竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

ことしより堅気のセルを着たりけり 久保田万太郎

2021-05-14 | 今日の季語


俳句  作者名

ことしより堅気のセルを着たりけり 久保田万太郎

万太郎ならではの句といえようか
洒脱ないきざまを隠さないところが良い
昨年までは何者だったのだろう
読者を楽しませる技が見事だ
(小林たけし)


梳毛(そもう)糸使いの単衣着尺などの毛織物、または梳毛糸と人絹・絹糸・綿糸との交織で、肌触りが柔らかで薄く、初夏に着用するセル地で作った単衣のことをいう。

例句 作者

セルを着て小さん贔屓の父なりき 石嶌 岳
セルを着て手足さみしき一日かな 大野林火
セル軽く荷風の六区歩きけり 加藤三七子
セルを着て遊びにゆくや東京へ 松本たかし
セルを着て遺書は一行にて足りる 寺田京子
童話書くセルの父をばよぢのぼる 中村草田男
赤んぼの五指がつかみしセルの肩 中村草田男


赤シャツも田植えに混じる千枚田 松本詩葉子

2021-05-11 | 今日の季語


赤シャツも田植えに混じる千枚田 松本詩葉子

過疎の農村で
都会の子供らに田植えの体験をさせるところがある
農家の子に交じって都会の子が
歓声をあげて一日を過ごすが貴重な体験だ
親も一緒に田植えをする様子も伺える
掲句はそんな光景を想起させる
(小林たけし)



【田植】 たうえ(・・ヱ)
◇「田を植う」 ◇「田植唄」 ◇「田植笠」 ◇「田植時」
苗代で育てた稲の苗を、代掻きの済んだ水田に移し植える作業のこと。初めは直に籾を撒く方法(直播)が執られていたが奈良時代に移植する方法が始まり、平安時代に広く一般化した。田植えの時期は各地方によって様々だが、五月雨の中、早乙女が早苗を植える姿は風情豊かなものである。

例句 作者

にんげんの部品毀れる田植季 石田八洋
はじまりは米寿の一声田を植える 近藤詩寿代
ひるまへの屋根に人ゐる田を植うる 齊藤美規
ほまち田の田植を終えて父帰る 青木啓泰
みめよくて田植の笠に指を添ふ 山口誓子
制服を脱いで田植の水を読む 山口きみ子(響焰)
喪が明けて田植えの足を拭く女 舘岡誠二
植ゑ終へし棚田に風の曲がりくる 大木雪浪
水系の絆どろどろ田を植える 小川水草
浮苗を挿して夕日を呼び戻す 天津善明
片あしのおくれてあがる田植かな 阿部青鞋
田が植わり堰にふくるる余り水 吉田きみ子
田を植ゑて不和の夫婦の戻けり 土屋北彦

日曜はすぐ昼となる豆の飯 角 光雄

2021-05-10 | 今日の季語


日曜はすぐ昼となる豆の飯 角 光雄

鑑賞の蘊蓄は不要の句だろう
難解句の昨今、こういう句に出会うと救われる
(小林たけし)



【豆飯】 まめめし
蚕豆や豌豆を炊き込んだ御飯。豆の緑が新鮮で季節感の深いものである。

例句 作者

不器用に生きて豆飯炊いている 中澤一紅
粗にあらず京の野菜に豆の飯 川辺幸一
蚕豆飯にいつまで母を働かすか 岡本庚子
豆飯と遺影と私と夕月と 森本芳枝
豆飯や娘夫婦を客として 安住 敦
月の辺をうす雲よぎる豆の飯 原田ゆふべ







海鳴りややませの舌が伸びてくる 八島岳洋

2021-05-07 | 今日の季語


海鳴りややませの舌が伸びてくる 八島岳洋

海に向かっておりてくる山の風を
やませの舌と捉える感性が新鮮だ
海鳴りとやませがひびきあうのは実景に近いのかもしれない
(小林たけし)

やませ 三夏
【子季語】
山瀬風/長瀬風/梅雨やませ
【解説】
山を越えて吹いてくる風。北海道や東北の夏に、冷湿の北東風ないしは東風として吹く。冷害の誘因になる。


例句 作者

やませ吹くいずくへ消えし僧一家 竪阿彌放心
やませ来るいたちのやうにしなやかに 佐藤鬼房
アテルイのづぶりと沈むやませかな 照井翠
童子の眼碧むやませが滲み通る 高野ムツオ
阿弖流為の鼻梁を擦りぬ青山背 渡辺誠一郎
音も無く沈む鉄塊やませ来る 近恵


誰か来て鏡割りゆく八十八夜 塩野谷仁

2021-05-01 | 今日の季語


誰か来て鏡割りゆく八十八夜 塩野谷仁

2,006年海程9月号にて金子兜太の秀句選で下記の兜太の選評がある
現代俳句協会賞の中の一句でもある
難解句だが読者の鑑賞力を試されているような気がしてきた
(小林たけし)



夏も近づく八十八夜。誰か来て鏡割りゆく八十八夜。八十八夜の頃の季節感と、誰かが来て鏡割りゆくという心理的なものがどこかで響くような気がするのであるが、はっきりとは掴めない。

【八十八夜】 はちじゅうはちや(・・ジフ・・)
立春から数えて88日目にあたる。陽暦5月2、3日になる。播種の適期とされ、茶どころでは茶摘みの最盛期となる。農家はこの頃をめどに忙しくなる。この日以後は霜がないといわれ、気候的にも、この頃を境として安定してくる。

例句 作者

地下足袋が八十八夜を通りけり 村瀬誠道
山国の八十八夜の寝息かな 森下草城子
村立句会みんな八十八夜の手 中島偉夫
母老いて八十八夜静かなる 岡崎正宏
現役を豪語してをり八十八夜 佐藤文子
逢ひにゆく八十八夜の雨の坂 藤田湘子
雨が死に触れて八十八夜かな 曾根毅