すずりんの日記

動物好き&読書好き集まれ~!

小説「雪の降る光景」第3章7

2008年04月13日 | 小説「雪の降る光景」
 ボルマンは、急に顔を覆って頭痛に歪む表情を隠した私に興味は無いようだった。彼は、私とこんな話をしていて自分のナチ党首としての立場が危なくなることだけが心配なのだろう。
 頭が割れそうだった。今すぐこめかみを、銃で撃ち抜きたいほどだ。ボルマンに対しての言葉はいつも通り淡々としていたが、私はひどく興奮し、心臓や全ての臓器が誰かの手で握り潰されようとしているかのようだった。この会話とは関係無いもう1つの痛みが、徐々に大きくなってきていた。精神的な、心の痛みではない。ハーシェルの死とは関係の無い、肉体的な痛みだ。
「わかった。最後の言葉を信じよう。君は狂ってはいない。今回のことは総統には報告はしない。・・・ただし、」
「あぁ、ただし、私がナチスを裏切ったら・・・。」
 止めてくれ、ボルマン。君は何を知ってる?私がハーシェルに撃たれて入院した時、君は何を知ったのだ?頭痛だけでない、体中を切り裂くほどの全身の痛みに、君は心当たりがあるだろう、ボルマン?
「君が我々を裏切ったら、私が、君を殺す。」
わかってくれ。君では役不足なのだ、ボルマン。君では私を殺せない。私を殺せるのは、私自身と、そして、そう。ハーシェル・マイラーだ。
「あぁ、ぜひそうしてくれ。」
吐きそうだ。近くにいるはずのボルマンの声が、なぜかガラス1枚隔てたように聞こえてくる。ボルマンがしきりに私の名を呼んでいる。私の体を揺する。私は平衡感覚を失いかけていた。ほんの少し、痛みが薄らいだ。それと同時に、目の前に靄が立ち込め、真っ白になった。吹雪の日のように、微かに漏れる日光に雪が鈍く反射して、ちらちらと目の前を舞った。
 もはやボルマンの姿はどこにも無かった。ただ、彼が私の体を揺すり、私の名を叫び続け、誰か人を呼んでいるという微かな記憶を残して、私は気を失った。


(つづく)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする