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ブログ版 シュプリッターエコー

心の奥行き――芦田はるみ詩集  雲ひとつ見つけた

2008-04-20 18:44:07 | 本、文学、古書店
 ぼくたちはそのようなちっちゃな子供たちのことを「灰の子」と呼んでいました。
 芦田はるみさんが育った地域では「たまご」といっていたようです。
 詩集「雲ひとつ見つけた」の中に収められた作品「たまごだったころ」にはそのことが書かれています。

 たぶん3歳くらいの幼児たちのことだったろうと思います。
 カクレンボやオニゴッコやカンケリや、界わいの子供たちがおおぜい集まって路地や通りで遊んでいたころのことです。

 幼いこどもたちにはまだ遊びのルールがのみこめませんから、げんみつに言うと一緒に走り回るのはムリなのです。
 けれど、そのころの年長の少年少女、といっても小学校の四年生にもなれば、もう立派な年長生だったのですが、この年長生たちは、決してこれら幼児たちをのけものにしませんでした。
 「灰の子」あるいは「たまご」という“資格”で遊びに誘い入れていたのです。

 「灰の子」さんや「たまご」さんは、なにをしても自由でした。
 オニにされることはありません。
 みんなが走り回り飛び回っているなかで、マイペースで走ったり跳んだりしているというわけです。
 そうして、しっかり遊びに参加していました。

 あのころの少年少女たちは心に奥行きがあったなあ、と思うのは、カクレンボにしろオニゴッコにしろカンケリにしろ、それらを自分たちのルールで楽しみながら、一方で幼児たちがさびしい思いをしないように、ケガをしないように、といつも心のどこかで気をくばっていたことです。

 そんな光景を芦田さんは黄色いリボンの女児を主人公にこんな詩句に写しています。
 「おにいちゃんが走る/おんなのこもずっとおくれて走る/みんなといっしょに走る/だれもでんはしない/黄色のリボンもうれしそう」

 明るい光の中で心の動きがみずみずしく透けるような、そんな詩集です。

 編集工房ノア刊。2000円。問い合わせ06.6373.3641