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ともしび 【監督:アンドレア・パラオロ、出演シャーロット・ランプリング】

2019-02-20 21:54:08 | 映評 2013~
みんな苦しさや辛さを抱えている
世界は本当はそんな息苦しさで満たされ破裂寸前なんだ
世界の冷淡さを全部担ったようなシャーロット・ランプリング姐さんだって、ほんとは苦しいんだ!
でもそれを言葉やストーリーで語ると陳腐になる。語りを避けつつ我々に悲しみを共有させながら最後は突き放す残酷な映画。じわじわきまっせ


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シャーロット・ランプリング主演映画はひらがな4文字にする方針
「まぼろし」「さざなみ」そして「ともしび」
そのうちIKKOさんが宣伝を担当するんではないかと不安になる。「ともしび〜〜!」
そんな物語全然違うのに一つのシリーズみたいにするあたりスティーブン・セガールの沈黙シリーズのようだ。じゃあシャーロット姐さんの次回作は「ちんもく」で決まりだな。

「ともしび」はあまりに口数少なく進み、いつも地下鉄に乗ってるシャーロット姐さん観ているうちに、この辺で殺人鬼とか強盗とかテロリストとか現れないかな〜と思ったことを正直に認めよう。そしたらきっとシャーロット姐さんは「冷たい視線」だけで撃退してしまうんだろうな。表情変えずに敵を倒すセガールとなんか通じるところがあるなと、無理やりそんな風に考えながら、極度に言葉の少ない「ともしび」を頑張って鑑賞。

この映画は説明がほぼ無い。ストーリーはあるのだがストーリーは語られない。
ストーリーの転換点のような事があっても、それはだいぶ後になってから、ああ、あの時のあの場面はそういう事だったのか、と気づくような感じ。
そしてシャーロット・ランプリングは本作で表情はほとんど変わらない。いつものむっつりとしたあのお顔がどのシーンにもある。
もはや何かを表情で表すことにも疲れたあきらめ、かなしみ、
そこがたまらなくかっこいいと思っていたから、「ともしび」中盤のトイレの中で見せるむせび泣き、号泣、慟哭するシャーロット姐さんは見たくなかったし見ていて辛かった。
これは演出や脚本や演技を批判しているのではなく、もしろ誉め言葉である。映画は何気なく見える日常的風景が実は色々な爆発寸前の負の感情が渦巻いていて緊張感があるのだということを描いていたことに気づく。
だから人間は生活の中で自分の役割を演じる。トイレの中のシャーロット姐さん演じるハンナは、ハンナという役を演じるハンナという女優を演じる上での間違った演技を我々にさらす。
ハンナにふさわしくない行動はできないから彼女はトイレの中で役割を放棄し、映画という表現はそんなハンナの超プライベートを我々に見せつけるのだ。なんという残酷な芸術表現なんだろう。

人は誰でも他人に求められる自分を演じる。
そう思うとハンナが演劇スクールに通っていることにも意味があるように思えてくる。
彼女は演技スクールに通うことで普段の世間に対するハンナとしての演技の肥やしにしていたのかもしれないし、単につらい現実からの逃避として自分以外の誰かになりたかったのかもしれない。

ところでこの映画の語らなすぎは演劇スクールのシーンでも顕著で、オープニング一発目のシーンが、演劇スクールで役者たちが奇声を発するウォーミングアップをしているところをむっつり顔で聴いてるシャーロット姐さんのアップというところで始まる。
一言の説明もないので、それが演劇スクールであることに気づくのに時間がかかる。
また、多少演劇をかじった人間ならともかく「アヒャヒャヒュルルルペロロロホヒャー」みたいな奇声を発する行為が演劇の練習であることに最後まで気づかない人もいるのでは?と不安になる。私も最初はミョウチクリンなグループセラピーにでも参加してるなのかと思った。
この映画あまりに口数が少ないため、ストーリー上重要なことも、大して重要じゃないことも、それが意味することに気づくのに時間がかかるのだ。
ストーリーだけ追う観方をすると、これはとても重大な欠点に思えるけれど、もちろんこの映画がストーリーを語りたい映画じゃないことを早々に悟って鑑賞モードは切り替えないといけない。
これは一見平和そうに見える日常風景が、じつは潜んでいる悲しみや苦しみでパンパンの緊張状態にあることを描いているのだと思う。だからふとした時に感情を爆発させるトイレのシーンなどが重要なのだ。

ラスト、シャーロット姐さん演じるハンナは、映画で意味ありげに頻繁に使われた地下鉄へと向かう。大江戸線新宿駅くらいあるような長い長い階段をひたすら降りるシャーロット姐さんをカメラは延々と長回しで追いかける。
なぜずっと追いかける?なにをする気だ?なにを考えている?
地下鉄ホームに降りていくハンナをひたすら追う長い長い時間。そうまでしてルーティーンのようにいつも乗っていた地下鉄に乗る描写を何故そんなにして
いや、まさか、まさか、それはダメだ、ダメだ…と煽られる不安をよそに…列車は来て…
トイレで泣き崩れる様を僕らにだけは見せていたハンナ。最後の最後は僕らにもなにも伝えず彼女は去る。映画を観るものを1人プラットホームに残して…
僕らはハンナと一緒に言葉にならない悩み、苦しみ、悲しみを共有してきたつもりだったのに、最後は突き放される。

あまりにも語らなさすぎる本作、ずっとむっつりしているシャーロット姐さん。
今年を代表する映画とまでいうのは流石に厳しいけれど「さざなみ」同様シャーロット姐さんの映画は後からジワジワくる。
それにしてももうかなりのお年だというのに、水着姿どころかガッツリヌードもご披露されるシャーロット姐さんのバリバリ現役女優感はすごい。

「ともしび」
監督 アンドレア・パラオロ
脚本 オーランド・ティラド
撮影 チェイス・アービン
出演 シャーロット・ランプリング
2019年2月 シネスイッチ銀座にて鑑賞
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