遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(455) 小説 いつか来た道 また行く道(15) 他 性と羞恥心 宗教

2023-07-09 12:19:20 | つぶやき
            性と羞恥心(2023.6.18日作)


 性への羞恥心は          
 人間の知性 原初的本能との葛藤に根差す感情
 人間は長い長い歳月を経て 知性を獲得
 積み重ねて来た その 人間たる所以の知性
 それを捨て 投げ出して 人間の原初的本能の欲望
 その行為に身を委ねる事への後ろめたさが 人の
 性に対する羞恥の心となって表れる
 一般的動物達に性に対する羞恥心はない



            宗教


 一般的に宗教と言われるものは
 説教 美辞麗句を並べ立て
 権威を振りかざすだけのもの
 究極的に 宗教は無力なもの
 如何なる場合に於いても
 最後に人間を救い得るものは
 人間の心 良心 行動だ




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           いつか来た道 また行く道(15)




 いったん岐阜の市内に出てから、国道二百五十六号線に入った。
 更に百五十六号線へ出て高山へ向かった。
 安房峠を越えて松本市を目差した。
 今度は一切、高速道路を使わなかった。
 わたしの車が通った証拠を少しでも隠したかった。一般道路の混雑する中へ紛れ込んで、わたしの目立つ車をなるべく人目に触れさせたくなかった。
 平日の道路は比較的、空いていた。それでも、初めて走る不案内な道路にしばしば立ち往生させられた。
 とにかく、一時間でも早く長野県に入りたい。急かれる気持ちでひたすら目的地に向かって車を走らせた。
 すっかり葉を落として裸になった白樺の林に囲まれた別荘に着いた時には、まだ日が残っていた。
 ここへ来る時、わたしは何時も下の部落を通って、別荘の管理を頼んである老夫婦の家に寄り、土産物を置いて来るのだったが、今日は寄らなかった。
 わたしが来た事を知られたくなかった。
 老夫婦は別荘を閉じた冬の間も月に何度か、日曜日に来ては建物の中の掃除や、敷地内の手入れをしてくれていた。
 週日の今日は老夫婦の来る気遣いはなかった。
 それを前提にわたしは計画を立てていた。
 鍵は勿論、自分用のものを持っている。
 車がようやく部落に近付いた時、わたしは何時もの習慣でそのまま、部落の中を通り抜けそうになった。
 最初の人家が見えた時、思わず我に返って、そうだ、このまま部落の中を走り抜けるのはまずい、と呟いた。
 人の眼を怖れた。わたしの車が部落の中を走り抜けた事が人の眼に触れては拙いのだ。
 わたしは慌てて引き返し、いったん、部落から遠ざかった。
 改めてわたしは、中沢を車で来させたのは拙かったかな、と考えた。
 でも、彼が来るのは夜、遅くなってからだろうし、車自体も国産のありふれた車種だからと思って気持ちを落ち着かせた。
 いったん、人家が見えなくなるまで遠ざかるとわたしは細い道を辿って迂回し、小高い丘を這うようにしてゆっくりと登っていった。
 頂の平地に辿り着く頃にはもう、道らしい道はなくなっていた。
 山菜取りや猟をする人達が通るのだろうか、辛うじてそれらしいと分かる雑木林の中の細い道を、クマザサや野茨などに車体をこすられる耳障りな音に気持ちを擦り減らしながら、ゆっくりと車を走らせた。
 これでは、掠り傷一つなかった真っ白なジャガーの車体が傷だらけになってしまう。
 心臓の絞られるような痛みに呼吸さえが苦しくなった。
 その車体の傷が、もしかして、ここに来た事の重要な証拠になってしまうのでは・・・、そう思うと心に突き刺さる苦痛は更に増した。
 ようやく裏道を廻って別荘の正面に通じる道に入った時には、一気に緊張感がほどけてめまいがしそうな程だった。
 車体には思いの外、大きな傷はなかった。安堵感と共に別荘の大きな門を開け、車を敷地内に入れた。
 そのまますぐに門を閉めると、広い庭に沿って続いている道を車庫に向かって車を走らせた。
 車庫には三台の乗用車が入る広さがあった。
 わたしは電動シヤッターを開けると真ん中に自分の車を入れた。
 中沢の車をどちらかに寄せて入れさせる為だった。
 車が納まると途中のコンビニエンスストアで買って来たパンと缶コーヒーの入った紙袋を取り出し、車のドアを閉めた。
 車庫の電動シャッターを下ろし、白樺の黄色い落ち葉を踏んで玄関口へ向かった。
 二階建て、十部屋を持つこの建物は六年前、今は亡き著名な舞台俳優だった人の奥さんから譲り受けたものだった。
 贅を尽くしてしっかりと建てられた建物は、十五、六年の歳月を経ていたが、何処にも傷みらしい傷みはなかった。
 雨戸を閉ざした家の中は暗かった。
 わたしは玄関の明かりを点けると更に大広間に入って、中央の大きなシャンデリアに明かりを入れた。
 雨戸は開ける訳にはかなかった。
 家の中に人の気配を感じさせては拙いのだ。
 人気のない四十畳程の大広間はソファーやテーブルをあちこちに置いて、寒々とした気配の中で磨き抜かれた木製の床が鈍い光りを見せていた。
 わたしは一番窓際のテーブルに抱えて来た紙袋を置いて、僅かに雨戸を開け、カーテンで明かりの漏れるのを防ぎながら外が覗けるようにした。
 夕暮れは急速に迫っていた。
 薄闇が周囲を覆い始めていた。
 白樺の白い木肌が鮮やかに映えて見えた。
 中沢の車は狭い視野から見る限りに於いて、まだ見えて来なかった。
 あいつが遅くなるのは計算内の事だ。
 あいつが来る前にすっかり準備を整えて置くのだ。
 わたしは浴室に向かった。
 中はきれいに整理され、乾いていた。スラックスのままで足が濡れないように浴室用の靴を履いた。
 ニットのセーターの腕をたくし上げると早速、準備にかかった。
 まず、シャワーで浴槽内を洗ってから水を満たし、プロパンガスの火を付けた。
 枯れ木を燃やす構造にもなっていたが、人目に付く煙など出す訳にはかない。
 ガスは老夫婦が管理してくれていて、何時でも使えるようになっていた。
 浴室の準備が終わると、右隣にあるトレーニングルームへ行った。
 そこには様々な運動器具が揃えてあった。ルームランナー、エアロバイク等々。
 かつて、俳優の卵達がここで体力づくりに励んだという事だった。
 当時の運動器具は幾つもそのまま残っていた。
 広い原野の開けたこの辺りで、室内運動器具など必要なさそうだったが、夏の間、長逗留をする事のある者達は、運動の成果が数字になって表れる器具には興味を示した。
 わたしはそれらの器具を横目に様々な道具の入った箱が置いてある一つの棚の前へ行くと、二キロの鉄亜鈴の入っている箱を取り出した。
 蓋を開けて対になっているうちの一つを取り出して右手に持ち、振ってみた。
 女のわたしにもそれ程、負担にならなかった。
「よし、これでよし」
 わたしは取り出した方を足元に置いて、あとの片方は箱に入れて元に戻した。
 その後わたしは、タオルの入った収納棚の前へ行き、一本の洗顔タオルを取り出した。
 そのタオルで鉄亜鈴を巻いた。
 やや大きめの洗顔タオルはきれいに鉄亜鈴を包み込んで、形を分からなくしたが、鉄の堅さだけは感触として伝わって来た。
「これでいい」
 わたしは思わず満足感と共に呟いていた。
「タオルで包む事で、傷の出来る確率も小さくなるだろう」 
 出血は当然、避けられないだろうが、それでも出来る限りは小さくしておきたかった。
 わたしはそのタオルで包んだままの鉄亜鈴を部屋の入口にそっと隠して置いて、広間に戻った。
 外は何時の間にか完全な闇になっていた。




