肌にまつわる秋風の冷たさに、おもわず体をすくめる。そう、あと何日かで暦は冬だ。
駅までの道を歩きながら、この暮らしが永遠に続けばなあといえる一年だったかどうか、思い浮かべてみる。
一年。一年が早い。
さながら病院の待合室のような朝の電車に乗り込んだ、そこにひどく咳き込む青年がいた。
周りのみんなの様子は、心なしか迷惑そうに、眉間に皺を寄せている。
そんな彼を思いやったのか、一人の阿仁金蔵似のお爺さんが近づいていった。思わず親切心が出たのだろう、自分のマスクをはずし、「どうぞこれ使ってください」と青年に差し出した。
それを見た青年は、うっと声を出して言葉を失った。さらに眉を寄せ、声を絞り出した。
「いえ、あなたが困るんじゃないですか?」
お爺さんは笑った。
「大丈夫、大丈夫。私は、もう一つ持ってますから」
バッグのファスナーを開け、乱雑になった内部を掻き回し、「ほら」といって新品のマスクを取り出して見せた。
「……」
そこに唖然とした顔の青年があった。