田舎の年寄りにとって、通院は結構なイベントである。医者(せんせい)に診てもるのだから、ボロなど着ていけないのである。
できれば普段からおしゃれをすればいものを、うちのキヨちゃんはいつもはまるで構わない人なのである。父はいつも「いつ何があっても、いざという時、ボロな下着を着けていたら恥ずかしい。」と、たいがいまともな下着を着る人だが、キヨちゃんは「もったいない」がモットーの人であり、父の着なくなったズボン下やランニングを平気で着るのだ。
夏など父のランニングでごろんと寝っころがるキヨちゃん。ランニングの脇からおっぱいがこぼれていても、気づかず寝入る姿はある意味「ため息物」だ。
この日は寒い冬の日だった。さすがのキヨちゃんも通院するとなれば話は別、まっさらなグレーの肌シャツ、まっさらなレース使いのあるズボン下。寒いからジャケットやセーターも念入りに着込み、颯爽と出掛けようとした彼女を見て、私は目を疑った。キヨちゃんはズボン下の上に黒い毛糸のパンツを履いたなり、ズボンを履いていないのだ。
「ねえ、その格好で行く気?」
私のもっともな突っ込みに、初めて自分の姿を確認したキヨちゃんは大笑い。
「まあ、あんまり綺麗なズボン下じゃけん、ズボン履いとると思い込んどった。」
そしてさらに一言。
「でも私が気づかんくらいじゃけん、行っても他の人も気づかんのと違うかな?」
・・・・・。当然気づくと思うのである。