毎年毎年イーストウッドイーストウッドってよく飽きないなあ・・・と陰口叩かれかねない状況になってきたのですが、そんなこといったって面白いんだもん。権力・権威・力ある者に悪態ついてぶいぶいいわしていた70年代~80年代を過ぎて、権力・権威への不審と怒りを露にしつつ、既成概念に唾はき、社会より国家より愛より神より、個人を追い求めてる気がするイーストウッド。本作では国家のためでなく、仲間のため戦った人たちへの哀悼が染み渡る。いわゆる反戦映画ではないかもしれない。結果として戦争って嫌だなあと思う人は多いかもしれないが、イーストウッドが言いたいのはそこではないような気がする。
映画秘宝にジョン・ウェインが西部劇の父だとすれば、イーストウッドは不良の兄だと書いていた。
そのジョン・ウェインが40年~50年くらい前に主演した「硫黄島の砂」という映画がある。こちらは清く健全な愛国映画にして米海軍のプロパガンダ映画。擂鉢山に例の星条旗が掲げられる所がラストシーンだったと記憶している(10年くらい前にビデオで観ただけなので定かでない)。ジョン・ウェインの「代表作」ではない・・・が、生涯たった二回しかオスカー候補にならなかったウェインの一回目のオスカー候補作である(二回目はその20年後「勇気ある追跡」で。これで主演男優賞ゲット。もっとも作品も演技も凡庸で功労賞的受賞だったと言われている・・・「勇気ある追跡」観てないけど)
で、実は「硫黄島の砂」もけっこう面白い。中身は空っぽだが、全部本物使った硫黄島上陸のスペクタクルで見応えたっぷり。本土に残してきた妻が男作って逃げちゃったにも関わらず、国のため硫黄島で戦いばらしちゃうけど戦死するウェインはたしかにかっこよかった。きっと当時のアメリカの映画館では、出入り口のところに海兵隊のスカウトが待っていただろう。
といっても、スペクタクルが売りなだけの空っぽな映画であるが、それゆえに観客もジョン・ウェインも感情移入しやすかったんだろう。
模範的保守系アメリカ人たるウェインに反発するかの様に、勝手に独自の道を歩んできたイーストウッドは、硫黄島映画でも全くスタンスの異なる映画を撮る。
有名な星条旗が掲げられる写真が、実は2枚目の星条旗であったこと。星条旗を掲げた後なお数週間も激戦が続いたこと。写真に映っていたというだけの理由で英雄に祭り上げられ、寂しい晩年をおくっていった者たち。
難攻不落の死の要塞のごとく米兵たちの前に立ちはだかる擂鉢山に星条旗が掲げられた時の米兵たちが驚喜する姿は、日本人である私でも共感できてしまう。ただしそれは一枚目の旗であり、この後二枚目の旗が立つことがその前までのシーンでの台詞で説明されているから、米兵たちの驚喜が空しく聞こえる。
「硫黄島の砂」がこの映画の戦時国債キャンペーンと同じもののようにうさん臭く思えてくる。
「父親たちの星条旗」にもスペクタクルシーンはある。擂鉢山から俯瞰で写される米軍の大艦隊。全部本物の「硫黄島の砂」と違い、全部CGかもしれないが、それだけに「史実に忠実」であろう。戦車も戦闘機も「似た様なもの」をいっぱい持ってくる必要がない。CGで当時を完璧に再現できる。結果として「硫黄島の砂」以上に軍事オタクを大喜びさせる作品になっているに違いない。
話を戻すが、擂鉢山からの俯瞰映像は、アメリカの物量のもの凄さを見せつけ、映画にスケール感を与えるスペクタクルシーンとして機能している・・・が、それだけでなく歴史の大きなうねりを目撃させられた気にさせる。華々しい公的なアメリカ戦史を。
例の旗が掲げられるシーンももちろん、政府公認の歴史。教科書に是非載せてくれと圧力をかけそうな「歴史」
これらの映像と対になるのが、ラストの映像。
やはり擂鉢山から俯瞰で撮られるのは、旗を掲げた兵士たち、歴史の闇に葬られた兵士たちが、歴史なんか関係なく水遊びに興じている映像。カメラの手前にちゃちい星条旗。
歴史の裏と表の対比を見せるが、英雄や歴史をねつ造した国家を責めるのではなく、歴史なんかと無関係にただただ自分たちの目に見え手の届く範囲内において、誠実に生きていくしかなかった男たちを慈しむ。名もなき兵士たちへの鎮魂歌。
凄惨な戦闘も豪快なスペクタクルも見せておきながら、こんなに温かい戦争映画があるだろうか?
