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映像作品とクラシック音楽 第24回 『ブラス!』

2021-07-08 23:08:00 | 映像作品とクラシック音楽

お疲れ様です。クラシック音楽が印象的な映像作品についてあーじゃこーじゃと語るシリーズ。今回は、クラシック鑑賞部屋としてはやや変則的かもしれませんが、ブラスバンドの響きが爽快な感動作、イギリス映画の『ブラス!』(1996 マーク・ハーマン監督)と、そのサントラを紹介してみたいと思います。



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ここ30年くらい、イギリス映画は安定して面白いなと思っております。

イギリス映画には色々と鉄板ジャンルがありまして、王室もの、シェークスピアもの、ロックミュージシャンもの、イカれた奴らがドラッグキメまくるものなど色々あるのですが、そしてもう一つ、なぜかイギリス映画界が世界中で飛び抜けているジャンルが、貧しい労働者が頑張る映画。労働者もの。

世界が右傾化して我が国はじめ多くの先進国で絶滅危惧種に指定されたこのジャンルの、しかも傑作の数々を、なぜかイギリスが安定供給し続けています。



振り返ってみましょう。

失業したおっさん達がヌードショウで人生逆転を計る『フルモンティ』(1997 ピーター・カッタネオ監督)

デモとストに明け暮れるさびれた炭鉱町でダンサーを目指す少年の物語『リトル・ダンサー』(2000 スティーブン・ダルドリー監督)

LGBTQの活動家たちが炭鉱ストを支援する『パレードへようこそ』(2014 マシュー・ウォーチャス監督)

そして一貫してブルーカラーの目線で映画を作り続けるケン・ローチ監督が、高齢による引退を撤回して新自由主義の歪みを糾弾する『私は、ダニエル・ブレイク』(2016)と『家族を想うとき』(2019)(映画で滅多に泣かない私が号泣した2作品です!)


余談ですがこうしたイギリス労働者映画は結構日本映画に影響を与えているように思えます。『ウォーターボーイズ』(2001 矢口史靖監督)は物語展開が『フルモンティ』によく似ていますし、『フラガール』(2006 李相日監督)の物語は『リトルダンサー』によく似ています。


そして今回紹介する『ブラス!』(1996年マーク・ハーマン監督)もそんなイギリス労働者映画の系譜に連なる傑作です。それでいてブラスバンド演奏を堪能できる素晴らしい音楽映画です。クラシック好きも楽しめること請け合いです。



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【ストーリー】

イギリスはヨークシャーの炭鉱町。労働者を解雇し炭鉱を潰そうとする会社と、炭鉱を存続させようとする組合が対立している中、主に炭鉱夫たちで構成されるブラスバンドは、地方予選を勝ち上がり初の全国大会に進もうとしていました。最年長でリーダーで指揮者のダニーは体調がすぐれない中、メンバーのケツをたたいて猛練習させようとします。

しかしバンドメンバーは炭鉱が潰れて失業するんではと気が気でなく、それでなくても生活が厳しいメンバーからはバンド解散の声もチラホラ。

そんな中、ダニーの親友だった男の娘グロリアがロンドンからひょっこり戻ってきて新たなメンバーに入ったもんだから、おっさんたちちょっと色気出しちゃって、バンドを頑張ります。

若手メンバーのラッパ吹きのアンディは14のガキの頃グロリアとキスしたことを忘れられず初恋再燃のきざし。

トロンボーン担当のダニーの息子フィルは借金のかたに家を取られそうで、トロンボーンもぶっ壊れかけてるのをだましだまし使ってます。


炭鉱存続か、事実上の炭鉱閉鎖にあたる早期退社案のどちらをとるかの組合投票の日は奇しくも、ブラスバンドヨークシャー地区予選決勝当日。

ダニーたちのバンドは見事に優勝を決めロンドンの全国大会出場の切符を手にするのです。しかし、地元に帰ってみると組合投票は炭鉱閉鎖案の勝ちとなっていました。炭鉱が閉鎖され収入源が途切れたらバンドは解散せざるを得ません。ロンドン遠征にかかる3000ポンドもの大金を用意できるはずもない。しかも、指揮者のダニーの体調はボロボロでついに倒れてしまい、フィルは借金のかたに家を取られ、妻子にも出て行かれ自殺未遂をはかります。そしてグロリアは会社の経営陣側の人間だったことがわかり

何もかも失い、何もかも諦めた中、ダニーの見舞いのために最後の演奏をしようとメンバーたちが集まりますそしてさまざまな想いが一つにつながり、皆でロンドンの決勝大会に最後の希望をかけて行くことになるのです。



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というような物語。

どん底まで落ちてから待っている鮮やかなハッピーエンドに心から感動できますし、全ての感動シーンでブラスバンドの演奏が見事にシンクロしてきて、感動さらに倍って感じです。



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そんな名曲の数々を堪能できる「ブラス!」サントラも、ぜひこちらのグループで紹介させてください。今は中古でしか買えないですが

クライマックスの全国大会で奏でられるロッシーニ「ウィリアム・テル序曲」のブラスバンド版の爽快なこと!色んなものを失ったメンバーたちがその鬱憤を晴らすように吹き鳴らす渾身の演奏に魂が熱くなります。

そしてエンドロールでロンドンの街をオープンバスで周りながら演奏するエルガー「威風堂々」がまた心に沁みます。


「ブラス!」のサントラは他にも「デス・オア・グローリー」「アランフェス協奏曲」「ダニー・ボーイ」などなど映画を盛り上げた名演の数々を堪能できます。

「ダニーボーイ」はダニーの入院する病院に集まったメンバーがバンドの最後の演奏として奏でるのですが、このシーンの万巻の思いのメンバーたちと病床で聞くダニーの表情を観ていると泣けます。

映画だと自分のテナーホーンをギャンブルの負けで失ったアンディが口笛で参加しているのがまた沁みます。


演奏はグライムソープ・コリアリー・バンド。私はあまり詳しくはないですが、ブラスバンドの世界ではかなり有名なバンドとの事ですが、サントラでもそのスカッとする演奏に心持ってかれます。


というわけでブラスバンドによるパンチの効いた演奏も良いですよね!

イギリス映画万歳!


そんなところでまた、映画とクラシック音楽でお会いしましょう







バンドリーダーで指揮者のダニーを演じるのはピート・ポッスルスウェイト。『父の祈りを』のお父さんで、スピルバーグにも好かれて『ロストワールド/ジュラシックパーク』の恐竜ハンターと『アミスタッド』の悪者検事役に連続出演。2011年に64歳で亡くなっております。もっと色々観たかった最高の俳優ですね。






若手メンバーのラッパ吹きのアンディは、俺たちのイモ兄ちゃんユアン・マクレガー。この時すでに「トレインスポッティングのあいつ」としてイギリス映画ファンにはお馴染みだった彼ですが、本作の3年後には『スターウォーズ』新三部作でオビワン・ケノービを演じることになります。しかしユアンの凄いところはオビワンを演じきった後も、今に至るまで「近所のイモ兄ちゃん」感を維持しているところですね。



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