クラシック音楽が印象的な映像作品について語るということで書いてまいりましたが、今回はついこないだ発売されたばかりのアルバム「ジョン・ウィリアムズ・ベルリンコンサート」について語り倒そうと思います。
感想としましては、ベルリンフィルすげ〜な!!に尽きます。
単純にコンサートプログラムとしてなら2020年のウィーンライブの方がいいと思うのです。定番曲を網羅しつつも、アンネ=ゾフィー・ムターみたいな大物担ぎ出していつもと違う感じも楽しませて。
その点ベルリンコンサートはプログラムだけ見ると新鮮さや面白味に欠ける気もしますが、ベルリンフィルの壮絶な演奏により、いつものジョン・ウィリアムズサウンドが怒涛の迫力となって襲いかかってきます。
横綱相撲というか王者の風格というか、4年前のショーン・ホワイトや羽生結弦くんやカーリング女子スウェーデンチームを思わせる誰も敵わない別次元の凄さを見せつけてくれます。
ロンドン響やボストンポップスのジョン・ウィリアムズサウンドに慣れていた身からすると、ウィーンフィルとの演奏は今までと同じ感じの安心感があったのですが、ベルリンフィルはお馴染みの曲まで全く違うように聞こえてきます!
特にスーパーマンが…
そんなJWファンなら絶対に外せない壮絶ベルリンコンサートのブルーレイ&CDの感想を書き倒そうかと思います。
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それにしましてもジョン・ウィリアムズ元気ですね。
2時間近いコンサートをずっと立って指揮して、曲の合間にトークを挟み、さらに「ベルリンから帰ったらインディ5の作曲に取り掛かります。休む暇もない。やれやれだぜ」みたいなことを言ってました。
コンサートは2021年の10月だからもうとっくに録音まで終わってる頃でしょうか。
こんな元気な当時89歳、ハリウッドだとほかにはクリント・イーストウッドくらいでしょう(昔クリント監督の『アイガー・サンクション』の音楽をジョン・ウィリアムズが担当しておりました)。
ゴールドスミスもモリコーネも逝ってしまいオールドスタイルの映画音楽の最後の砦な感じのJWですが、まだまだ若い奴らにゆずるわけにはいかんといいいますか、立ちはだかってくれそうです。
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コンサートの1曲目は「オリンピックファンファーレ」です。久しぶりに聴きましたがやっぱいい曲ですよね。
そして2曲目が「未知との遭遇・抜粋」となるわけです。
どうやらコンサートの2曲目に未知との遭遇持ってくるのがJWのお決まりパターンなんですね。ウィーンライブもそうだし、そういえば私がフィラデルフィアで聴いたコンサートも2曲目に未知との遭遇でした。
ツカミの曲なんですね。
何度となく聴いた曲でして、劇中でどう使われたかの詳細は過去記事を参照してください
それでベルリンフィルの演奏ですが、ウィーンライブとつい比較してしまいますが、パーカッションの主張が激しいですね。
この曲に限らず全般的に、熱いパーカッションがオケ全体をリードしているように感じます。
ただしベルリンフィルの技量なのか、どのパートもずっしり重量感を感じますし、例の5音階がファンファーレ的に響くところは感動です。
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なんか違いを見せつけまくったところで3曲目なんですが、『遙かなる大地へ』の組曲となります。
『遙かなる大地へ』はロン・ハワード監督によるアイルランドからアメリカに移民したカップルの波乱の物語です。日本公開は1992年くらいだったと思います。
当時ラブラブだったトム・クルーズとニコール・キッドマンが主演でした。作品としてはそんなに面白くなく、その当時の評価でも金をかけたトムとニコールのオノロケ映画みたいな言われ方でした。
超大作の体裁整えのために呼ばれたようなジョン・ウィリアムズですが、彼にしては珍しくアカデミー賞にもノミネートされませんでした。(ちなみにロン・ハワード監督といえばジェームズ・ホーナーやハンス・ジマーとのコラボの多い監督ですが、この作品に限ってジョン・ウィリアムズだったのはなぜかというとトム・クルーズが絶対ジョン・ウィリアムズがいい!と強く推したからだそうです。スターには逆らえません)
JWならもっと有名な映画も、人気の曲もいくらでもあるだろうに、念願のベルリンフィルデビューになんだってこんなマイナーな映画を持ってきたのでしょうか。
いや、これは逆の見方をすると、JWが世間の評価と裏腹にすごく気に入っていた作品であったとも言えるわけです。
というよりJWが世間の評価を気にして、あの曲の評判どうかな?とエゴサするような人とも思えないので、単に彼自身のお気に入りだったと思った方が良いでしょう
そして大事なことは、たしかに映画はつまんなかったけれど、音楽はすごくすごく良いのです。
サントラだとアイリッシュ風のケルト楽器の響きから始まるテーマ曲ですが、さすがにその序奏部分は飛ばして木管の音が印象的なメインテーマへ。その後は映画のエンドタイトル曲とほぼ同じ構成で劇中の楽曲メドレーを楽しめます。
ウィーンライブではアンネゾフィー用に編曲した殴り合いシーンの曲も、元のサントラと同じオーケストラによる掛け合いを楽しめます。
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ベルリンコンサート4曲目はハリーポッターです。
個人的には映画としてのハリーポッターシリーズにさほど思い入れはなくサントラも一作目しか買ってませんが、「ヘドウィグのテーマ」は大好きな曲です。
どこかムソルグスキーっぽさをかもしつつ、摩訶不思議な魔法の世界をカラフルに彩るジョン・ウィリアムズここにありって思わせる曲で、ベルリンフィルの演奏も見事にハマっています。
