すずりんの日記

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小説「雪の降る光景」第3章5

2008年04月04日 | 小説「雪の降る光景」
 ボルマンは、何かを私に告白するようにゆっくりと答えた。
「そうだ。確かに君は今までも冷酷な男だった。しかし、今は、何か、・・・君の中の何かが、変わってきている。」
「あるいは、狂ってきた?」
私は、「変化した」という単語ではしっくりしていないボルマンの表現にぴったりの単語を自分が解答し、少し気分が良くなった。
「ボルマン、ユダヤ人を殺すのと、ドイツ人を殺すのと、どこに違いがあると思う?」
「ユダヤは人間ではない。彼らを殺しても、殺人の罪を負うことは無いはずだ。」
ボルマンは、自分の得意分野の話題になったからか、急に自信に溢れ口調が強くなった。
「彼らが虫けらで、殺しても罪にならないのなら、ハーシェルだって同じだ。同様に、私が人を殺すのに、苦しませずに一気に殺すのとなぶり殺しにするのと、どこに何の違いがある?感情を抱かずに冷静に人を殺すのと笑いながら人を殺すのと、どこに違いがあるんだ?」
私もボルマンに負けずに、静かに口調を強くした。
「ボルマン、君は、私が幼馴染みであるハーシェルを笑いながらなぶり殺しにしたということに、何の不満があるって言うんだ?今まで私たちが毎日行ってきたことと何も変わらないだろう?」
ボルマンは反論したそうな顔をして私を見ていたが、私はそれに気づかない振りをして言葉を続けた。
「君たちには私が狂ったように見えるだろう。でもそれは違う。私は狂ったのではなく、自分たちが今までしてきたことが『殺人』であるという、当たり前のことにようやく気づいたのだ。変わった、のではない。目が覚めて苦しんでいるんだ。」
私は、ボルマンの横に無造作に置かれている彼のコートが皺にならないように、と祈った。


(つづく)
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