遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉284 小説 踊(ストリッパー)子 他 わたしが書くもの(2)

2020-03-08 12:30:20 | つぶやき
          わたしが書くもの(2)(2020.2.20日作)

   わたしが書くもの
   それが詩であっても詩でなくても
   いっこうに構わない 少なくともわたしは
   誰にでも分かる言葉で 誰にでも分かるように
   わたしの思い わたしの心
   わたしが生きて来た人生 その途上で得た
   知識 経験 見て来た事などを
   書き残し 伝えてゆきたい

   わたしの書くもの
   豪華絢爛 技巧を凝らし 飾り立てた   
   紳士淑女の衣装のような言葉ではなく  
   丸太の小屋のような言葉で小さな
   丸太の小屋を作ってゆきたい

   その作られた小屋が
   貧相貧弱なものであるのなら
   わたしが生きた人生の軽さ 貧しさを示すものであり
   重厚 堅固なものであるのなら
   わたしの人生の深さ 充実を示すものとなるだろう
   
   わたしは わたしの書くものに
   責任は持てても 判定を下す事は出来ない
   わたしはただ 誠実に
   誰にでも分かる言葉で 誰にでも分かるように
   重さと豊かさを備えた堅固な
   丸太小屋を作りたいと願うだけだ


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          踊(ストリッパー)子(1)

             1
 最終電車が来るまでには、まだ、しばらくの間があった。
 上下線四本のレールを挟んで二つのホームが物わびしく、倦みはてたような影を宿して夜の中に横たわっていた。
 何処かの消し忘れられたネオンサインが、そんなホームの暗い屋根を時折り赤く染めた。
 上り線のホームに比べて下り線のホームには、既に夜半を過ぎたというのに、これから郊外の自宅へ帰ると見られる人達の姿が思いの外、多かった。誰もが空しい、疲れたような影を引きずりながら、不機嫌そうに黙り込みがちだった。中には、競馬新聞に眼を落す人、煙草の赤い小さな火を点滅させる人、酔って柱に体を持たせ掛け、今にも崩れ折れそうになっている人、などと居たが、そんな男達の姿に混じって女の姿も見られるのは、大方がバーやキャバレー勤めの帰りに違いなかった。女同士、今日の客達の噂話しでもしているのだろうか、小声で盛んに話し込む者達、恋人か共働きの亭主と一緒に帰るのかとも思われる者達、あるいは一人ポツネンと、うそ寒そうにハンドバッグを抱えて佇む者、さしずめ夜の最終電車を待つホームは、人生の辛苦を生きる者達の吹き溜まりといっような趣きがあった。
 彼は先ほどから待ちくたびれ、苛立っていた。早く家へ帰って眠りたかった。体中が重い疲労の中に沈んでいた。四十二歳、改めて自分の年齢を意識した。若い頃、少なくとも二十代の頃には夜中の一時、二時は平気だった。それが最近ではめっきり体力が衰え、仕事仲間との付き合いさえが億劫になり、ほとんど、夜間の外出を控えるようになっていた。歳月の流れが実感された。こんな夜半過ぎまで飲む事などここ何年かない事だったが、それがひょんな事から三人の仲間と飲む事になり、久し振りの酒場の雰囲気にハシゴを重ねたあとの帰りの侘しさだった。改めて彼は、妻や五歳の娘、三歳の息子の子供達と過ごす日常の生活の何気ない穏やかさを身に沁みて貴重なものと感じていた。
 下の環状線を走る電車がホームに入って来て停まる音がした。それと共に、程なくして階段を登って来る人の姿もちらほら見られて、彼の立つホームにもまた人の数が増した。彼は疲れ切った神経で、倦みはてた視線をそれらの人々に何気なく向けていたが、その時、思いもかけず、ふと、視線の片隅に入って来た一人の女の姿に気を取られ、注意を向けていた。
 別段、その女に注目していた訳ではなかった。偶然、眼に入っただけの存在にしか過ぎなかった。
 女は普段よく見られる、ありふれた二流三流どころのバーかキャバレーのホステス、あるいは居酒屋の女、といった風情で華奢な体つきをしていた。酔ってはいないらしかったが、酒の火照りを夜気に醒まそうとしているらしい様子が見て取れた。ハンドバッグと風呂敷き包みのようなものを両手に持って、泥臭い派手な和服をしどけなく着崩れさせ、気だるそうに投げ遣りな歩調で歩いて来た。
 彼は依然として、倦怠と疲労の入り混じった視線でなんの気なしにその女を見つめていたが、いかにもしだらな女の様子に苛立つ神経を刺激されて、思わず嫌悪の感情と共に視線をそらしていた。自身が女のしだらな様子に感化されてしまいそうで苛立った。
 が、その時だった。彼は思いがけず、自身の脳裡をまるで雲が大地に影を落として走り抜けるように、一つの影が走り抜けるのを意識した。と同時に彼は、反射的に、一度そむけた視線を再び女の方に向けていた。 
 女は細い鼻筋の寂しげな頬をした小柄で華奢な体つきをしていた。彼の前を通る時にも別段、彼を気にする様子もなく、例の気だるそうな歩調で歩いて行った。
 彼はなお、眼の前を通り過ぎて行った女の後ろ姿に視線を送り続けていたが、自身の意識の中を走り抜けものが何んでったのか、なお、分からないままだった。
 

   続く


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          takeziisan様
          KYUKOTOKKYU9190様

          有難う御座います
          お二方のブログ、ここに入った限り
          毎回拝見させて戴き、楽しませて
          戴いております
          有難う御座います

          KYUKO様 ディスクジョッキー
          今回、ちょっと元気がありませんか ?
          引き続き御健闘、御期待致します
          それにしても現代曲、実にお詳しいですね
          私にはいずれもチンプンカンプンの分野なのですが

          takeziisan様 アートブレイキーとジャズメッセンジャズ
          懐かしいですね。「危険な関係のブルース」何度聞いたか
          分かりません。LP盤で持っています。
          相変わらずのお写真、楽しませて戴いております
          それにしても、早春には黄の花が多いのですかね。