第8回「亀治郎の会」の京都公演では、『上州土産百両首』と舞踊劇『魚樵問答』の二本立。
『上州土産百両首』は手ッ取り早くいえば、しっかり者の正太郎と間抜けな牙次郎の兄弟愛。
幼馴染の正太郎(亀治郎)と牙次郎(福士誠治)が共にスリ稼業から足を洗い、十年後の再会を誓う物語である。
私は、かつて亀治郎の伯父猿之助の正太郎、勘三郎(←当時は勘九郎)の牙次郎で歌舞伎座で見ている。平成6年だった。
当時も好評を博した演目だった。
今回の上演では、正太郎と牙次郎に重点をおいて、新しく序幕に夢の場面を加えるなど、より現在的センスで作品の新境地を開いた。
出演者では、テレビ畑の福士誠治、渡辺哲の共演、紅一点の女優・守田菜生も参加して、『上州土産百両首』の平成バージョンに生まれ変わった。
また上方人気女形の上村吉弥をはじめ、亀鶴、門之助など若手実力派の歌舞伎俳優が脇をかためている。
「これって歌舞伎なの? なんだかお弁当付の大衆演劇みたい!!」
(幕間のロビーで若い女性仲間がささやいてました。)
確かに歌舞伎のレベルからいえば、不満があるかもしれない。
しかし大方の観客が、エンターメント劇としてずっしり感動を受けたことは、これまた歪めない。
「亀治郎の会」という自主公演であるからこそ成し遂げたのだと思いたい。
亀治郎は守備範囲の広い歌舞伎俳優だと誰もが云う。
本公演では女形の大役を芸欲たくましく次々と演じ、今秋には蜷川幸雄演出『じゃじゃ馬馴らし』に出演が決まっている。
今回は自らのプロジュースによって、かつて猿之助が務めた正太郎役に挑戦した。
こねまわさず、背伸びせず、等身大で素直に演じたのがいい。
感心したのは、相手役の牙次郎(福士誠治)となんら違和感を感じさせないことである。
それと、声柄が伯父猿之助にそっくりで、見ていて「アッ!」とした瞬間が何度かあった。
しかも要所では歌舞伎味を堪能させた。
対する福士誠治の牙次郎の間抜け役がウマい。
頓馬でいて実はちゃっかりしたところがあるという役どころは、まさに難役である。
誰かの真似をすることなく、自分なりの牙次郎をよく工夫した結果が出ている。
亀治郎一人の独壇場にさせなかったのも、やはり牙次郎の演技に負うところが大きい。
亀鶴の三次は、持ち役である『曽根崎心中』の九平次とは一味違ったニヒルさを出した。
芝居の運びがキッチリしているのがいい。
吉弥の勘次女房も岡っ引きのおかみさんらしい。
鉄火な姐さんになっていた。
渡辺 哲の与一は、この人らしい人情味が出てよかったが、一本調子になるところがいくつかある。
その分物足りない。
今回の拾い物は、勘次の門之助。
久しぶりの立役である。キッパリと岡っ引らしいのがいい。それでいて緊迫感がある。
この種の役は大した役でないようで実は舞台全体に響くから難しい。
本舞台から主人公二人を見送る大詰は、幕切れにふさわしく、かっこよかった。
よゥ!! 瀧乃屋!!である。
(2010年8月24日 京都造形芸術大学・春秋座で所見)
▼ こんな写真も撮りました ▼
地下鉄「北大路」でタクシーを拾い、「京都造形芸術大学」と行先を告げると、気のよさそうな運転手が・・・・
「あそこの大学はだいぶ変わった大学ですわ」
そりゃ変わっているでしょう。構内に「芸術ホール」という花道付きの劇場を持っている大学なんだから・・・
「芸術ホール」は正式には「春秋座」というらしい。
その「春秋座」があるのが「人間館」という建物。
人間館1階の春秋座前で、「亀治郎の会」開演前のひととき・・・
大学の長唄三味線部「丈山会」が演奏を披露。
「亀治郎の会」に出演している三味線方さんが何人か見えてました。
「うまいなあ!!」
三味線のプロが「うまい!!」と唸ってるんだから・・
せいぜいおきばりやす!!
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