以下は、米国で蠢く 共産主義革命の動き、と題して月刊誌WiLL今月号に掲載された、早川俊行「世界日報」編集員の論文からである。
日本国民のみならず、特に米国民が必読の論文である。
古き良きアメリカの破壊を目論むマルクス主義者の周到な戦略
共産主義者のゴール
米ソ冷戦の終結から30年。
自由世界のリーダーである米国で、共産主義革命が起きるかもしれない。
いったい、そんな状況を誰が想像しただろうか。
「いま起きていることは、まるでフランス革命だ」
保守系シンクタンク、ヘリテージ財団の著名な歴史家、リー・エドワーズ氏が現在の社会状況を評したものだ。
米国の保守論壇では、「革命」という物騒な言葉が毎日のように飛び交う。
今にも極左勢力に乗っ取られてしまいそうな“革命前夜”の雰囲気すら漂っているのだ。
五月、ミネソタ州ミネアポリスで起きた白人警官による黒人暴行死事件を境に、米社会は一変したと言っていい。
瞬く間に全米に広がった抗議デモは、暴動、略奪、放火などの破壊活動に発展し、各地で歴史的人物の銅像や記念碑が引き倒された。
南北戦争で奴隷制維持を主張した南軍指導者像だけでなく、初代大統賍ジョージ・ワシントンや独立吉言を起草した第三代大統領トマス・ジェファソンら「建国の父」の銅像まで標的にされている。
保守派が深刻な危機感を抱くのは、大衆運動が過激な極左勢力にハイジャックされ、かつてない勢いの「反米・容共」の潮流を生みだしているからである。
米国で起きていることは、極左勢力によって計画的に進められている革命の布石なのだ。
そのことをはっきり教えてくれる一冊の本がある。
1958年に元米連邦捜査局(FBI)捜査官のクレオン・スクーセン氏が書いた『The Naked Communist(裸の共産主義者)』だ。
同書は、共産主義に関する文献が少なかった時代にその脅威を世に知らしめ、ベストセラーになった。
ホワイトハウスや情報機関でも重要文献となり、冷戦下の戦略にも影響を与えた名著である。
60年前に書かれたにもかかわらず、今も版を重ね続けるのには理由がある。
著者のスクーセン氏は、米国を乗っ取ろうとする共産主義者の計略を明らかにするため、1961年に「共産主義者の45のゴール」を加筆したが、その多くが米国でいま起きていることと合致するのだ。
その例をいくつか挙げてみよう。
ゴール15:政党のどちらか一方、または両方を乗つ取る
ゴール17:学校を支配する
ゴール20:メディアに浸透する
ゴール21:公園や建物からすべての立派な彫像を取り除く
ゴール26:同性愛や乱交を「正常、自然、健全」な行為だと示す ゴール30:米国の建国の父の権威を失墜させる
ゴール38:警察から逮捕権限の一部を社会福祉機関に移管する
ゴール42:暴力や反乱は米国の正当な伝統だという印象をつくりだす
なかでも、ゴール22、30、38、42は、各地で抗議活動を繰り広げる活動家たちがまさに目指していることだ。
米国の極左勢力は、スクーセン氏が列挙したゴールに向かって着実に歩を進めている。
“革命前夜”という認識が、決して保守派の誇張や杞憂ではないことがわかっていただけるだろう。
米国は「人種差別国家」なのか
抗議活動を主導する「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切、BLM)」運動の指導者は、実際に筋金入りのマルクス主義者だ。
BLM運動を立ち上げたのは3人の黒人女性だが、その中の1人、パトリッセ・カラーズ氏は2015年のインタビューで、自身と共同発起人のアリシア・ガーザ氏は「訓練されたマルクス主義者」だと明言した。
自叙伝でも「毛沢東、マルクス、レーニンについて読み、学び、知識に加えた」と書いている。
ガーザ氏も2015年に、「資本主義の下では黒人の命は守られない。水と油のような関係だ」と述べ、資本主義の打倒が運動の目標であることを明らかにしている。
