信仰とは(2020.8.17日作) 他
信仰とは 自分の帰依するものに
心の中で約束する事によって
自身の肉体 精神の中に眠る力を
呼び覚ます行為であり
自分の帰依するものが
何かの御利益(ごりやく)を授けてくれる訳ではない
帰依するものはあくまで
対象としての 無機質的一つの存在にしか過ぎず
それ自体が 何かの力を持つ訳ではない
だからと言って
世の中に存在する様々な信仰の対象物が
無価値だ と言う事にはならない
その物に向けられた人々の帰依する心
その物が その心を受け止めている限り
その物は 尊重されなければならない
その物には 人々の心が 込められている
その込められた心の重さが
仏像であれ 寺社であれ それぞれの物に
大きな価値を与えている
何人(なんびと)であれ
人の心をおろそかにする事は
許されない
---------
国家を歌う事は国民への礼儀だ
国家とは国民である
国民を忘れた国家は存在しない
権力者はしばしば
自分が国家だと錯覚しがちだ
----------
坐禅とは
自身の生きる本質を極める行為だ
一日一日 自身の生きる本質を見極めながら
その根本理念に少しでも近付いているかを問う事が
坐禅をする事の意味だ 無の中で自分を見つめる
昔の高名な禅家(ぜんけ)も言っている
日々の努力をないがしろにして ただ膝を組むだけでは
古狸が穴蔵の中で居眠りをしているのと一緒だ
-----------------
その夏(完)
「今更、人の噂なんか、いちいち気にしちゃあいねえい。わたしがどうしょうもねえ女だって事は、あんただって、よぐ知っていべえい」
つね代は背中を見せたままで、不貞腐れたように言った。
「バガ、それどこれどは違うわい」
「どう、違うのがい ?」
「世間じゃあ、おめえが強姦されだっつう、もっぱらの噂だ」
「どごで、それば聞いだい ?」
つね代は米を研ぐ手を止めて振り返った。
「横田でパチンコばやってるど、みんなが噂ばしてだわい」
「あんて、噂ばしてだだい ?」
つね代は良一郎に食って掛かるようにして聞いた。
「あれが強姦されだっつう女房の亭主だって、みんなが、俺あの事ば言ってただ」
「そっで、あんたは黙ってだのがい ?」
「当だりめえでねえが。みっともなぐて、面(つら)も上げられねえよ」
つね代は急に捨て鉢な様子で笑い出した。
「バガバガしい。あんたまで、本気でそんな事ば信じでんのがい ?」
「だあ、あんで、駐在所さ駆げ込んだんだ ? みんな、そう言ってだわい」
「あんた、その噂が何処がら出だのが知ってんのがい ?」
「そんな事、知るもんがあ !」
「わたしが最初に駐在所さ行って訴えだだい。そっで、駐在所で調べ始めだもんで噂になっただい」
つね代は得意気に嘲る口調で言った。
「あんで、そんな事ばしただあ ?」
「あんでもありゃしねえい。あんとなく、騒がして見だがっただげだい」
つね代は事も無げに言うと、また、背中を向けて米を研ぎ始めた。
「バガアマ ! それが駐在所さ知れだら、あじょうすっだ!」
「知れだって構いやしねえい。わたしが言わなげれば知れっこねえだがら」
「俺あ、知んねえど。おめえがデマかませでしょっ引かれだって、俺あ知んねえど」
「結構だい。そのうぢ駐在さ行って、あれは全部デマだったって言ってやるつもりだい」
「バガな真似ばすんな。余計な事などすんな。そうすりゃあ、世間はすぐ忘れでしまう」
「そっでは、面白くあんめえよ。わたしは始めから、そのつもりだったんだがら」
「にし(おまえ)っつうアマは、何処までバガだ !」
「バガで結構だい。バガだがら、どうしょうもねえ、能無しと一緒になっただい」
「あにお、このアマ !」
「はんなぐんなら(殴る)、はんなぐってみなよ」
つね代は振り向き、肩を突き出した。
良一郎はつね代の気迫に圧倒されたように、たじろいだ。
「バガアマ !」
良一郎は怒鳴り散らすとその場を離れた。
良一郎が座敷に戻ると、たね婆さんが縁先でもろ肌脱いで、団扇を使っていた。
「まだ、あにば喧嘩してるだ ?」
たね婆さんに取っては、今更、驚く事でもなく、呆れ果てたように言った。
「つね代のバガが !」
良一郎はそう言ったきり、奥の部屋へ行ってしまった。
「あんな嫁,追ん出す事も出来ねえ、おめえが悪りいだ」
たね婆さんは悟り切ったように言った。
良一郎は奥の部屋へ行くと、座敷に大の字になってひっくり返った。
夏の夕闇は半分、宙に浮いたようになかなか暮れようとはしなかった。座敷には澱んだような熱気と薄闇が漂っていた。
つね代は、たね婆さんが言うように、事実、良一郎の手には負えない女だった。総ての面に於いて良一郎を凌駕し、良一郎は翻弄されがちだった。見合いの時は兎も角、結婚してからのち、つね代がとかくの噂を持った女である事を知ってからも、良一郎はつね代を責めるよりも、そんな女であるがゆえに、つね代を失いたくないような微妙な思いを抱くようにもなっていた。
