遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(400) 小説 引き金(9) 他 波は返る 

2022-06-12 13:03:09 | つぶやき
         波は返る(2022.6.7日作)


 この年 2022年 前半
 国内では 北海道の観光遊覧船が沈没し 
 二十数名の犠牲者を出している
 国外では ロシアがウクライナに侵攻し
 戦闘員 市民など 只今現在 日々
 数多くの死傷者を出している
 いずれも一人の指揮官 指導的立場の人間の
 世界 世間 世の中の 掟 決まりを無視した 愚かな行為
 自己の欲望 欲求に走った末の 参事 出来事
 一人の人間の愚かな強欲 野望 浅薄な思考の結果が
 自己 自身の周辺 狭い場所に限らず 社会 世の中
 世界を巻き込む 大惨事へと繫がる 只今 今日現在
 この世界に生きる人間 一人一人は 他者との繫がり
 他者との連携なくして 生きる事は出来ない 不可能
 個 個人 他者との繫がり 連携を欠いた人の存在など
 只今 今日現在 この世界 世の中では成立し得ない
 成り立たない 人は人の中でのみ 生きられる
 そんな人の 他者への配慮を欠いた愚かな行為は 結局 結果
 自身の身へと 跳ね返って来る 跳ね返り 自身を苦しめる
 自身の手が押し出した水 この地球という限られた空間
 狭いプールの中では その水はプールの壁に突き当たって跳ね返り 
 やがて 自身の身を浸す 大きな波となって戻って来るだろう 






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          引き金(9)


 そう言われてみると土間には確かに、薪などの陰に隠れて筌(うけ)や網などが積まれてあるのが眼に入った。
「御両親はいらっしゃらないんですか ?」
 三杉は先程から気になっていた事を改めて口にした。
 その言葉を受けて女は、「はい」と言ってから
「五年前に父が亡くなると、後を追うようにして母も、一年も経たないうちに亡くなりました」
 と、言葉を継いだ。表情には微塵の翳りもなく、淡々としていて、何処かに悟ったような赴きさえが感じられた。
 それから後の事は思い出せなかった。傷がもたらす体への負担と、一日中、山の中を歩き廻っていた事の疲れから何時の間にか、眠ってしまっていたようだった。気が付いた時には、小屋の中に女の姿はなかった。
 囲炉裏の中で燃える火が細くなっていた。
 明け方の寒さが身に応えて三杉は体を起こすと、横になった体に掛けてあったジャンパーを改めて背中から掛け直して、細くなった火の方へ体を寄せた。
 火の上に下がっていた自在鉤には昨夜食事をした、煤で黒くなった鍋が掛かっていた。その蓋の上に一枚の紙切れがあるのを眼にすると三杉は手に取った。
 紙切れには走り書きがしてあった。

 " ゆうべの残り物ですけど、鍋の中のものを温めてお食べになって下さい
  村へ帰るのには、林に射し込む太陽の光りに向かって行って下さい
  わたしは漁がありますので、湖へゆきます "

 三杉は手にしたその小さな紙片を囲炉裏の火にかざして燃やした。
 小屋の入口を見ると閉ざされていた。
 女が漁の道具を手に出てゆく様子が彷彿として思い浮かんだ。
 ジャンパーの腕を通す前に改めて、昨夜負った傷口が気になって視線を向けた。 
 包帯が巻かれたままになっていた。
 薄っすらと滲んでいる血の跡が見えた。
 包帯を解くと傷口には一枚の白い布が押し当てられてあった。
 その布も血に汚れていた。
 はがしてみると鋭くえぐられて白い脂肪肉を見せている傷跡が見られた。
 その傷の深さに三杉は改めて驚いたが、血は完全に止まっていた。痛みも不思議な程になかった。昨夜、女が塗ってくれた薬のせいに違いないと三杉は思った。
 改めて、傷口を保護するために薬の跡の残る布を当て、包帯を巻き直すと肩に掛けていたジャンパーに腕を通した。 
 猟銃は昨夜、そこに置いたままになっていた。
 弾薬の付いたベルトも傍にあった。何一つ、変わったものはなかった。
 傷付いた腕の破れたジャンパーもそのままだった。
 女は勧めていてくれたが、三杉は食事をする積りはなかった。ただ、一言、突然に飛び込んで来た得体の知れない人間にも係わらず、迷惑気な素振り一つ見せる事もなく、親切に応対してくれて、痛みに疼く傷の手当てまでしてくれた女に礼を言いたいとだけ思った。
 湖がどの方角にあるのかは分からなかったが、多分、女の通る道筋があるに違いないと考えた。 
 そこを辿って行けばいい。
 三杉は改めて身支度を整えると囲炉裏の中で燻り続ける火を、灰を掛けて消した。
 猟銃を肩に掛けると、朝のかすかな明るさが忍び込んで来る戸口に向かった。
 粗末な板戸を押し開けてまず驚いたのが、小屋の戸口、すぐ傍にまで迫って来ている芒の深い茂みだった。三杉の身の丈程もある芒が一部の隙もなく小屋を覆っていた。
 いったい、俺は昨夜、こんな中を歩いていたのだろうか ?
 仰天の思いだった。
 だが、いずれにしても今は、この芒の茂みの中を歩いて行かなければならないのだ。
 三杉は小屋の板戸を閉めると、自分の進むべき方角を探った。
 小屋に隣接したようにして繁る芒の茂みの左側に微かに、女が通ったのでは、と思われるような跡の残っているのを見付けた。
 その跡は茂みの中の方まで続いていた。
 女が通ったと思われる跡に違いなかった。
 三杉は跡を辿り続けた。
 太陽はまだ、顔を出した気配はなかった。
 それでも杉の巨木が林立する深い林の中にも、仄かな明るさは差し込んでいた。その明るさを頼りに歩いた。
 どれ程歩いたのかは、深い繁みの中では感覚的にも掴むのは難しかった。ただ、時間的には、十五分、ないしは二十分程かと思われた。ふと、足元から視線を上げた三杉の眼に、林立する杉の巨木の間に覗ける白い朝の気配が映って来た。咄嗟に三杉は、湖に違いない、と判断した。
 湖は、三杉の想像の思いも及ばなかった程の広さを見せていた。その広さと共に、澄んだ水の蒼さがまず、三杉の度肝を抜いた。かつて眼にした事のない蒼さだった。その蒼さの中に、水草の一本一本までもが明確に判断出る程の透明感は、水自体が無いかのようにさえ見えた。だが、水が実際に存在する事は、それが映す湖岸の木々の眼を射るように鮮やかな紅葉、黄葉が証明していた。紅葉、黄葉が水の中にも湖底を目差して延びているかのようでさえあった。ただ、われを忘れ、その美に魅せられて三杉は視線だけを奪われていた。
 どれ程かの時の過ぎていた。三杉は我に返った。
 女の存在に改めて思いを馳せた。
 広い湖上に女の姿を求めた。
 何処にも女の姿はなかった。
 岸辺に視線を移して、そこにも女の姿を探した。
 丈高い芒の繁茂する岸辺にも女の姿を見る事は出来なかった。
 湖の右手彼方に、湾曲し、湖上に突き出た岸辺がその向こう側の景色を隠していた。
 或いは、あの向こう側に女は居るのかも知れない。
 そう思ったが、そこまで行くにはまた、相当の時間と労力を要すに違いないと考えると、自分が一夜、帰らなかった事で宿のみんなが心配しているに違いないという思いが先に立って決心を鈍らせた。
 三杉は女への思いを諦めると、今来た道を辿って帰路に就いた。
 太陽の射し込む方角に向かって歩いて行けと女は言っていた。
 その時、ようやく朝の太陽が樹々の上に顔を見せて辺り一面をその輝かしい光りで彩り始めた。
 三杉はその太陽に向かって再び、丈高い芒の中へと入って行った。

