旅に出ると、きまって探すお店がある。
まず美味しいコーヒーを喫ませてくれる喫茶店。つぎに古本屋、そして骨董屋さんである。
ちかごろはコンビニだけは、どこにでもあるが、カフエだの、その町の匂いのする古本屋や骨董屋はほとんど見かけない。
つい先日、桜のころ。
こんぴら歌舞伎を見るために泊まったホテルにお気に入りのコーヒーラウンジ「天の川」があった。
そのお宿は、こんぴら22段目。山の中腹にあった。すぐ近くに金丸座がある。
桜色を基調にした落ち着いた色合いのコーヒーラウンジ。
ホテルのチェックイン時には、ここでお抹茶とお菓子でおもてなし。
なにぶんホテルのフロントラウンジなので、チェックイン・アウト時には混みあう。
その時間帯を外せば、ゆったりとくつろげる。
平日の昼下がり。
庭園に面した席で、ひとりゆっくりとコーヒータイム。
コーヒーは炭焼きコーヒーと称するブレンドの一辺倒。600円(税込)の銀座料金。
さほど広くない庭園だが、この季節になると水のながれがヤケに恋しい。
もうすぐこの庭に”蛍”が舞うとホテルのメイドが教えてくれた。
四国こんぴらの夜は早い。
どの店も夕方5時には店を閉める。
劇作家の三谷幸喜さんが『ありふれた生活』の中で、こんぴら歌舞伎を見に行った時のことを書いていた。
夜はどこかの食堂で食事をしたいと思っていたらしいが、どの店も閉まっている。
軒並み連ねたうどん屋もラーメン屋も。温泉町には珍しい光景だと。
三谷さんは結局自販で缶コーヒーとホテルの売店で残り物の菓子パンだけがその日の夕食だったとか。
ところでラウンジ「天の川」は夕方5時からは、ナイトラウンジに変貌する。
ピアノの生演奏などがあるそうだ。
もちろん世界各地のビール、ウイスキー、ワインも揃えているとか。
こんぴらの夜の”穴場”がこのホテルにある。
その夜は寝つかれず、ホテルの下駄を借りて、いつもの例で浴衣がけで夜の町へ出かけた。
琴平の駅前近くでBar「志のぶ」という安っぽいネオンを見かけた。
そのBarは営業しているようだった。
うさんくさいスナックのようだったが、思い切って店のドアを開けた。
厚化粧をしたマダムらしい女がいきなり私に云った。
「兄さん タバコ1本くんない?」
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