それは4月28日の土曜日のことだった。
家から駅まで歩くと12~13分かかる。月に1~2度しか乗らない自転車はマンションの駐輪場に雨ざらしの状態で置かれている。それにまたがり、野暮用で駅まで行った。駅の前は小さなロータリーになっている。その一角に小さなスペースがありそこに本田美奈子の慰霊碑が置かれている。
何も知らない僕は、ぶらぶら自転車を漕ぎながらロータリーに近づいていった。徐々にその場所が見えてくる。たしかにこの日は暖かかった。ロータリーに裸の男が……、いたって、おかしくない? ……しかし! どこか違う。あれは、変人か、セクハラ男か? うん? 長兄の金魚か?
いつもと違う雰囲気に、?マークが頭の上に昇った。
そこにリングがあった。何だ? その上には誰もいないが、周りに何人かがいて、そこを片付けてるようだった。
丸坊主のいかつい男が、若い男・女やおじさんおばさん達に囲まれている。他にもがっしりとした筋肉隆々の若者や、ブヨブヨの腹の中年裸男もいる。
ははーん! ファンがサインを求め、彼らはそれに応じているのだ。
やっと、プロレスと判る。少し時間がかかり過ぎた。
「ゼロ」と書かれたトラックが傍にあった。
興行するには間違いなく失敗するだろうこの辺鄙な町にプロレスがやってきてたんだ。ビックリマンチョコなんてものじゃない。すごいだろ! 僕がこの町に住み始めて初めてのことだ。
しばらく黙って眺めた。こんな辺鄙な場所によくぞ来てくれたという思いで。
どこかそれは、満更でもない気持ちも芽生えていた。
が、少し冷静になって考えてみると、50人座れば満席のこんな小さな舞台でやるなんて! これは田舎町の証明なのでは? (ところで、僕は特にプロレスファンでもなんでもない)
ふと、トラックで思い出した。
昔、成増の商店街の中でトラックの上で演奏したことがあった。88才のボーカルの後ろにいた19才の僕は、彼の屁で吹き飛ばされそうになった。バンドを組んでまだ初めの頃だ^^