良一郎自身、結婚前、既に横田町で何人かの、その筋の女達との関係を持っていた。それだけに、その筋の女達とは異なる女であり、それでいて、何かと世間の噂になりがちな女を自分のものとしている事の何かしら、誇らしいような気分と共に、一概に、つね代を責める気持ちには踏み込めないでいたのだった。
七
陸上競技の合宿は八月二十二日に終わった。
それと共に、その夏も急速に秋の気配を深めて来た。
つね代が三たび、駐在所を訪れたのもその頃であった。
つね代はそこで、あの強姦事件が嘘であった事を広田巡査に告白した。
「いってえ、あんで、そんな事ばしただ !」
広田巡査もさすがに色をなして言った。
「お騒がせして申し訳ありません」
つね代は言って、神妙に詫びた。
「俺ばっかりなら構わねえが、本書の連中の手ば焼がしたどなるど、事はそう簡単に済まねえがもしんねえど。あじょうすっだ」
広田巡査は言った。
「それは分がってます。だがら、今すぐ、捕まえでくれでもいいです」
つね代は自分の非を素直に認めるように言った。
「まあ、それは兎も角どして、一応、本署の方さ連絡しておくだ」
広田巡査は言ったが、つね代の奇妙な振舞には、首を傾げざるを得なかった。
「南総中の篠原がこの夏出したベストタイムがこれだ。十一秒七。この位のタイムならお前の方が速い。油断は禁物だが、勝てない相手じゃない」
九月に入って間もなくね岡島先生は言った。
郡の大会までに、あと一週間を残すのみになっていた。
放課後の練習には今まで以上に熱が入った。運動場では暗くなるまで、各種目の練習が行われていた。
信次が家に帰るのは連日、七時過ぎになっていた。
家へ帰ると信次は食事をし、そのまま、風呂に入らずに寝てしまう事もあった。疲労は頂点に達していた。
「おらい(うちの)の信次は病気にでもなんなげればいいけっどよお」
母親は心配して言った。
世間ではまた、ひとしきり、つね代の噂が賑やかだった。
「あの強姦事件は狂言だったんだどよお」
そんな噂は厭でも信次の耳にも入って来た。
「あん(なに)のつもりで、そんな事ばしただがよお」
「まったぐ、あんつう(なんていう)嫁だがよお」
つね代はまた、行方が分からなくなっていた。
良一郎もなぜかその後、家を出てしまった。
二人が一緒だという事はなかった。なぜ、良一郎が家を出たのか、誰にも分かり兼ねる事だった。
或いは、つね代を探し廻っているのだろうか ?
誰にも分からなかった。
家はたね婆さんが一人で守っていた。
信次は朝夕、学校の行き帰りに、その家のそばを通った。家はひっそりと、息を潜めているかのように静かだった。
信次には事の成り行きの深い意味は分からなかった。ただ、かっては憧れにも近い気持ちで見ていた、つね代に対しての、軽い失望感と、嫌悪の感情がうっすらと湧き起こった。その家のそばを通る事が何故か、苦痛に思われた。
信次には、その気持ちの意味がよく分からなかった。ただ、つね代に対する噂の事は、極力、気にしないようにしていた。南総中学の篠原に勝つ事、その事だけに、熱い思いをたぎらせていた。
完
------------------
桂蓮様
コメント 有難う御座います
このような御文章を拝見致しますと
なんとなく心がほのぼのします
飾りのない 良い御文章ですね
気負った文章はどんなに立派な言葉を並べても
心には沁みて来ないものですが この御文章
心がそのまま感じ取れて 自然のうちに
気持ちが伝わって参ります
楽しく読ませて戴きました
もう寒くなるとの事 日本は連日
三十五度前後の気温で 暑さに茹だっています
「難しさと易しさの境目」
全く同感です 良く知る人は
その本質を知り抜いているので 短い言葉で
その本質だけを語る事が出来ますが
本質を理解していない人間は
その本質の周りをうろうろするだけで
どんなに言葉を重ね 難しい言葉を並べてみても
真実に到達出来ない という事ですね
これからも そちらの御様子など
御無理のない限り お伝え戴けましたら 嬉しく
存じます
こちらに居ては知る事の出来ない事など
いろいろ知る事が出来のは楽しい事です
どうか御無理をなさらず 気の向いた時に
発信 お願いします
有難う御座いました
takeziisan様
今回も素敵なお写真 満喫しました
電線 かねがねぼんやりとは思っていた事ですが
このお写真のように明確に眼の前に突き付けられますと
思わず感嘆の声を発してしまいます
それにしてもお見事な五線譜です
長い影 細工なしのお写真でしょうか
ちょっと驚きです
犬 間違ったという事ですが
御近所にイノシシの出るような事は
あるのでしょうか
わたくしの近所では全く考えられない事で
子供の頃いた田舎でも野生動物は皆無でしたので
そのような環境には 一種の
憧れにも近いような感情を抱いています
お体の衰え お嘆きの御様子ですが
全く同感です
殊に八十代に入ってからは より顕著に
年毎 その衰えを実感します
七十代にはなかった事です
実際 この先何年 ? そんな思いが
頻繁に頭の中をよぎる年頃になってしまいました
どうぞ これからもお体にはお気を付け
ブログを一日も長くお続けになられます事を
心から願っております
何時も 有難う御座います