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映画作りの糧とすべく劇場鑑賞作品中心にネタバレ徹底分析
映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

ノーカントリー [監督:ジョエル&イーサン・コーエン]

2008-07-07 20:30:39 | 映評 2006~2008
個人的評価:■■■■■□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)

コーエンアレルギーが抜け切らないので、満点は保留するが・・・しかし、圧倒的な面白さであった。

前半部の緊迫感あふれるサスペンスが秀逸。
探知機を使って殺し屋が金を探す描写をじっくりと写しこんで、探知機のピコピコ音を意識に植えつけて、その後のシーンでは殺し屋に追われる男のみの視点で閉まったドアの向こうから次第に近づいてくる探知機の音だけを聞かせてサスペンスをあおる。
追われる男はまだ「探知機の音」は聞いていない。狙われている者は知らず、映画の観客は知る危険信号。
などなど細部のサスペンス描写については完璧な仕事であった。

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だが何よりも強く印象に残るのはハビエル・バルデムの演じた殺し屋アントン・シガーというキャラクター。
こいつは自分がこれまでに見てきた沢山の悪役キャラの中でもトップ3に入るであろう恐ろしさだ。

他に印象的悪役
・「サイコ」の殺人鬼
・「マラソンマン」の元ナチ歯医者(ローレンス・オリビエ)
・「第七の封印」の死神
・おなじみレクターさん
・「パンズ・ラビリンス」のビダル大尉
・第一作目のターミネーター
・あといちお、ダースベーダーも・・・
他にも「第三の男」のオーソン・ウェルズとか、「シンドラーのリスト」のレイフ・ファインズとか、日本映画なら「乱」の原田美枝子とか「愛を乞う人」の原田美枝子とか、「犬神家」のスケキヨくんとかムスカとかキングギドラとか「北斗の拳」のアミバとか(あくまで個人的見解)


と、いろいろ考えているうちにトップ3でもない気がしてきたけど、しかしアントン・シガーが恐ろしく個性的で印象的な悪役であることは間違いない。
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ここで、「あなたもチャレンジ!! 悪人度チェック」
印象的悪の条件
1・見た目のインパクトがある
2・意味があろうとなかろうと印象的な(悪っぽい)決め台詞を持っている

  (「安全か?」、「I'll be back」、「コー・・・パー・・・」(←ダースベーダー)、「俺は天才だぁ」など)
3・痛いとか苦しいとか熱いとか寒いとか基本言わない
4・印象的な(悪っぽい)パフォーマンスができる

  (健康な歯をドリルで削る、人肉を食べる、切り裂かれた頬を自分で縫い合わせる、トキのモノマネを完璧にこなせる、など)
5・アホでなく知能高い

  (異常犯罪のプロファイリングができる、新秘孔を発見できる、など)
6・別に殺し(または単に悪事でも可)を楽しんでいるわけではなく、必要な処理をしているだけだと思っている
7・そうは言っても次に何するかわからないと言われる
8・喜び悲しみはもちろん怒りなども含めて感情は極力外には出さない
9・相手が善人でも悪人でも差別なく殺すこと(または単に悪事)ができる
10・もちろんバトルにおいては物凄い強さを見せる


以上の10項目のうち6つ以上チェックがつけば貴方は間違いなく悪(アク)です
(ゴルゴ13も満点ついてしまうのは仕方ないとして、ケンシロウもかなり高得点つくなぁ・・・)

********
アントン・シガーも満点のつく悪である。
「悪人」と称するのも躊躇われる。純粋悪とか悪の結晶とか呼びたくなる。
行く先々に死を運ぶ彼は、あるいは死神ではないか。いや死神の代理人というべきか。
仕事遂行のため必要なら躊躇せず、仕事の邪魔になりそうなものにも躊躇せず、ルールを破ったものにも躊躇せず、死を与える。
一方で必要もなく、危険もなく、禁を犯してもいない人物の生死は、自分で判断せず運命に伺いをたてる。死のコイントスで。

アントン・シガーおよびシガーを演じたハビエル・バルデムはこの映画の登場人物という域を超え、この映画そのものとなっている。
本作でアカデミー助演男優賞を受賞したハビエルだが、役の大きさ、物語上の役割から言って主演男優賞のほうがふさわしかったのではないかとさえ思う。

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評価が分かれると思われるのは終盤。
それまでの神経質なほど丹念に描きこむことを物語展開上の方針としていた感のある作品は、その方針をあっさり翻す。
あまりにあっけなく死ぬモス。
結局何もせぬまま保安官を引退するエド。
だが殺し屋シガーは変わることなく殺しの自己規律を貫く。
コインによる全てを手に入れるか、その逆かの、死神の賭けを断固拒否するモスの妻
彼女が殺されたのか殺されなかったのかははっきり映されない。どっちともとれる。
ただし家から出てきたシガーが靴の裏を気にしていたので、多分妻は殺されたのだろうと私の妻は解釈した。私もそうだと思う。
(それまで何度か映されてきた、シガーが血で汚れることを嫌っている描写からの推測)

しかし、それまでモスとシガーという二本の主軸と、エドという補助軸で安定して進んでいた物語は、モスを失うことでバランスが崩れ始める。
青信号をきっちりと確認した上で、バックミラーの自転車に乗る少年たちをふと見つめるシガー。
そのふとした気まぐれに付け入るように、交差点で飛び出した車に衝突される。
モスの妻が殺されたとの仮定に立てば、コイントスを拒否した(つまり死神のジャッジのない)彼女を自らの判断で殺したことに対し、死神が罰を与えたのかもしれないと考えることもできる(とはいえどういう解釈もさして意味はないだろう)
しかしシガーは死なない。
重傷を負いながらもまた死の匂いを漂わせながら何処かへと去っていく。
そして引退することで死の運命をかわしたエドの世を憂うため息で映画は終わる。
終盤のあっけない展開は、シガーのキャラを立たせるための処置だったと私は解釈する。ただそれを物足りないと感じる気持ちにも同意はできる。
だが突然死とため息だけを残して消えてしまうストーリーは、これ以上ないほどの嫌な余韻を残し、結果として心に深く刻み込まれる映画に仕上がっている。