老齢になっていよいよ磨きのかかってきたイーストウッド。もっともっと新作とってほしい。
こんどは「ハートブレイク・リッジ2」なんて駄目かなあ
ところで俳優たちについてぶつぶつと・・・
「ライアン卒業生」はマットとかヴィンとか結構華やかな道を歩んでたりしますが、いつまでも地獄の戦場に留まり続ける奴もいます。代表格はトム・サイズモアです。彼はスピルバーグ将軍自らが指揮するノルマンディ上陸戦を戦い抜いた後も、ブラッカイマー将軍に引き抜かれ、マイケル・ベイ大佐とパールハーバーを戦い、こんどはリドリー・スコット大佐の部隊に編入させられソマリア内戦で地獄を観ました。いつも凄惨な戦場に姿を表す彼は疫病神だなどと、いわれのない中傷を受けたりもしましたが、さすがに戦争に疲れたのか最近麻薬の所持かなんかで逮捕されてた気がします。で、また一人ライアン卒業生が地獄の戦場に帰ったきました。狙撃の達人としてノルマンディで戦ったバリー・ペッパーさんです。最近、退役して国境警備隊となりましたがトミー・リー・ジョーンズという男に蹴飛ばされぶん殴られ引きずられて死体担いでメキシコまで旅させられ、それで民間人生活は懲りたのでしょうか?スピルバーグ将軍に泣きついて軍務に復帰し、早速イーストウッド隊に配属され硫黄島送りです。
アダム・ビーチが演じたアイラは軍隊に戻りたがっていましたが、トム・サイズモアとかバリー・ペッパーにはその気持ちよくわかるんでしょうね。そのアダム・ビーチもちょっと前に香港から来たクレージーなジョン・ウー大佐の指揮で太平洋戦争を戦っていましたが。
戦争とは関係ないけど、「リトル・ダンサー」のジェイミー・ベル少年も出ていました。イギーの役で。立派なダンサーになったと思ってたのに硫黄島で戦争やってたなんて、親不孝もの!!
*******
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自主映画撮ってます。松本自主映画製作工房 スタジオゆんふぁのHP
映画秘宝にジョン・ウェインが西部劇の父だとすれば、イーストウッドは不良の兄だと書いていた。
そのジョン・ウェインが40年~50年くらい前に主演した「硫黄島の砂」という映画がある。こちらは清く健全な愛国映画にして米海軍のプロパガンダ映画。擂鉢山に例の星条旗が掲げられる所がラストシーンだったと記憶している(10年くらい前にビデオで観ただけなので定かでない)。ジョン・ウェインの「代表作」ではない・・・が、生涯たった二回しかオスカー候補にならなかったウェインの一回目のオスカー候補作である(二回目はその20年後「勇気ある追跡」で。これで主演男優賞ゲット。もっとも作品も演技も凡庸で功労賞的受賞だったと言われている・・・「勇気ある追跡」観てないけど)
で、実は「硫黄島の砂」もけっこう面白い。中身は空っぽだが、全部本物使った硫黄島上陸のスペクタクルで見応えたっぷり。本土に残してきた妻が男作って逃げちゃったにも関わらず、国のため硫黄島で戦いばらしちゃうけど戦死するウェインはたしかにかっこよかった。きっと当時のアメリカの映画館では、出入り口のところに海兵隊のスカウトが待っていただろう。
といっても、スペクタクルが売りなだけの空っぽな映画であるが、それゆえに観客もジョン・ウェインも感情移入しやすかったんだろう。
模範的保守系アメリカ人たるウェインに反発するかの様に、勝手に独自の道を歩んできたイーストウッドは、硫黄島映画でも全くスタンスの異なる映画を撮る。
有名な星条旗が掲げられる写真が、実は2枚目の星条旗であったこと。星条旗を掲げた後なお数週間も激戦が続いたこと。写真に映っていたというだけの理由で英雄に祭り上げられ、寂しい晩年をおくっていった者たち。
難攻不落の死の要塞のごとく米兵たちの前に立ちはだかる擂鉢山に星条旗が掲げられた時の米兵たちが驚喜する姿は、日本人である私でも共感できてしまう。ただしそれは一枚目の旗であり、この後二枚目の旗が立つことがその前までのシーンでの台詞で説明されているから、米兵たちの驚喜が空しく聞こえる。
「硫黄島の砂」がこの映画の戦時国債キャンペーンと同じもののようにうさん臭く思えてくる。
「父親たちの星条旗」にもスペクタクルシーンはある。擂鉢山から俯瞰で写される米軍の大艦隊。全部本物の「硫黄島の砂」と違い、全部CGかもしれないが、それだけに「史実に忠実」であろう。戦車も戦闘機も「似た様なもの」をいっぱい持ってくる必要がない。CGで当時を完璧に再現できる。結果として「硫黄島の砂」以上に軍事オタクを大喜びさせる作品になっているに違いない。
話を戻すが、擂鉢山からの俯瞰映像は、アメリカの物量のもの凄さを見せつけ、映画にスケール感を与えるスペクタクルシーンとして機能している・・・が、それだけでなく歴史の大きなうねりを目撃させられた気にさせる。華々しい公的なアメリカ戦史を。
例の旗が掲げられるシーンももちろん、政府公認の歴史。教科書に是非載せてくれと圧力をかけそうな「歴史」
これらの映像と対になるのが、ラストの映像。
やはり擂鉢山から俯瞰で撮られるのは、旗を掲げた兵士たち、歴史の闇に葬られた兵士たちが、歴史なんか関係なく水遊びに興じている映像。カメラの手前にちゃちい星条旗。
歴史の裏と表の対比を見せるが、英雄や歴史をねつ造した国家を責めるのではなく、歴史なんかと無関係にただただ自分たちの目に見え手の届く範囲内において、誠実に生きていくしかなかった男たちを慈しむ。名もなき兵士たちへの鎮魂歌。
凄惨な戦闘も豪快なスペクタクルも見せておきながら、こんなに温かい戦争映画があるだろうか?