 三杉は今、独り、目覚めた夜の静寂の中で、奇妙な夢の中の世界を反芻していた。杉林の中の景色も、広い草原の景色も、かつての狩猟経験では出会った事のない景色であったが、似たような状況には何度か出会っていた。それだけに、物珍しい杉林の中での出来事も、湖の風景との出会いも、夢の中の出来事と納得する事が出来たが、それ以上に奇妙なのは、それから後の事であった。
 三杉が湖を後にして芒の深い杉林を抜け、宿へ帰った時には既に、西川も源さんも直治さんもこの世にいなかった。





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          桂蓮様

           今回のブログ 良かったですね
          実際に行動した人間でなければ分からない
          実感がこもっています 最上級です
          楽しく読ませて戴きました
          それにしてもなんと弱気な・・・・
          そんなに卑下する事はないですよ 自分の中の思いと
          他人の見る眼は違います より高い所を目差す人間は
          得てして自分を卑下しがちですが 他人の眼から見る時
          それは相当の高みに達しているのです 人間 常に
          こうありたいものですね それにしても世の中には桂蓮様のようにはしないで
          理屈ばかり言いたがる人間が多いものです ですからわたくしは
          どんなに小さな事でも実際に自分の手で実行している人間を高く評価します
          事の大小ではなく いかにそれを誠実に実行しているか
          人間に取って大切なものは行動です その点で今回
          桂蓮様も御自分で行ってみて真実を掴む事が出来た
          その出来が良くても悪くても素晴らしい事ではないですか
          自分の事は自分にしか分からない ーーでも人間
          自分の眼には見えない部分もあるものです 他人はそこも
          冷徹 冷静に見ているものです 
          自分の思いだけに拘るのも怖い事です 他人の言葉も受け入れ
          それを的確に判断する その力が大切なのではないでしょうか
          お写真二枚とも拝見しました バレリーナです
          御主人とのお写真もいいですね 優しそうなお方でお幸せです
          それにしても 珍しく御主人様に感謝 嬉しくなります
           今回のブログ 今までになく 楽しく拝見させて戴きました
          バレーこれからもお続けになって また 改めての御成果を御報告して下さい 
          今後に期待 楽しい時間を有難う御座いました




          takeziisan様


          御指摘 有難う御座いました
          早速 直しておきました
          たびたび 皆様から御指摘戴き 老加現象の始まりか
          なとども思ってしまいます
          題名を入れた時 前の文字が浮き出て来て それをそのまま
          ナンバーを入れ替えただけで使ってしまったようです
          これがこの器具の便利な所でもあり 恐い所でもあると
          しみじみ実感します
           今回も様々な記事 楽しく拝見させて戴きました
          きゅうり一本だけ いいですね 専門家ではない
          素人っぼさとでも言ったらよいのでしょうか そんな実感に溢れています
           よっこらしょ 口癖です
          この言葉を口にするたび よっこらしょ かと自分でも可笑しくなって笑ってしまいます
           頂上から下向へ どうにも避けられぬ現象 生きる事の哀しみの一つですね
           知らぬ存ぜぬ 何処かの政治家の口癖 専用句 
          腹立たしい限りです
           川柳 今回も楽しませて戴きました 次回 期待です
          人間味がそのまま盛り込まれ 溢れ出るところがいいですね
          楽しくなります
           栗の花 田舎の家にあった風景を思い出します あの
          むせる様な匂い 懐かしいです
           美しい花々 今回も 初めて がいっぱいありました
          それにしても野に咲く小さな花 つくづく美しいと実感します
           グミの実 郷愁を誘われます
           名作 名曲 禁じられた遊び
          ラストシーン 涙なしでは見られません
          驚くのはあの子供達の演技力 この映画に限らず
          スクリーン上で見せる子供達の自然な演技には何時も
          感じ入ってしまいます 的確にその場面を演じられる
          演技力 何処から来るのでしょうか 映画界には子役に食われる
          という言葉があるようですが驚くばかりです
           何時も御声援戴き 有難う御座います
          楽しい記事を拝見させて戴く喜びと共に
          御礼申し上げます