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              takeziisan様



               有難う御座います
              今回も楽しいひと時を過ごさせて戴きました
              蘇る思い出 人生の宝物ですね      
              わたくしは登山の経験はありませんが お写真で見る
              山懐に抱かれた環境の素晴らしさ 写真からも清々しい空気感が伝わって来ます
              病み付きになるのも分かる気がします 反面
              自身の中には危険な場所には足を踏み入れたくないという思いもあります
              出不精の性格も影響しているのかも知れません
               山百合 カワセミ 環境の素晴らしさ 羨ましい限りです
               山百合 カワセミわたくしの育った環境には親しい存在でした ですので
              一層 懐かしく思われます
               夏休み 郷愁を誘う言葉です
              それにしても採れたて野菜の新鮮さ 眼を見張るばかりです
              日々 これを食する事の贅沢さ その中に身を置いていた時分には
              当たり前の事だと思い 分からなかった事です 失って初めて知る当たり前の尊さ 
              人生の時間に於いても同じ事ですね
              幸い わたくしは今年の健康診断の結果も満点で
              何処も悪い所はありませんでした
               都心まで出向く検査の必要性 どうぞお気を付け
              御大事にして下さい
                久し振りの東京散歩 おのぼりさん気分の
              お爺ちゃん お婆ちゃんの原宿散歩 思わず笑い出しました
               サマータイム 好い曲です それにしても見事な歌唱
               素晴らしいひと時でした こういう歌唱なら何度聴いても飽きません
                今回もいろいろ楽しませて戴きました
                有難う御座いました