続けてヘドウィグのテーマを木管だけで小ぶりに演じたような「ニンバス2000」という、またなんて渋い選曲だと思うのですが、そこからさらにJWお気に入りの「ハリーの不思議な世界」がまた豪華なサウンドで表現されます。ジョン・ウィリアムズによるとこれはハリーと友達(ロンやハーマイオニーなど)との友情の曲なのだそうです。
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続けて「ジュラシックパーク」のテーマとなります。
クラシック音楽あるあるで、「指揮者が歳をとるほど演奏がゆっくりになる」ってのがあると思うのですが、映画音楽の世界も例外ではなく、ゴールドスミスにしろモリコーネにしろ後年になって再演する時はサントラ発表時よりも、ゆっくりした演奏にしがちです。
それはジョン・ウィリアムズとて例外ではなく、スターウォーズもE.T.もスーパーマンもレイダースもコンサートではゆっくりしてませんか?
ところがです。なぜか「ジュラシックパーク」だけは歳をとるごとに速くなっていく気がするのです。
ジュラシックパーク第一作目は、コンサート用と全然構成が違うので比較にはならないですか8分くらいかけての演奏です。
しかしウィーンライブ版は実測で6分くらいでした。
そしてベルリンコンサート版は5分45秒で演奏しています。このままあと5年もしたら爆速恐竜軍団になるのではないかと期待します。5年後ジョン・ウィリアムズは95ですが…
(追記・コンサートとほぼ同じ構成になった映画シリーズ2作目『ロストワールド』におけるジュラシックパークのテーマは5分30秒(実測値)で演奏してました。改めて聴くとなかなかの爆速ぶりでした)
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そしてこのベルリンコンサートが伝説になるであろう壮絶さが記憶に残る名演が「スーパーマン・マーチ」です。
この曲に関しては、映画サントラのロンドン交響楽団の演奏が最高に神ってまして、その後JW自身によるボストンポップスなどでの再演などを聴いても、どうしても物足りなさを感じていたのです。
しかしついに、あのLSOの演奏を超えはしないまでも並ぶくらいの伝説的名演を聞くことが出来ました。
これぞベルリンフィル!って感じのまさに怒涛の迫力でした。
なんか空飛ぶヒーローってより重戦車って感じもしますが、ベルリンフィルのスーパーマンが1番強そうです!
欲を言えば続けてスーパーマン愛のテーマも演奏してほしかったなあ!
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続けて演奏されるのが映画音楽ではなく純音楽作品の「エレジー・チェロとオーケストラのための」になります。
元々は『セブン・イヤーズ・イン・チベット』のサントラの一曲を準音楽に再構成したものになり、『セブン・イヤーズ〜』のサントラと同じくヨーヨー・マのチェロを想定して書かれた曲ですがベルリンフィルのイケメンチェリストがソロを担当してしっとり聞かせます。
元は映画音楽とは言え、JWが珍しく誰かに頼まれて作った曲ではなく、自分で作った曲ということになります。ジョン・ウィリアムズは演奏前のトークである亡くなった子どもたちを思って書いたと言ってました。
そういう曲をあえてベルリンコンサートに持ってくるところに、むしろこのコンサートを特別に思っていることがうかがえます。
そしてヨーヨー・マと録音したバージョンと比べるとより感傷的に聞こえてくる気もします。
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悲しい曲の後は楽しい曲で、インディ・ジョーンズシリーズから、「オートバイとオーケストラのスケルツォ」「マリオンのテーマ」そしてお馴染み「レイダースマーチ」です。
スケルツォについては、映画ではバイクの音がうるさくて曲が聞こえなくてガッカリだったなどと言って笑いをとってましたが、いやいやあなたの曲バイクの音に負けないくらい鳴りまくってましたよ、とブルーレイの画面に向かって突っ込みました。
この曲もJWお気に入りらしくよく演奏されますが、ボストンポップスで演奏したバージョンとはまた編曲が随分入っていて、もしかしてベルリンフィル用に少し手を入れたのかもしれないですね。
そして、レイダースマーチです。これもベルリンフィルすげ!っと思える大迫力の演奏でした。こんなに何度も聴いた曲もあまりないのですが、終盤の畳み掛け方とかすごく新鮮に感じました。
あれ?こんなにスネアの音目立つ曲だっけ?と思いました。そういう編曲なのか?そういう指揮なのか?ベルリンフィルの個性なのか?ともかくサントラよりもウィーンライブ版よりもズシズシ響いてきて乗りまくりでした。
そういえばサイモン・ラトルがベルリンフィルで映画音楽のコンサートやった時も「レイダースマーチ」やってましたね。そのブルーレイも持ってますが、当たり前ですがラトルの演奏より「インディジョーンズ感」強かったです。
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そしてコンサート終盤に、おまちかねのスターウォーズとなります。
まず『ハン・ソロ/スターウォーズ・ストーリー』より「ハンソロの冒険」です。
え?あの映画音楽JWだったの?ジョンデブニーとかマイケル・ジアッチーノとかその辺のやつかと思ってましたが…調べてみるとテーマ曲一曲だけジョン・ウィリアムズが作曲し、あとはその曲と過去のシリーズのテーマを使ってジョン・パウエルが本編の音楽を作っていたとのことでした。ジョン・パウエルは『フェイス・オフ』や『ボーン・アイデンティティ』なんかで知られた人ですが、あまりウィリアムズ風の曲書く人じゃないのですが、まあそこはプロとしてウィリアムズっぽく仕上げたんですね。
それはさておきここの選曲も渋めだなぁ…と思いつつそういえば『遙かなる大地へ』と同じロン・ハワード監督作品でした。なんかのアピール?
