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高峰秀子さんが逝ってしまった。(似顔絵・高峰秀子さん) (portrait HIDEKO TAKAMINE)

高峰秀子さんが逝ってしまった。
私の尊敬する女優の逝去に
言葉がみつからない。
私は戦後生まれだから、高峰さんの最盛期を
リアルタイムで経験したわけではない。
しかし、大学生の時にリバイバル上映で見た
「名もなく貧しく美しく」にすさまじい衝撃を受けて、
そののち週刊朝日に連載された「わたしの渡世日記」を毎週貪るように読み、
すっかり高峰さんのファンになった。
というより、人間の持つ表情の美しさ、というものが
私の脳裏に深く刻印されて、物の見方が一変したのだ。
高峰さんは、私の心の恩人である。
彼女の演技は、性別などというものを超越して、
見る者の心に訴えかけてくるもので、
こんな演技をする人は後にも先にも、
国内国外を問わず、
彼女以外に知らない。
「二十四の瞳」の大石先生役。
教え子の松枝が貧しさゆえに一家離散となり、
四国の金毘羅様の近くのうどん屋で働いているところを、
修学旅行の引率に来た大石先生が偶然発見する。
大阪に奉公に言ったと聞いていたのに、こんなところで働いていたとは。
わが身のみじめさに、うつむくばかりの松枝に向かって
先生は、先のイラストに描いたような表情で見つめたあと「さよなら。」と言うのだ。
こんな慈愛に満ちたまなざしを、他の誰ができるのだろう。
他にも忘れられない演技をたくさん見せてくれた。

私はこれからも高峰さんの似顔絵を描き続けたいと思う。
私の絵の原点だし、
彼女の映画を見、
その演技を描き写すことによって、精神的に何度も救われたのだから。
高峰さん、本当にありがとうございました。
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