すずりんの日記

動物好き&読書好き集まれ~!

小説「雪の降る光景」第3章3

2008年03月26日 | 小説「雪の降る光景」
 ボルマンは早くこの会話を終わらせたいのか、居間のソファーには座らずに、真っ直ぐに掛けてあったコートの方に向かった。が、私は居間のソファーに深く腰を下ろし、足を組んだ。
「みんな、とは、誰のことだ?」
「君の、部下たちだよ。」
私は、2人の会話が初めてかみ合ったことと私の予想したボルマンの答えが当たったことで、少し気が楽になった。
「彼らが、何か言ったのか?」
ボルマンは、私の口調が少し柔らかくなったからか、コートを着たまま戻ってきてソファーに座った。私が背もたれに上半身を任せているのとは反対に、ボルマンは背もたれを全く使わずに、まだ寂しそうな顔を私に向けた。
「・・・『それはハーシェルを殺してからのことだ』と。」
「ハーシェル?・・・誰だ、それは?」
ボルマンは一層顔を私に近づけて、一層小声になった。知らない人が見たらきっと、彼が私に妻の殺人を依頼しているようにでも見えるのではないかと思い、私は急に可笑しくなった。急に笑顔になった私は、依頼された殺人を笑い飛ばして断ったように見えるだろうか。それとも笑顔で依頼を引き受けたように見えるのだろうか。
「・・・君が銃殺した男だ。」
「あれは、サンプルナンバー1057だよ。」
 彼は、この話し合いが短時間で終われないと諦めたのか、ゆっくりとコートを脱ぎながら言った。
「あれほど感情を押し殺すのに必死だった君を見たことが無い、と彼らは言っていたよ。」
私はボルマンがコートを脱いで座り直すのを待って彼に語りかけた。
「ボルマン、私があの時、どんな気持ちで彼を殺したか、君にわかるか?え?私がどんな気持ちで彼の死を確認したか、私が何を思いながら彼に銃を向けたか。君だったらどうだ、ボルマン?」
「私にはそんなことはできない。・・・そんなことはな。」
私はボルマンからの殺人依頼を断ろうとしている。しかし、ボルマンはそんな私に依頼を受けてもらおうと説得を始めている。私たちの様子を見て想像するとしたらこんな感じだろう。
「私は嬉しかったのだ。私は、上機嫌だった。私は、長い間欲しかったおもちゃを与えられた子供のようだった。彼以外のサンプルに、そんな感情を抱いたことは無かった。」


(つづく)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする