時間(2020.9.1日作)
現代人は
時間に管理されている・・・・
事実か ?
一日二十四時間 三百六十五日
定められた時間
動かし難い時間
時間は今そこに
今ここにある
人は時間の中に生まれ
時間の中で育ち
この世を去る
人に係わる時間
時間に係わる人
時間は人を縛り
限定する
人は時間の中を泳ぎ
生きる
時間の中で働き
時間の中で楽しむ
時間の中で喜び
時間の中で悲しむ
時間の中で嘆き
時間の中で怒り
時間の中で笑う
人が意識する時間
時間は人間存在
人間存在は時間
一日二十四時間 三百六十五日
動かぬ時間
動かぬ時間を人が管理分割
支配する
主体は人
時間に係わる人が居なければ
人に係わる時間はない
時間は無色透明
白地のキャンバス
人が時間を染めて
演出する
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心の中の深い川(1)
一
志村辰巳と居る時、由紀子は幸福だった。身体全体が浮き立つような気分で満たされた。
何をされる訳でもなかった。志村がそばに居る、それだけで良かった。
そんな時、由紀子は自分自身でさえ、少しはしゃぎ過ぎている、と思う事がないではなかった。無口で醒めた人、というのが、周囲の人達の間では通説になっている由紀子にしては、珍しい事だった。
志村辰巳 三十二歳。
西田由紀子 二十七歳。
ほぼ一年の交際だった。
由紀子はだが、自分が志村との交際の中で何を望んでいるのか、自身でもよく分からなかった。あるいは、何も望んでいなくて、ただ、顔を合わせている事が出来さえすれば、それで良かったのか ?
その一年間、二人の間には、どれ程の深い関係も生まれなかった。まさに互いがそばに居る、というだけの関係にしか過ぎなかった。独身の青年期も過ぎた、とも言える男女にしては珍しい事に違いなかった。互いに激しく相手を求め合っても不思議はなかった。男である志村辰巳にしてみれば、なおの事であった。
しかし、志村がそうする事はなかった。
由紀子は今にして思う。やはり、自分の心の内のものが、志村をして、そうさせなかったのか ? あれ程、自分では明るく、心を開いている、と思っていたのに。そしてまた、由紀子は思う。
たとえ、志村が求めて来たとしても、与える事はなかっただろうと。
由紀子には、志村が自分と有吉宗二朗の関係を、何処まで知っているのかは分からなかった。ある所までは知っていたにしても、深い所までは知れるはずがない、とだけは思っていた。
由紀子との交際の中で、志村が有吉宗二朗との関係を口にする事はなかった。それだけに由紀子は、志村は自分と有吉との関係は知らないものと思い込んでいた。事実、実際問題として、もし、知っていれば、これまで二人の関係が続く事はなかっただろうし、今度の結婚申し込みも行う事はなかっただろう。
志村は言った。
「専務が、知り合いの人の娘さんと、ぜひ、見合いをするようにって言うんだ」
唐突にその言葉を聞いた時、由紀子は動揺した。と同時に程なくして、妬みにも近い気持ちが生じた。自分が何か、突き放されたような感じがして心が乱れた。その乱れた感情を押し殺して由紀子は、
「そう」
と言うのが精一杯だった。
「僕も、もう三十二歳で、いくら仕事で忙しく海外を飛び回ったりしていても、それで、断る理由にもならないし、しかも相手は、仕事の上で引き立ててくれる上司なんで、一応は、曖昧に答えておいたんだ。見合いが厭な訳じゃないけど、僕の気持ちの中には君がいたので、君の気持ちも聞いてみたいと思ったんだ」
一度は突き放された、と思った由紀子の心がその言葉にふるえた。希望が眼の前に広がるようだった。愛されている、と実感する事の幸せ。
即座に承諾の言葉を返す事は造作もない事だった。そして、その言葉は由紀子自身をも、幸福の頂点に導くはずのものだった。
だが、由紀子はためらった。幸福感に酔う自分と、その幸福を恐れる自分とがいた。
由紀子は迫りくる様な激しい志村の自分を見つめる眼差しを意識しながら、うつ向いたまま、言葉を途切らせていた。
志村に取っては、由紀子の態度は全く理解の出来ない意外なものに見えたようだった。幾分、感情を昂らせた口調で、
「君からすぐに返事を聞く事が無理な事だと僕は思わない。僕らの間には一年以上もの歳月があるんだ。その間には、君の心の中でも、好きか嫌いか、はっきりと判断が付いているはずだ」
と言った。
普段、物静かな志村にしては珍しい事だった。
「嫌いだなんて・・・・」
由紀子は思わず抗議をする口調になって言っていた。
「じゃあ、なぜ黙ってるの ? 僕の言葉を素直に受け止められない何かがあるの ?」
