映像作品とクラシック音楽と言いつつ、純然たる現代音楽のCDレビューです。
私、これまでバレないように細心の注意を払って文を書いてきましたが実はジョン・ウィリアムズが大好きでして、90歳になろうかという巨匠が映画と関係ない曲を書くと言うので、遺言みたいなもんだろうと思いリリースされたCDを買って聴いてみることにしたわけです。
バイオリンはアンネ=ゾフィー・ムターさんで、アルバムでウィリアムズとコラボするのはウィーンフィルライブを合わせて3回目ですか?
しかもこれまでは過去の自身の映画音楽をバイオリン独奏付きに編曲していたものだったのですが、今回は映画と関係ない純音楽としての新曲となるわけです。アンネ=ゾフィーのために作った曲なわけです。こいつはいよいよ本格的に惚れたな…と思ってしまいます。(不勉強なんですがもしかして第1番もムターさんのための曲ですか?)
遡れば2人の出会いは、アンネ=ゾフィーが元夫のアンドレ・プレヴィンに、「ねえねえ私ジョンウィリアムズ好きなんだけど、あんた仲良いんでしょ?紹介してよ」と言ったことから始まったそうで、スターウォーズの回でも書きましたがジョン・ウィリアムズがロンドン交響楽団との邂逅を果たしたのも多分プレヴィンが裏で尽力したからで、良き友を得たものですね。
それはさておき、新曲のバイオリン協奏曲第2番はどんな曲よ?と聞いてみます。
そりゃ私たちは『スターウォーズ』や『E.T.』みたいな華やかな曲を期待するわけです。
ところがどっこい、第一楽章「Prologue」からおどろおどろしい陰鬱な曲が展開されて、そのウィリアムズらしくなさに驚くのです。
考えてみれば華やかな音楽なんて映画で散々書いてきたウィリアムズが、自分に依頼の来るような映画では絶対に書かないようなダークトーンな曲を書きたがるのも、それはそれでわかる気がします。彼が音楽で言い残したことがあるとすれば、そうした苦悩の淵に沈み込むような表現だったのかもしれません。
まあ『シンドラーのリスト』のサントラだよと言われたらぎりぎり信じるかもしれませんが、やっぱりあのウェットな感じともまた違いますよね。
しかしそうは言ってもあちこちに「ウィリアムズ節」は顔を出します。
第一楽章だと3:50あたりや、8:50あたりからの弦楽器群の重ね方に、ウィリアムズのサントラでよく耳にしたようなサウンドを感じます。
しかし、映画でもあまりやらないような激しく打たれるパーカッションが一瞬希望を聴いた聴衆を容赦なく危機感あるいは焦燥感に突き落とすのです。そして後にはか細くアンネ=ゾフィーさんのバイオリンの音が残るのです。いったいこの後どんな曲になるのやらと怖いもの見たさ的な感覚で曲の成り行きを見守るのです。
第二楽章「Rounds」になると重苦しかった第一楽章と異なりこちらはやや忙しげにバイオリンがかき鳴らされるのです。出だしこそ少しだけウィリアムズの過去の映画音楽に近い雰囲気(『サユリ』あたりの雰囲気)がありますが、やはり聴衆に寄り添うような映画音楽とは異なり、聴衆を音楽の力だけで急き立てるような切迫感があります。しかし曲の後半になると疲れ切って立ち止まってしまったかのようにバイオリンの旋律は歩をゆるめ、音色も内向きに響いているように聞こえます。ところが2楽章の終わりの方では再び忙しくオケが捲し立てて、バイオリンも負けじと走り出します。急緩急の構成なわけですが、ウィリアムズ作品のエンドクレジットみたいですね。
第三楽章「Dactyls」はティンパニとバイオリンの掛け合いが面白く、ウィリアムズの過去作品を思い返して似たような曲が思いつきません。この後の楽章が「Epilogue」としているところから思うに、この三楽章が映画で言えばクライマックスなんでしょうか。見えない何かと闘っているような、それでいてオケは厚くならないので、精神的な葛藤を表現しているのではないかと勝手に想像します。
そして第四楽章「Epilogue」
闘い終わったその後…と言ったところでしょうか。しかし、ウィリアムズがよく曲を書くようなハリウッド大作的な壮快さは微塵もなく、なにか粉々になった心というか、廃墟のような情景が目に浮かぶような曲です。
映画音楽家としては大概のことをやり尽くした巨匠が、純粋に音楽にぶつけたら、聴いていて気持ちの下がる曲ができたわけですが、それでいて全曲通じてたいへんドラマチックで映画音楽とは別種の感動があります。
アンネ=ゾフィー・ムターさんの表現力もこの曲に不可欠だったのだと思います。
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そしておまけ収録されている3曲の映画音楽も良いですね
ロバート・アルトマン監督の1973年作品『ロンググッドバイ』のテーマ。映画は見たことないんですが、フィリップ・マーローもののハードボイルド 映画ですね。70年代ウィリアムズらしいジャズ調の旋律が「バイオリン協奏曲」で疲弊した心に癒しのように響いてきます。
かつてはアルトマンの映画で音楽やっていたんですね。『ロンググッドバイ』以降アルトマンとウィリアムズのコラボはありません。基本的に軽いノリのアルトマン、音楽に頼らない話術の映画文法を求めたアルトマンですから、80年代以降の巨匠化したウィリアムズの音楽は合わなかったんでしょう。
そして『SW帝国の逆襲』より、「ハンソロと王女」が良いですね。ハンとレイアのラブテーマとして、『帝国の逆襲』では随所で響いていたのに、以降の作品ではほとんど奏でられなかった曲です。それを私の知る限り初の「シングルカット」です。『帝国』のエンドタイトルで組曲的にフルオーケストラ版を聴くことはできるのですが、この曲だけ単独で演奏されるのを聴くのは帝国のサントラを浴びるほど聴いていたあの頃から数えてうん10年ごしの悲願達成って感じで、なんだか生きてて良かった感があります。
そしてまたまたラブテーマ。ウィーンライブでもベルリンコンサートでも演奏した『レイダース失われた聖櫃』よりマリオンのテーマです。
ど定番の曲をアルバムの最後に持ってくるのは、まあ、あれでしょうね。コンサートのアンコール曲ってところでしょうね。
などと、なんだか結局アルバムとしてメインの新曲バイオリン協奏曲より、おまけの映画音楽の方が感動してしまいました。
これはこれでジョン・ウィリアムズの偉大さを物語っていると言えるでしょう!
てなところで、長文お付き合い頂きありがとうございました
また、素晴らしいクラシック音楽だったり映画音楽だったりでお会いしましょう!