竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

書道部が墨擦つてゐる雨水かな  大串 章

2020-02-20 | 今日の季語


書道部が墨擦つてゐる雨水かな  大串 章


2月中旬のまだ寒さの残る書道部の部室
現代では机に向かい
墨汁を硯に垂らしながら和気あいあいと談笑して
書道の準備をするのだろうが
この句では正座して静かに墨をする部員の姿をイメージする

雨水というめだたない見過ごしそうな季語をぐっとひきよえた句
作句のヒントを秘めた秀句
(小林たけし)

雑誌の月号表示を追い越すように、季節がどんどん進んでいく今日この頃、ならばと時計を二ヶ月ほど逆回転させても罰は当たるまい。季語は「雨水(うすい)」で春。根本順吉の解説を借用する。「二十四節気の一つ。陰暦正月のなかで、立春後15日、新暦では2月18、19日にあたる。「雨水とは「気雪散じて水と為る也」(『群書類従』第19輯『暦林問答集・上』)といわれるように、雪が雨に変わり、氷が融けて水になるという意味である」。早春の、まだひんやりとした部室だ。正座して、黙々と墨を擦っている数少ない部員たちがいる。いつもの何でもない情景ではあるのだが、今日が雨水かと思えば、ひとりでに感慨がわいてくる。表では、実際に雨が降っているのかもしれない。厳しい寒さがようやく遠のき、硯の水もやわらかく感じられ、降っているとすれば、天からの水もやわらかい。このやわらかい感触とイメージが、部員たちの真剣な姿に墨痕のように滲み重なっていて美しい。句には派手さも衒いもないけれど、まことに「青春は麗し」ではないか。こうしたことを詠ませると、作者と私が友人であるがための身贔屓もなにもなく、大串章は当代一流の俳人だと思っている。「書道部」と「雨水」の取りあわせ……。うめえもんだなア。まいったね。俳誌「百鳥」(2002年4月号)所載。(清水哲男)

【雨水】 うすい
二十四節気の一。陰暦で正月の中頃。陽暦で2月18、19日ごろ。「雨水がゆるみ、草木の芽が萌え出るころ」の意。

例句 作者

亡命は雨水の頃に夜の闇に 小野元夫
水をもて土を癒しぬけふ雨水 辻 美奈子
雨水とは辞書を頻りに繰る一日 澁谷 道
扁桃腺赤々として雨水かな 仲原山帰来