老齢になっていよいよ磨きのかかってきたイーストウッド。もっともっと新作とってほしい。
こんどは「ハートブレイク・リッジ2」なんて駄目かなあ
ところで俳優たちについてぶつぶつと・・・
「ライアン卒業生」はマットとかヴィンとか結構華やかな道を歩んでたりしますが、いつまでも地獄の戦場に留まり続ける奴もいます。代表格はトム・サイズモアです。彼はスピルバーグ将軍自らが指揮するノルマンディ上陸戦を戦い抜いた後も、ブラッカイマー将軍に引き抜かれ、マイケル・ベイ大佐とパールハーバーを戦い、こんどはリドリー・スコット大佐の部隊に編入させられソマリア内戦で地獄を観ました。いつも凄惨な戦場に姿を表す彼は疫病神だなどと、いわれのない中傷を受けたりもしましたが、さすがに戦争に疲れたのか最近麻薬の所持かなんかで逮捕されてた気がします。で、また一人ライアン卒業生が地獄の戦場に帰ったきました。狙撃の達人としてノルマンディで戦ったバリー・ペッパーさんです。最近、退役して国境警備隊となりましたがトミー・リー・ジョーンズという男に蹴飛ばされぶん殴られ引きずられて死体担いでメキシコまで旅させられ、それで民間人生活は懲りたのでしょうか?スピルバーグ将軍に泣きついて軍務に復帰し、早速イーストウッド隊に配属され硫黄島送りです。
アダム・ビーチが演じたアイラは軍隊に戻りたがっていましたが、トム・サイズモアとかバリー・ペッパーにはその気持ちよくわかるんでしょうね。そのアダム・ビーチもちょっと前に香港から来たクレージーなジョン・ウー大佐の指揮で太平洋戦争を戦っていましたが。
戦争とは関係ないけど、「リトル・ダンサー」のジェイミー・ベル少年も出ていました。イギーの役で。立派なダンサーになったと思ってたのに硫黄島で戦争やってたなんて、親不孝もの!!
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したたかなジジイだなぁ。
まぁ、でも、その際は、是非ウチに来たまえ、おっと、ちゃんと日本語覚えてこいよ、とそのジジイに会ったら伝えといてください(笑)。
てなわけで、TBありがとうございました。
シャマランが日本人だったり、イーストウッドが日本に帰化したり、そうなったら日本映画も盛り上がりますね。
てっきり「赤い河」か「静かなる男」かと思ってましたが、この作品でノミネートされてたとは・・・。
戦勝気分で浮かれてたんではないかと思います。
次はイーストウッド解釈による「アラモ」を見せてくれそう!
「静かなる男」もよかったですよね
私はイーストウッド解釈の「グリーンベレー」が観たいっす。
アイラが本音で話していたのはやはり「インディアンは嘘はつかない」というところから来ているのでしょうかね。
わたしも「硫黄島の砂」観ました。
最後の旗掲揚シーンに本人達が出てるのが、あのハリボテ山の3人とかぶりますよね、絶対!
反戦を叫んでるようで、彼らの人気にあやかった当時の映画と「父親達の星条旗」あわせて観るとよりおもしろかった!
TBさせていただきます。
そして、いつものように、冴えた評論をされていますね。自他共に認める文章力には頭が下がります。私は映画評というより、それにまつわる別のことを前文として長々と書いてしまっていけません。映画を純粋な気持ちで観ているのかと自分で思う時もあります。こういう評論を書くことができるのを羨ましく思っています。ずーっと前から。今回も私にはとても書けない評論を読ませてもらいました。ありがとうございました。 冨田弘嗣
「硫黄島の砂」のラストで旗たてた人が、実際の硫黄島の生き残りだとは知りませんでした。そう思うとまた見直したくなります。
>冨田弘嗣さま
他は知りませんが、自は認めてないです。
純粋であろうがなかろうが、色んな見方させるのが映画の力だと思いますので、冨田さまは冨田さまなりの見方、論評を展開していってください。
静と動のバランスが絶妙で、奥が深い作品ですね。
観客が余韻をじっくりと味わうことができ、誰かと語りたくなる戦争映画の傑作。
仕事で2部作と関わりましたが、作品を観たのは最近です。
コメント&TBに感謝!
いったいどういう関わり方をしたのでしょうか?
内蔵吹き出して倒れてたあの日本兵、実は私です・・・とか言われたらどうしようとワクワクしています。