
師の影をしっかり踏んで春の雪 鈴木みのり
師の影をしっかり踏む
この措辞の意味は明白だ
心底敬愛する師のいる幸せ
その喜びが伝わってくる
心象風景であろうが
実兄としても味わえる
「春の雪」が慕う恋心まで思わせる
(小林たけし)
ははは、こりゃ面白いや。もちろんこの句は「三尺下がって(「去って」とも)師の影を踏まず」を踏まえている。弟子が師に随行するとき、あまり近づくことは礼を失するので、三尺後ろに離れて従うべきである。弟子は師を尊敬して礼儀を失わないようにしなければならないという戒めだ。でも、春の雪は解けやすく、滑りやすい。そんな戒めなど、この際はどうでもよく、とにかく転ばないようにと「師の影」をしっかり意識して踏みながら随いてゆくのである。ところで、この戒め。ネットで見ていたら、まったく別の解釈もあるそうで、概略はこうだ。師の影を踏むほどの近くにいると、視点がいつも師と同じになるために、それでは師を越えられない。せいぜいが師の劣化コピーにしかなれないので、常に師からは少し離れて独自の視点を持つべきだという教訓というものだ。どこか屁理屈めいてはいるが、この解釈で掲句を読み直すと、滑って転ばぬようにという必死は消えてしまい、どこまでも師と同じ視点に立ちたい必死の歩行ということになる。こちらはこちらで、哀れっぽいユーモアが感じられて面白い。作者は「船団」のメンバーだから、いずれにしても影を踏まれているのはネンテン氏だろうな。『ブラックホール』(2008)所収。(清水哲男)
【春の雪】 はるのゆき
◇「春雪」
春になって降る雪。冬の雪と違い、溶けやすく、降るそばから消えて積もることがない。大きな雪片の牡丹雪になることが多い。
例句 作者
琴の糸煮てゐる比良の春の雪 大川真智子
春の雪青菜をゆでてゐたる間も 細見綾子
元町に小さな画廊春の雪 野木桃花
春雪に火をこぼしつつはこびくる 橋本鶏二
吾子抱けば繭のかるさに春の雪 小室善弘
忘恩の春の雪降り積りけり 上田 操
火をすこし二階にはこぶ春の雪 丸山しげる
春雪をふふめば五体けぶるかな 加藤耕子
春雪のあとの夕日を豆腐売 大串 章
刈り込みの丸きへ丸く春の雪 良知うた子