春の雲けもののかたちして笑う 対馬康子
一読、納得して作者を確認して納得の1句である
口語で平易な措辞ばかりだが
童心のような詩心がいっぱいの作品だ
けものが象やイルカだったら大人の句には無理になる
座5のして笑う」に作者のしてやったりの自信を感じる
(小林たけし)
これを書いている今日は朝からぼんやりと春らしいが、空は霞んで形のある雲は見当たらない。雲は、春まだ浅い頃はくっきりとした二月の青空にまさに水蒸気のかたまりらしい白を光らせているが、やがていわゆる春の雲になってくる。ゆっくり形を変える雲を目で追いながらぼーっとするというのはこの上なく贅沢な時間だが、この句にはどこか淋しさを感じてしまう。それは、雲が笑っているかのように感じる作者の心の中にある漠とした淋しさであり、読み手である自分自身の淋しさでもあるのだろう。他に<逃水も死もまたゆがみたる円周 ><火のごとく抱かれよ花のごとくにも >。『竟鳴』(2014)所収。(今井肖子)
【春の雲】 はるのくも
◇「春雲」
春の雲は、夏や秋の雲のようにはっきりした形をなさず、薄く一面に刷いたように現れる。ふわりと浮いて、淡い愁いを含んでいる。
例句 作者
田に人のゐるやすらぎに春の雲 宇佐美魚目
山の名を聞いて忘れぬ春の雲 大串 章
水溜りありてぽつかり春の雲 本田攝子
土手の木の根元に遠き春の雲 中村草田男
春の浮雲馬は埠頭に首たれて 佐藤鬼房
春の雲ほうつと白く過去遠く 富安風生
渦潮に日影つくりぬ春の雲 高浜虚子
春の雲人に行方を聴くごとし 飯田龍太
春の雲しろきままにて降りだしぬ 川島彷徨子