遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(524) 小説 <青い館>の女(13) 他 それが人生

2024-11-17 11:56:31 | 小説
             それが人生(2024.10.8日作)


 

 一般的俗説 世俗の論
 信用しない
 わたしの信じるもの
 わたし自身の生きた歳月
 八十六年余の年月 その中で得た
 経験に基づく知識
 それのみ
 八十六年余の歳月
 自身に向き合い 自身を見詰め 
 真摯に生きて来た 結果
 必ずしも 望んだ人生
 理想の人生 夢見た人生 とは
 成り得なかった
 後悔と迷い 苦しみのみ多い人生
 それでも
 自身を否定する事は無い
 苦難は多く 喜び少ない人生
 その中で残された歳月 あと幾年月
 最早 得られる物は少なく
 失われ行く物のみ多い年月
 自身の出来る事 ただ
 精一杯生きる これまで 今日まで
 精一杯生きて来て 今また
 精一杯 自身を生きて行く
 世俗的一般論 俗説 風説に
 惑わされない わたしを生きる
 わたしの人生 わたしの歳月
 その中で得た経験 知識 
 唯一 自身の生きる糧として
 これからも
 人が人として歩むべき真実の道
 その道を誠実 真摯に歩み
 生きて行く
 喜びは風の如くに飛び去り 残される物は
 雪の如くに降り積もる哀しみ
 それが人生




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               <青い館>の女(13)





「加奈子って子は居るかなあ」
 薄暗い照明の中でソファーに腰を落ち着け、あからさまに顔を見られる事からの解放感に安堵しながらわたしは加奈子の名前を言っていた。
 無論、他のホステスの顔も名前も知らない事情もあったが、ほとんど、無意識的にとは言え加奈子の存在無くしてこの店に再び入る事などあり得なかった。
 ただ単なるホステスとの遊びなど、わたしは望んでいなかった。
「はい、加奈子さんですね。少々、お待ち下さい」
 ボーイが去ると加奈子は待つ間もなく姿を見せた。
 この前と同じ様な衣装で同じバッグを手にしていた。
 傍へ来ると丁寧にお辞儀をして、
「入らっしゃいませぇ」
 と言った。
「今晩わ」
 わたしは立っている加奈子を見上げて言った。
「失礼しますぅ」
 加奈子はやはりこの前と同じ様にわたしに身体を擦り付けて座席に着いた。
 既に知り尽くしている若さに満ちたその肉体の感触がわたしを親しみの感情へと誘う。
 加奈子はテーブルの下の棚に小さなバッグを置くと、わたしに向き直って、
「指名して戴いて有難う御座いますぅ」
 と言って、小さく頭を下げた。
「名刺を貰って置いたからね」
 わたしは言った。
「でもぉ、なかなか来てくれない人が多いからぁ」
 加奈子は言った。
「わたしも来ないと思った ?」
 わたしは年甲斐も無く再び、 如何わしい店へ足を運んだ事のバツの悪さを覆い隠す様に加奈子の肉体を抱き寄せて言った。
「そうじゃないけどぉ、やっぱりぃ」
 加奈子は歯切れ悪く言葉を濁して言った。
「この柔らかさと君の優しさが恋しくなって、また来る気になったんだ」
 自分の心の裡のモヤモヤした感情を一気に振り払う様にわたしは、加奈子の肉体を抱き締めて言った。
「お仕事、お忙しいんですかぁ」
 加奈子はわたしに身を任せたまま言った。
「まあ、いろいろあってね」
 日常へ引き戻される事を拒否する様にわたしは言葉を濁して言って、加奈子の口元に顔を寄せその唇を塞いだ。
 加奈子は拒まなかった。
 自らわたしの口元に顔を押し付けて来た。
 身体と口を寄せ合ったままの長いひと時が過ぎて身体を離すと加奈子は、
「またぁ、あっちの部屋へ行って貰えますかぁ」
 と聞いた。
 わたしに異存は無かった。
 無意識的とは言え、それを求めて此処へ来たのだ。
 それからの時間はわたしに取って、満足のゆく時間と言えた。
 わたしの不調は相変わらずだったが、加奈子の優しさと労わりに満ちた心遣いは相変わらずだった。
「実は、体の調子が悪くて駄目なんだ。医者に止められている。だから、この柔らかい肌に触れさせて貰えればそれだけでいいんだ」
 わたしは初めて真実を口にする。
 加奈子は軽い驚きの表情を見せてわたしを見たが、
「何処か、悪いんですかぁ」
 と聞いた。
「うん、ちょっとね」
 わたしは曖昧に言って、それが大した事では無いという様に再び加奈子の肉体に触れてゆく。
 加奈子はやはり、厭がる素振りも見せずにわたしの口にその口を押し付けて来る。
 ひと時のそんな行為の後で疲れ果てた様に裸体を投げ出している加奈子にわたしは言った。
「こんな事をしていて、厭じゃないのかい ?」
「こんな事って ?」
 加奈子は言葉の意味が分からない様にわたしを見詰めて問い返した。
「わたしが駄目で、君が触られている事が」
 加奈子はそれで言葉の意味を理解したらしく、
「そんな事ないですよぉ。これでぇ、お金を戴いてるんですからぁ」
 と、言って屈託のない表情を見せた。
 その明るい、屈託の無さが思い掛けなくわたしにふと過去の苦い出来事を思い出させた。
 わたしが体調の不良を意識し始めた頃の事だった。
 これまでの習慣が抜け切れなくて地方へ出た折り、何時もの様に馴染みのバーへ足を運び、そこの女と一夜を共にした。
 その時初めてわたしは今の自分に出会っていた。
 混乱、狼狽し、半ば呆然自失のうちに諦めて、
「疲れたろう」 
 と言った時、三十六歳の女は、
「別に」
 と冷ややかに言って、蔑む様にわたしから視線を逸らした。
 その夜、二人の間に通い合うものは再び生まれて来なかった。
 わたしは、
「いけねえ。思い出した事がある」
 と言って、急いで身支度をすると、まだ半裸のままでいる女をそこに残して部屋を出た。
 以来、絶えず意識される身体への不安と共に、その事への恐怖がわたしの心の裡に住み着く様になっていた。
 それらの事はわたしの体調不良を除いて妻の一切、知らない事であった。
 わたしと妻との間では、既に思い出す事も出来ない程の遠い昔にその事は絶えていた。
  妻は結婚当初から、その事には熱意が無かった。
 息子の孝臣を身籠るまではそれでも、どうにかわたしの接触を許していた。
 牧本家の一人娘の妻に取っては、最初に生まれた子供が男の子であった事は何よりだった。
 牧本家の跡継ぎが出来たのだ。 
 以来、妻は育児の忙しさなどを理由に何かとわたしを遠ざける様になっていた。
 資産家の一人娘として大切に育てられ、誰もが称賛せずには置かない美貌の持ち主としての高い矜持を持った妻は、初めからその事への関心は薄かった。
 それとなく匂わせるわたしの女性関係にも、蔑みの表情を見せるだけで、それ以上の感情は示さなかった。
 妻に取ってはわたしは、出会いの当初から見下した存在でしか無かったのだ。
 わたしだけでは無い、彼女に取っては総ての男性が彼女に傅(かしず)く存在でしか無いのだ。
 男の手に弄ばれ、至福の境地に至る事など、彼女には屈辱以外の何ものでも無い。
 妻は幼稚園から大学まで、一貫して私立の有名校に在籍した。
 そこでの彼女はその美貌の故に何時でも男子学生の中 の 女王だった。 
 