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劇中音楽が全くかからない。
コーエン兄弟の映画と言えば、オープニングに美しい映像とともにカーター・バーウェルの壮大なテーマ曲がかかることで強い印象を残してきた。コーエン嫌いだった私でも「ミラーズ・クロッシング」や「ファーゴ」のオープニングだけはぞくぞくしたものだが、今回はそのオープニングにすら音楽はない。
しかしエンドクレジットでバーウェルのオリジナルスコアがかかる。
80年代のカントリー・ミュージックでも流しておしまいにしてもよさそうなものだが、あえてバーウェルのオリジナルスコアをかけ、その一曲だけの仕事で「Music by Carter Burwell」とクレジットされる。三人の信頼関係を見た気がした。
一曲だけの仕事に見られる信頼関係というと、過去にロバート・ゼメキスの「キャスト・アウェイ」におけるアラン・シルベストリの仕事もあった。さすがに一曲ではサントラが組めないと判断してか「キャスト・アウェイ」のサントラはそれまでの全ゼメキス作品のテーマ曲が収録された実質的なアラン・シルベストリ・ベストアルバムとなった。
同じように、「ノーカントリー」も実質的バーウェル・ベストアルバム的なサントラにしてくれないかと淡い期待を抱いている。

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最後に内容と関係ないが残念だったこと
この映画を観た映画館は松本で一番ぼろっちいところで、「デス・プルーフ in グラインドハウス」上映中に突然「ハリーポッター」が始まったりするほど管理も雑で、それゆえ愛してもいるのだが、今回ばかりは音響設備というか建物の構造的欠陥が気になった。
二階の小さなスクリーンで鑑賞したのだが、一階の大きいスクリーンで上映していた「スピードレーサー」のブオーン、バオンバオン、ジャジャーン、ドッガーン!!って音が途切れることなく鳴り響いていて、たまったものではなかった。静かな映画をかけるべき劇場じゃない。どっちも大して客入ってないんだから、スクリーン逆にしてくれりゃいいのになあ・・・

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6 コメント

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この一年の印象的悪役 (えい)
2008-07-07 22:38:55
こんばんは。

この一年で印象に残っている悪役、
それは
『クワイエットルームにようこそ』の大竹しのぶ。
『黒い家』のときをも超える怪演。
「お金はだめよ~」。
心理的に追い込んでいくさまは、圧巻でした。
あと、『ダークナイト』のジョーカー。
このヒース・レジャーも噂に違わぬ怪物ぶりでした。
返信する
悪人度 (sakurai)
2008-07-07 22:45:05
チェック、最後まで行かないうちに「ゴルゴ13やん!」とか思ったのですが、やっぱりデューク東郷のことだったのですね。
彼はやはり悪人なのでしょうか・・?
最後の○○は、『マグノリア』を思い出してしまいました。人生、何が起こるかわかんない、みたいな。

やはり悪人の圧巻は、ローレンス・オリビエの歯医者に賛成です。あーーー、思い出しても痛い。
『スパルタクス』のローレンス・オリビエ@クラッススもなかなかです。
返信する
コメントどうもです (しん)
2008-07-08 01:21:26
>えい様
ヒースは本当は生きてるんじゃないかと思うくらい、続々新作が公開されてがんばってます(?)ね
この一年くらいのスパンで考えますと、「エクスクロス」の小沢真珠のゴスロリ殺人鬼もかなり印象に残ってます

>sakuraiさま
ゴルゴを意識して作ったわけじゃないのです。ほんとです。
作ってみたらゴルゴにぴったりはまっていただけです
でも本気でゴルゴチェックするなら
・依頼人には二度会わない
・数種類のコンタクト方法がある
・正体について色んな説がある
・正体を探ろうとする奴は必ず殺す
・世界主要国の要人に恐れられ、また必要とされている
などといった項目が必要になってきます

最後の方は、多分、どんなな解釈もできるように作っているんでしょうね
悪く言えば逃げているし、よく言えば深いし

オリビエ歯医者に一票ありがとうございます。今、歯医者通いしていますが、毎回ダスティン・ホフマンの気分でびびりまくりです
返信する
こんにちは! (ryoko)
2008-07-08 10:08:30
TBありがとうございます。
おぉ、「マラソンマン」が話題に。
ローレンス・オリビエは「ブラジルから来た少年」でも、元ナチの科学者でした。

この映画のBGMが「スピードレーサー」の爆音・衝撃音というのは何ともひどいですね。
静寂の中で風の流れる音とか印象的でした。
返信する
コメントどうもです (しん)
2008-07-10 02:00:42
>ryokoさま
静寂の中に、エンジン音とクラッシュ音がひたすら鳴り響いていました。
しかし2時間騒音の途切れることの無かった「スピードレーサー」ってどんな映画なんでしょ?
返信する
Unknown (ダーデン)
2009-11-22 06:23:26
興味深かったです
『ダークナイト』のジョーカー
『時計じかけ』のアレックス
『レオン』のスタンスフィールド
『コラテラル』のビンセントも入れて欲しかったです笑
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