃ったほうが良いということかなと思います。

あたしはいつもよりずっと強く早く大人になりたいと願った。そうしたらこんな薄汚い奴らの手を離れて自分の力で地に足をつけていろんな我儘ができると思う。
私も10代の頃に早く大人になりたいと願ったことがありますが大人には大人の辛さがあると思います。
子供の時は早く大人になりたいと思い、大人になると子供時代は楽しかったと懐かしくなり、それが人生なのかなと思います。

ついに朋美は今を受け止めます。
父に対し今まで一度もきちんと話してくれなかったカナコのことを言う場面を見て朋美を頼もしく思いました。


「穴」
語り手は20歳の瀬野千穂で、物語は千穂の一人称で語られます。
千穂は高校を出てすぐ社会人になり経理の仕事をして三年目の春を迎えています。
冒頭、千穂はすみれに呼び出され、彼女の通う大学の近くのカフェでお茶を飲んでいます。

読み始めてすぐ、作品の雰囲気が落ち着いたと思いました。
文章に読点を打つようになり、さらに一つ一つの文章が短めになりました。
「平成マシンガンズ」がマシンガンのようなスピードのある文章で朋美が身の回りのことを考えて慌ただしい雰囲気だったのに対し、今回は穏やかに流れていく物語になっています。

やってきたすみれがとても華やかな女の子になっていて千穂は驚きます。
高校時代、すみれはいつも恋で悩んでいました。
そんなすみれを千穂は見守っていましたが、見守るだけでその渦に入ることは絶対になかったです。
「すみれの感じている日々の輝きを自分が共有できないことを知っていたから」とあり、自身とすみれの違いを強く意識しているのが分かりました。
すみれはもうすぐ結婚すると言います。

千穂は次の金曜の夜、商社で働いている八木橋とデートをします。
しかし八木橋とは結婚しないのだろうなと冷静に思っています。
わたしはいつも自分の気持ちを徹底的に疑ってしまう。愛情というものを信頼できなかった。
なぜ千穂が愛情を信頼できなくなったのか気になっていたら、両親の仲が悪いのが影響したことが分かりました。
わたしの家族はもうだめなのだ。とあり、「平成マシンガンズ」でも家族の不仲が描かれていたのが思い浮かびました。
三並夏さんにとって家族の不仲は重要なテーマかも知れないと思いました。

短大を卒業して去年採用された花村という女性は後輩ですが年上で、千穂は敬語でなくて良いのですが敬語で話しています。
これは私も同じ状況で敬語で話していたのでよく分かります。
千穂は土曜日に花村と一緒に映画を観に行きます。
花村はメールをすぐ返さないと不安になると言っていて、「高校の頃のせいかな。なんか返事遅いと、きらわれるみたいな感じなかったですか、あの頃」と言っていました。
「穴」が発表されてから8年近く経った現在ではLINEでの似たトラブルがよく聞かれるようになりました。
LINEは自身が送ったメッセージを相手が未読か既読かが分かるとのことで、既読なのに返信がないとトラブルになりやすいようです。
「既読ならすぐに返事を返すべきだ。それを返さないとは、お前は友達ではない」という形で無視が始まったりするようですが、この主張に対しては「24時間体制でお前に尽くすために存在しているわけではない」と反論します。
こちらにはこちらの済ますべき用事があり、読んでもすぐには返信できないこともあるのですから、それを分かり合えるのが「友達」ではと思います。

次の週末、千穂は秋岡という31歳の女性の先輩の部屋に行きます。
その時に興味深いことを語っていました。
わたしはボタンを連打するようにして人と話す。ただひたすらに、決められたコマンドを入力する。だからたまに、ほんとうに誰かを称えたいとき、言葉が見つからない。
これは寂しいと思います。
無難な言葉で話し続けた先にある寂しさだと思います。

わたしは、心の底にある言葉じゃない言葉で話すくせがついている。
これも印象的な言葉で、常に仮初めの言葉で話しているとどこか自身に虚無感を感じるのではと思います。

千穂は2年ぶりに高校の同窓会に行きます。
この同窓会はすみれの結婚式の余興をどうするか話すものでした。
千穂は同窓会でも敬語を使っていて、わたしは不器用だ。場面によってスイッチを変えられない。と胸中で語っていました。
これは私も普段敬語を使っている影響で同窓会でも敬語になったことがあるので分かります。

千穂は深い穴の中で足をくじいて動けなくなっている人をずっと傍で見てきたとあり、両親のことだと思います。
そのことが原因で、幸せを信じてダッシュし続けて落とし穴に気づけなかったらどうするのだと恐れるようになりました。
最初から幸せを求めないようになったのだと思います。

梅雨になり、千穂は結婚式を控えたすみれと久々にお昼を食べます。
「不思議だった。数ヶ月前に会ったときよりも、すみれを遠く感じた。」とあり、これはすみれが幸せに向かって走って行っているためそう感じるのだと思います。

物語が穏やかに流れるように感じるのは、千穂がとても冷めているのもあると思います。
仙人のように見え、「平成マシンガンズ」の朋美のスピードのある語りとはまるで違いました。


「平成マシンガンズ」を初めて読んだ時、「文藝 2005年冬号」に掲載された三並夏さんの受賞の言葉に「腹を括りました」という言葉があり嫌な予感がしました。
本当に腹を括っている人は「私は腹を括りました」とアピールしたりはしないだろうと思いました。
嫌な予感は現実となり、三並夏さんは「平成マシンガンズ」の後に2018年まで13年間新作の単行本を出せていないです。
しかしたまに短編を書くことはあり、「穴」が発表されたのは「文藝 2010年冬号」で、5年経って穏やかな文章を書くようになり新たな一面を見ることができました。
執筆で苦しい時間をたくさん過ごしていると思いますがたまに短編を書けているのは良かったです。

文庫本の解説が島本理生さんなのは買ってから知りました。
「平成マシンガンズ」を再読したいと思いましたが、直前に島本理生さんの「ファーストラヴ」を読んでいて、島本理生さんに引き付けられて今回この作品を手に取ったのかも知れないです。
島本理生さんは解説で作者の新作を切望していると書いていました。
私も三並夏さんの新作の単行本による復活を待ち望んでいます


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