それが、志村自身の身の上に関しての事なのか、由紀子自身に関しての事なのか、一瞬、由紀子には判断が出来なかった。
由紀子は更に深い沈黙に陥らざるを得なかった。
「もし、今すぐ返事が出来ないっていうんなら、来週まで待つから、その時にはぜひ、はっきりとした返事をして欲しいんだ」
期限を切る事で、総ての決着を付ける志村の決意が感じ取れるような言葉だった。
そして今日、九月十日、土曜日。赤坂、乃木坂の通りを見下ろすレストランで総てが終わった。由紀子は、
「どうぞ、お先に帰って下さい」
初めて志村と会った時のように、改まった口調で言った。
志村は最後まで、男らしい物静かな態度を崩さなかった。
「僕は出世に眼が眩んだんじゃない。三十二歳っていう年齢は、結婚するのに決して早い歳じゃないし、僕には君の心の中にどのような変化が、或いは秘密があるのか分からないが、ただ残念に思うだけだ。君がいつも、見えない何かを見詰めているらしいのは分かっていた。でも、君はいつも僕に対して率直だった。僕はその率直さを信じていた」
そして最後に、
「信じなければ良かった。他の女と同じように付き合えば良かった。僕は君の何か、暗い、翳りのような部分を余りに大事にし過ぎたんだ」
と言った。
由紀子は自分でも、志村に大事にされているらしい事は、薄々、感じ取っていた。それ故にこそ、志村と居る時、由紀子は大きな幸福を感じ取っていたに違いなかったのだ。だが、今となっては、由紀子にはそれが怖かった。
有吉との関係。それは大きな恐れではなかった。ただ、志村の愛に包まれて、幸福の中にすっぽりと納まりきってしまう事に由紀子は、何故とはなしに、ある種の恐れのようなものを感じ取っていた。そして、それは多分、恐れ以前の、心の深部に根差した怯えのようなものに違いなかった。由紀子自身の力ではどうにも抑え切れない心の傷のようなものだった。
由紀子は志村の申し入れに対して、
「わたし、結婚はもう少し待ちたいと思うの」
と言った。
「なぜ ? 僕じゃ不足だって言うの ?」
志村の言葉には、思い詰めたような鋭さがあった。
「そうじゃないわ。そんな風に取らないで・・・」
「じゃあ、何故 ? デザイナーとしての仕事に邪魔だって言うの ?」
由紀子を見詰める志村の眼差しは厳しかった。
「いいえ、そうじゃないわ。そうじゃないけど、気持ちとして踏み切る事が出来ないんです」
自然に言葉は他人行儀なっていた。
「いったい、どういう事なの ?」
由紀子は離れて行く志村との距離を感じ取っていた。
「御免なさい。あなたはどうぞ、その方とお見合いをして下さい。わたし、決して、志村さんを騙したりなどしていた訳ではないんです。心から志村さんが好きでしたし、尊敬もしていました。それだけは分かって下さい」
由紀子は思い詰めた真剣な表情で志村の眼を見詰め、訴えた。
「だとしたら、この一年間はなんだったんだろう ? ただ、友達だけのものだったんだろうか ?」
志村は現状が信じ兼ねるように言った。
「いいえ、違います。違うわ」
由紀子は自分の真実をさらけ出すような思いで必死に言った。
「見合いがどうなるのかは分からない。でも、もう君に個人的な感情を持って会う事はないだろう」
志村は悲しみに沈んだ様子で呟くように言った。
二
志村が去った後も由紀子は白いテーブルクロスのテーブルを動かなかった。
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takeziisan様
コメント 有難う御座います
古い日記 拝見させて戴きました
同じような状況が眼に浮かんで来ます
今となっては 懐かしく良き時代だったな と
懐古趣味ながら思います
何よりも人間が素朴だったような気がします
それにしても イベントが豊富でしたね
わたくし達の方では卒業式に伴う行事以外には
こんな催しはありませんでした
珠算 懐かしい言葉です
わたくし達の方でも珠算は盛んで中学三年生の時に
一級の試験を受けましたが
暗算の点数が僅かに足りず 合格を逃しました
もう一回あれば、と思いましたが その時にはもう
卒業でした
「幸せはここに」懐かしいですね
あの当時は歌謡曲全盛の時代で 今思っても
いい歌が沢山作られましたね 現在の歌の
愚痴だか寝言だか判らない様な
締りのない歌とは大違いです
何時も下らない文章に御目をお通し戴き
感謝致します
自分の内面にある総てのものを出し切るまでは
下らない文章でも ここにお世話になって
遺して置きたいと思っております
takeziisan様のような読書家のお方に
御目をお通し戴ける事に心より嬉しく思い
感謝と御礼を申しあげます
これからも お気の向いた時で結構ですので
御目をお通し戴けましら、とお願い申し上げます
有難う御座いました