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                takeziisan様



                 暑い 暑い と音を上げていたのが つい この間と
                思っていたのがもう「枯れ葉」の季節
                この季節が来る度に思い出される名曲ですが
                迫り来る寒さと共に 何時聴いても身に沁みる名曲です
                赤とんぼ 十数年前にはわが家の屋上にも時折り
                姿を見せたのですが 今は見られません
                トンボと言えば秋の黄色く稲の稔った田圃の上に群れを成して
                飛んでいた子供の頃を思い出します
                ヤンマ ヤンマ カエレ 稲ヤンマカエレ と 
                細い竹の先に糸を結び 囮のトンボを振り廻し 
                何匹も捕まえて数を競った事を思い出します
                それも今では遠い記憶で 懐かしさの中に思い出す事しか出来ません 
                時はただ夢の様に過ぎて逝きます 行く先々の果てが身近になるに従い
                季節の移ろいは日毎 速まる感じがします
                 サザンカ 栴檀 南天 柚子 懐かしいです
                栗 柿を交えて子供の頃のわが家に有ったものばかりです
                都会の屋根ばかりが眼に飛び込んで来る現在の環境の中
                しみじみ 恋しくなります(屋上に出ると東京スカイツリーを左に
                遠く彼方に富士山が小さく見えるのですが)ですから 普段 特殊な番組 
                二 三を除いてテレビは観ない中で自然を映した風景や「小さな旅」など 
                地方の地元に密着して生きる人々の生活を映した番組などはよく見ます
                それと共に 再び 昔の様な環境に戻りたいと思うのですが
                それも もう無理な事だと思っています
                その点、御当地にはまだ自然が残されていらっしゃる様で
                羨ましく思います
                こちらでは南天 シャコバサボテン 全く花芽が見られません 
                それだけ気温が違うという事でしょうか
                以前にも書きましたが この地方は温暖な地域でして
                皆 のほほんと育ってしまい偉い人が出ないのだ などと言われています 
                何時も 拙文にお眼をお通し戴き有難う御座います
                御礼 申し上げます  
                         
                



              


































         

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