BLM運動への支持が大きく広がったことは世論調査で示されているが、多くの米国民は運動がマルクス主義者に操られていることを知らずに支持している。
BLM運動が訴える主張の中で、特に危険なのが「システミック・レイシズム(システム化された人種差別)」という概念だ。
米国では、人種に基づく差別が法律で禁じられている。
だが法的には平等でも、政治、経済、司法、教育などあらゆる制度に人種差別が組み込まれていると捉えるのがシステミック・レイシズムである。
法律で人種差別を阻止できないとするなら、米国の制度そのものを壊すしかなくなってしまう。
メディアでも当たり前のように使われるようになった言葉だが、実は革命を正当化する危険な概念なのだ。
米国は人口に占める黒人の割合が13%に過ぎないにもかかわらず、黒人を2度も大統領に選んだ国である。
人種問題で取り組むべき課題は多いものの、世界的には類を見ないほど人種間の調和が進んだ国と言っていい。
だが、ウォール・ストリート・ジャーナル紙とNBCニュースが7月に行った世論調査では、国民の56%が「米社会は人種差別的」と答えた。
米国を差別国家と糾弾するBLM運動のメッセージが、確実に浸透していることがわかる。
1619プロジェクト
カール・マルクスは労働者と資本家による階級闘争を煽ったが、米国の左翼勢力は経済的な格差ではなく、人種や民族、性別、性的指向などアイデンティティの違いをもとに闘争を煽っている。
これがいわゆる「アイデンティティ・ポリティクス」と呼ばれるものだ。
左翼勢力は、白人=抑圧者、黒人=被抑圧者という構図をつくり、その対立構造を革命のエネルギーに変えようとしている。
国民を抑圧者と被抑圧者にグループ分けするのは、マルクス主義そのものと言っていい。
この対立構造を米国民に認識させるために左翼勢力が力を入れてきたのが、白人に贖罪意識(ホワイト・ギルト)、マイノリティーに被害者意識を植え付けることだ。
「共産主義者の45のゴール」の17番目に「学校を支配する」とあるが、実際に教育現場は左翼勢力に支配され、数世代にわたり、「反米自虐史観」に基づく歴史教育が行われてきた。
歴史的人物の銅像や記念碑の破壊は、米国は強欲な白人がマイノリティーを搾取差別してきた邪悪な国家だと教える歴史教育の帰結とも言える。
黒人の被害者意識を増幅させる試みに、大手メディアも加担している。
ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)の「1619プロジェクト」がそれだ。
NYTは昨年八月、副読誌「ニューヨーク・タイムズ・マガジン」で、米国の建国は独立宣言が採択された1776年ではなく、最初の黒人奴隷が到着した1619年だと主張する100ページの特集を組んだ。
米国の原点は奴隷制にあるという歴史観を国民に植え付けることが狙いである。
1619プロジェクトの巻頭論文を執筆したNYTの黒人女性記者ニコル・ハナジョーンズ氏は、米国の独立を次のように論じるのだ。「入植者たちが英国から独立を宣言することを決断した主な理由の一つは、奴隷制を守りたかったからだ」
独立宣言に書かれた「すべての人間は生まれながらにして平等」という建国の理念は偽りであり、奴隷制という利権を守ることが独立の主目的だったというのである。
奴隷解放を宣言したリンカーン大統領さえも白人至上主義者のように描写し、「この国には反黒人の人種差別がDNAに流れている」と、米国を救いようのない暗黒社会として断罪するのだ。
「フェイク・ニュース」ならぬ「フェイク・ヒストリー」である。
にもかかわらず、各地の学校で1619プロジェクトを歴史授業の教材、カリキュラムとして取り入れる動きが前例のないペースで広がっている。
サンダースと手を組んだバイデン
米国が“革命前夜”の状況にまで陥った最大の要因は、二大政党の一つである民主党が急速に左傾化したことにある。
「45のゴール」の15番目に「政党のどちらか一方、または両方を乗っ取る」があるが、これも現実のものとなってきたのだ。
