すずしろ日誌

介護をテーマにした詩集(じいとんばあ)と、天然な母を題材にしたエッセイ(うちのキヨちゃん)です。ひとりごとも・・・。

父の手紙

2006-10-06 00:25:05 | うちのキヨちゃん
 かつてうちの父は大変上下関係に厳しく、封建的な方であった。例えば、私が電話を取る。電話はうちのキヨちゃんにである。そこで、取り次ごうと庭にいる彼女を、玄関先で
 「お母さ~ん!電話!!」
などと大声で呼んだりしようものなら、きっちり叱られるのである。
 「親を呼びつけるとは、何事か」
つまり、目上の人には呼びつけるのではなく、近くまで自分が寄って「電話ですよ」と伝えなければならないわけだ。
 しかし、わたしとキヨちゃんはたいへんおおざっぱで、出稼ぎの父の留守中はまったくお構いなしに生活していた。
 ある日、わたしとキヨちゃんが喧嘩をした。といっても、これは私たちにとって日常茶飯事で、結構きゃんきゃん言い合うわりに、すぐに忘れたりするものである。
 しかし、普段家にいない父にとってそれは衝撃的な光景だったようだ。黙って部屋にこもったなり、いきなり見事な筆書きで、手紙を書いてよこした。
 
 親は親たり 子は子たり
 「鳩に三枝」の言われあり   父より

 言わんとすることは、何となく分かるのだが、おバカな私は「鳩に三枝」の語源が分からず、辞典を引いてみた。
 「鳩に三枝の礼あり」つまり、鳩は親鳥より三本下の枝に止まる。親に礼節を尊べと言いたかったのである。
 そこへ何故か有頂天のキヨちゃんが、私と喧嘩したことなど当然忘れて部屋に入ってきた。
 「父ちゃんに、手紙も~ろた。でも、意味が分からん」
・・・父は、喧嘩両成敗として、彼女にも同じ手紙をあげたのだった。そこで、わたしが説明する。そして二人して反省の言葉を父に届けに行った。
 自分の手紙で反省してくれたことに、父は大満足の様子で、この件は一応の決着を見た。
 その後、久しぶりの父の「ラブレター」に感激したキヨちゃんは、手紙をパート先まで持ち出し
 「父ちゃん字きれいやろう。文章かっこええだろう。」
と自慢しまくり、意味を聞かれると受け売りでそのまま説明していた。もちろんエピソード付きで。パート仲間のおばちゃんたちも
 「ええなあ。かっこええなあ」
と言ってくれたらしいが、これを恥の上塗りと世間では言うまいか。
コメント (6)
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