「ご苦労だったな。ストロープ君。」
「では総統、私たちもこれで。」
私たち3人は総統の私室のドアの前に立ち、敬礼をしてゆっくりとドアを閉めた。総統が、疲れた顔でソファーになだれ込むのが見えた。我がドイツに来年はないのかもしれない。そう思った。
軍高官を父に持ち、父同様に総統を崇拝して生きることが定められていたストロープにとっては、自分の指揮したユダヤ人の虐殺も我がドイツの存亡も、まるでゲームのようなものなのだろう。彼は私と違い、総統が作り上げたシュミレーションの中で生きていた。彼は英才教育を受けた優秀なナチスだが、無能だ。
「それでは私も、任務に戻ります。」
彼は、私とは目を合わせず、隣のボルマンに向き合った。そしてボルマンから指示を受けると、どこかへ消えて行った。
「君を恐がっているようだな。」
ボルマンは、いつも明るい彼らしくなく、ひそひそ話をするように小声で呟いた。
「ストロープが?なぜ?」
私は、玄関に向かって歩き出したボルマンに歩幅を合わせながら、危うく聞き逃すかもしれなかった彼の言葉に答えたが、彼の言葉が答えを必要としていたのかはわからなかった。
「きっと、君の噂を、彼も聞いているんだろう。」
「噂?何についてのだ?」
私は、この、微妙にかみ合っていない会話に、少し苛つき始めていた。そしてボルマンは、そんな私の変化に気づき始めていた。
「・・・変わったよ、君は。」
「私が?どんなふうにだ?」
ボルマンの横顔が、一瞬微笑んだように見えた。が、私の方を向いた彼の顔は微笑んではいなかった。むしろ寂しそうにさえ見えた。
「わからない。でも、みんな、・・・気づいているんだよ。」
(つづく)
「では総統、私たちもこれで。」
私たち3人は総統の私室のドアの前に立ち、敬礼をしてゆっくりとドアを閉めた。総統が、疲れた顔でソファーになだれ込むのが見えた。我がドイツに来年はないのかもしれない。そう思った。
軍高官を父に持ち、父同様に総統を崇拝して生きることが定められていたストロープにとっては、自分の指揮したユダヤ人の虐殺も我がドイツの存亡も、まるでゲームのようなものなのだろう。彼は私と違い、総統が作り上げたシュミレーションの中で生きていた。彼は英才教育を受けた優秀なナチスだが、無能だ。
「それでは私も、任務に戻ります。」
彼は、私とは目を合わせず、隣のボルマンに向き合った。そしてボルマンから指示を受けると、どこかへ消えて行った。
「君を恐がっているようだな。」
ボルマンは、いつも明るい彼らしくなく、ひそひそ話をするように小声で呟いた。
「ストロープが?なぜ?」
私は、玄関に向かって歩き出したボルマンに歩幅を合わせながら、危うく聞き逃すかもしれなかった彼の言葉に答えたが、彼の言葉が答えを必要としていたのかはわからなかった。
「きっと、君の噂を、彼も聞いているんだろう。」
「噂?何についてのだ?」
私は、この、微妙にかみ合っていない会話に、少し苛つき始めていた。そしてボルマンは、そんな私の変化に気づき始めていた。
「・・・変わったよ、君は。」
「私が?どんなふうにだ?」
ボルマンの横顔が、一瞬微笑んだように見えた。が、私の方を向いた彼の顔は微笑んではいなかった。むしろ寂しそうにさえ見えた。
「わからない。でも、みんな、・・・気づいているんだよ。」
(つづく)