7月4日の独立記念日にメリーランド州ボルチモアで、クリストファー・コロンブスの銅像が暴徒によって引き倒され、海に投げ捨てられるというショッキングな事件が起こった。
これについて、民主党下院トップでボルチモア出身のナンシー・ペロシ下院議長は、こう言い放った。
「人々はやりたいことをやる」
下院議長といえば、大統領職継承順位で副大統領に次ぐ第二位の要職である。
そのような責任ある立場の人物が公共のものを破壊した犯罪行為を非難するどころか、容認するような発言をしたのである。
また、暴徒の襲撃を受けるオレゴン州ポートランドの連邦ビルを守るために、トランプ大統領が派遣した治安要員に対しても、民主党は「ゲシュタポ(ナチス秘密警察)のようだ」との批判を浴びせた。
いくら大統領選前で党派対立が激化しているとはいえ、危険な暴徒から秩序を取り戻そうとする治安要員をゲシュタポ呼ばわりすることがあっていいのだろうか。
「偉大な二大政党の一つである民主党の指導者が、暴動に対して批判を避けるというのは、私の記憶では初めてのことだ」
ウィリアム・バー司法長官は7月の議会公聴会で、怒りを爆発させた。
治安維持は、党派を超えた当たり前のコンセンサスであるはずだ。
だが、極左勢力の機嫌取りを優先する今の民主党には、そんな常識すら通用しなくなっているのである。
民主党には2016年の前回大統領選で、バーニー・サンダース上院議員を支持する極左勢力がヒラリー・クリントン候補に反発し、党内の足並みが乱れた苦い経験がある。
民主党大統領候補のジョセフ・バイデン前副大統領は、その二の舞を避けるため、サンダース陣営と共同で政策提言を発表するなど、極左勢力に擦り寄っている。
サンダース氏はソフトな印象を与えるために、「民主社会主義者」を自称しているが、冷戦時代はソ連やキューバなど共産党一党独裁体制を礼賛し、国内でも過激な極左マルクス主義政党を支援した経歴を持つ。
バイデン氏は大統領選で勝つことを優先し、本性は共産主義者のサンダース氏と手を組んだのである。
究極の選択が迫られている
米国共産党をはじめ米国内のマルクス主義団体は、バイデン氏を全面支援している。
1980年と84年の大統領選で米国共産党の副大統領候補だったアンジェラ・デービス氏は、バイデン氏なら「最も効果的に圧力をかけて」左翼の要求を受け入れさせることができると述べている。
つまり、極左勢力は、バイデン氏を“操り人形゛にできると見ているのだ。
バイデン政権が誕生すれば、サンダース氏に近い人材が数多く登用され、「極左政権」となる可能性が高い。
一方、トランプ氏は独立記念日前日の7月3日に歴代大統領の顔が刻まれたサウスダコタ州のラシュモア山で演説した。
過激な活動家による銅像や記念碑の破壊を「左翼文化革命」と非難し、「彼らのゴールは米国の終焉だ」と断じた演説は、極左勢力に対する”宣戦布告”とも呼べる内容だった。
「この輝かしい文化遺産への破壊行為に沈黙する者には、国民をより良い未来に導くことはできない」というフレーズは、極左勢力への非難を避けるバイデン氏を念頭に置いたものだ。
マイク・ポンペオ国務長官が7月に行った対中政策演説は、中国共産党との戦いを鮮明にしたことで注目を集めたが、トランプ氏の「ラシュモア山演説」も国内の共産主義勢力に打ち勝つことを表明した歴史的演説と言っていい。
トランプ政権は徹底した「反共政権」なのである。
大手メディアは、ラシュモア山演説を社会の分断を煽るものだと酷評した。
しかし、実際に人種対立を煽り、国民を分断しているのは左翼勢力の方である。
彼らが米国を乗っ取ることは断じて許さないと力強く語ったトランプ氏の姿に、多くの草の根保守層が勇気付けられたに違いない。
米国はトランプ氏の下で建国の理念や伝統的価値観を守るのか、それとも極左勢力に操られるバイデン氏の下で革命の道に突き進むのか。
日本ではほとんど論じられていないが、今度の大統領選は、米国の国柄を懸けた究極の選択なのである。