そしてエピソード4のラストシーンの、「王座の間」での勲章授与シーンの、ジェダイ騎士団のテーマを勇壮な行進曲風に演奏した曲が流れます。こういうかっこいい曲はベルリンフィルの独壇場ですね。
そして楽曲はエンドタイトルに移行し、スターウォーズテーマ、レイアのテーマをメドレーで繋げて、そして再びスターウォーズテーマから終曲部に移行します。最後のティンパニがドンドン鳴って締め括る絢爛豪華さが良いですね!
そしていったんジョン・ウィリアムズがはけてから、再び戻ってきてのアンコール曲が「レイア姫のテーマ」です。エンドタイトルの中でやったじゃないかと思いますが、それでもあえてシングルカットしたレイアテーマをアンコールで掛けようとしたジョン・ウィリアムズのレイア愛を感じるわけです。
この曲についてのウィリアムズのトークが面白かったです。
もともとウィリアムズはルークとレイアが恋人になるに違いないと思って2人の愛のテーマのつもりで書いたのが「レイア姫のテーマ」だったとのことですが、あとでルーカスから実はあの2人兄妹なんだと聴いて、仕方なくハンソロとレイアのラブテーマを新たに作曲したのだそうです。
そういえば『ジェダイの帰還』では兄妹愛のテーマとして「ルークとレイア」のテーマを書いていました。ウィーンライブでは「ルークとレイア」を演奏し、ベルリンコンサートでは「レイア姫のテーマ」という選曲にも、なんだかウィリアムズのレイア愛を感じます。
余談ですがスターウォーズのエピソード8のエンドタイトルでは、公開前に亡くなったキャリー・フィッシャーへの献辞が画面に出るその時だけレイアのテーマをピアノで奏でるように楽曲を構成していました。レイアのこと好きだったんですね、ジョン・ウィリアムズ。
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アンコール2曲目は、はいお馴染みの『E.T.』から「フライングテーマ」です。何もいうことない名曲ですが、これも終曲部分はウィーンライブで演奏した「地上の冒険」と同じなので、つい比較してしまいますが、盛り上げ方の壮絶さ!
そして、これもジョン・ウィリアムズのコンサートの定番、最後の最後の締めくくりに「帝国のマーチ」です。
演奏始まると聴衆からもウォォ!と歓声があがり、みんなノリノリです。
紅白歌合戦の最後でサブちゃんの「祭」が始まった時のノリに近いですか?
フィラデルフィアのコンサートではジョン・ウィリアムズは帝国軍の司令官のようにしかめっ面で握りこぶしをブンブン振っていたのですが、ベルリンフィルでの帝国マーチの指揮っぷりは穏やかなおじいちゃんって感じで、まあそこは89歳ですから、あんなもんでいいでしょう。
でもベルリンフィルはノリノリで帝国マーチを演奏し、スターデストロイヤーの艦隊が今にもベルリン上空を覆い尽くすような感じです!
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という感じで、ジョン・ウィリアムズ×ベルリンフィルの演奏は、どちらにとっても記憶に強く残るであろう素晴らしいものになりました。
正直なところ聞き慣れた曲ばかりなのでいまさら感動はしないだろうと思っていた私の予想を遥かに超えて、ファン必携のマスターピース的な演奏となりました。
映画音楽としてなら、ロンドンやボストンの演奏の方がいいような気もしますが、ベルリンフィルの演奏はクセになるような強い強い魅力があります。
ジョン・ウィリアムズファンなら絶対「買い」です!
それでは今回はこんなところで!
また素晴らしい映画と音楽でお会いしましょう!