すずりんの日記

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小説「雪の降る光景」あらすじ

2008年10月18日 | 小説「雪の降る光景」
小説「雪の降る光景」最終回です。過去アップ分はカテゴリーからどうぞ。

私・・・この小説の主人公。ドイツ帝国副総統であり、ヒトラーの秘書。
    冷酷非道なヒトラーの片腕。
ハーシェル・・・「私」の同級生であり、ライバル。
ヒトラー・・・ドイツ帝国総統。(実在の人物です)
エバ・・・ヒトラーの愛人。(実在の人物です)
ボルマン・・・ナチス党の現党首。「私」と同様に、ヒトラーの片腕。(実在の人物です)
アネット・・・「私」の妹。
クラウス・・・アネットの婚約者。反ナチ主義者。
         ------------------------
あらすじ
「私」はある夢を見た。少女が、しんしんと雪が降る中にたたずみ、落ちてくる雪を仰ぎ、愛しそうに抱きしめている。その夢が、今までの冷酷な自分に、何かを気づかせているような気がしてならなかった。 
 繁栄を極めるドイツ帝国に、敗戦の影が見え始めているが、「私」は、ヒトラー総統の片腕として、いや、総統に心酔する者の1人として、彼と、そして帝国と、運命を共にする覚悟で日々の任務をこなしていた。
 そんなある日、「私」とハーシェルは再会し、2人とも何者かが仕掛けた総統の暗殺計画に巻き込まれた。「私」は、暗殺計画の犯人としてのハーシェルを捕らえ、彼を殺した。しかし、憎かったハーシェルを殺した「私」の心は晴れるどころか、涙が止めどなく溢れてくるのだった。そしてハーシェルの死後、「私」は、自分の変化に気づき始めていた。
 
 「私」は、「人間」に戻るために、人間としての最期を迎えるために、病院を抜け出した。

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小説「雪の降る光景」第4章終

2008年10月18日 | 小説「雪の降る光景」
 こうして、闇の中にポッカリと浮かんだ満月の光に全身を射抜かれながら、私は、思うのだ。
 
私は、人並みに幸せな人生を歩んでこれた、と。

 この戦乱の世で、
 愛するアネットとクラウスに出会い、
 愛するアドルフ・ヒトラーに出会い、
 愛するハーシェルに出会い、
 そして、今、人類が最も憎むべきナチスの一人として、死に臨むことができるのだ。
 
 私にとって、これほどの幸福があるだろうか。
 
 死は、恐れるものではない。
 死は、忌むべきものではない。
 死という束の間の眠りから覚めた時、
 この人生で気づくことのできた幸福を感じたまま、
 再び彼らと出会うことができるのだから。

 
 私の細胞の一つ一つが、徐々に、私に対して、最期の時が近いことを訴え始めていた。頭痛や腹痛といった部分的な痛みではなく、全身の細胞が等しい力で外へ外へと無限に引っ張られているようであった。脳は、その痛みへのコントロールを拒否し、ありのまま受け入れるように命令を下した。
 突っ張った体に、月光が矢継ぎ早に突き刺さり、やがてそれは、ナチスと、ナチスを許した社会を怨んで死んでいった者たちが、私をナイフでめった刺しにしている姿に変わった。
 体中の毛穴から温かい血がほとばしっているような感触が、なぜか私をほっとさせた。やっと、・・・安心して眠れるのだ。次に目覚める時のことだけを思い、私は、深く深く眠りに就こう。

 少しずつ体が虚脱を感じ始めると、痛みが完全に現実から締め出された。急に体が自由になった気がして、私は、より激しくそして最期の痛みが再び押し寄せてくる前に、体を横たえ、そこに天井があるはずの闇に目をやった。
 背中や足に感じる冷たさが、血の染みたコンクリートの床のものではなく、私自身のそれなのだと、霞のかかった頭でようやく認識できた時、天井という名の暗黒の中に何かがきらっと光った。

 
 雪、だ。

 
 雪だけが、私の最期を見届けてくれようとしているのだ。

 

 私は、癌への戦いで水分を使い果たした体から自然と涙が込み上げてくるのを感じ、雪の最初の一粒が右手の甲の一点をわずかに湿らせるのと同時に、ゆっくりと、目を閉じた。
 殺すことができない、ということでしか表現できなかった私の愛情の深さを理解してくれた人々が、私の死を引きずらず、私の存在を一日も早く、遠い日の思い出として忘れ去ってくれることだけを、私は望む。

 他には、もう、何も、望まない。
 
 ただ静かに、眠りたいだけだ。
 
 ただ静かに、優しい粉雪に抱かれて。







   ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━








 ――――目が覚めた時、私は、涙を流していた。




(終わり)

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