小学校の四年の夏。加藤、山本そして僕の三人は探検にいった。かつて防空壕として使用されていた元味噌工場の跡地の洞穴。行くにはまずそこにはびこるおびただしい量の雑草を突破していかなければならない。それはアシのような茎の堅い草だった。それでもゆっくり掻き分け進んでいった。その途中、加藤が「うえっ」という奇妙な声を上げた。「なんかぐにゃっとしたものを踏んだ」眉を吊り上げ情けない顔をしていた。そして片手で僕の肩につかまり「ちょっと見て」と片足を上げた。後ろにいる山本が靴の底を眺めた。「なんだこれ、ばばじゃねーか? 黒っぽい色してる、それに何となく臭う感じ」「なんだよ、ばばって」「うんちのことだよ、な?」山本が僕を見て笑った。僕が山本に「ちょっと嗅いでみな」「やだよ」「おーい変なこと言うなよ」加藤が泣きそうな顔して「もう戻ろうぜ」「おまえ、うんちごときで帰るのか」「だってよ……」「違うよ、冗談だよ、うんちじゃない。冗談、冗談」山本は笑いながら加藤をなだめた。
やがて板に塞がれた入り口が現れた。一見頑丈そうに見えたが板は簡単に外れた。間口は1mくらい。三人は目で合図した。入っていく順をじゃんけんで決めることにした。勝った者が自由に選べる。
その結果、僕は真ん中、加藤が先頭で山本が最後尾。先頭の加藤が懐中電灯をかざした。ちょっと緊張の瞬間だ。五感を研ぎ澄ましゆっくり入っていった。微かに土と埃の匂いがした。それも一瞬だった。ほとんど無臭に近い。壁面はごつごつしていてぬめった感触がある。10メートルほど進んだ。まだ何とか外光の明かりがギリギリ残っている。
そこで異変が起こった。
加藤って誰だ?
加トちゃんか?
ということは荒井注もいたんだな。
仲本くんはいなくなってしまった。
ここには、おそらく土管があったことだろう。
僕は昨日、100円ショップで、ミニチュアの土管を買ってきた。
ひなたクンにあげようと思ってね。
なかなかいけてるぞ。
小さい子は、あれをドラえもんに出てきた土管として認識しているようだよ。
タイムスリップして、変なおじいさんとひなた君を洞窟探検に連れて行ってあげたかったね。あの洞窟は中野坂上にある山本有三の実家の裏にあった。シュークリームのヒロタの工場のスグそばでね。
ところでひなた君の話題は久しぶりだね。
100円shopのぼっとん式便所のミニチュアをあげるんだってね? 中々乙なことをやるじゃないか君は。この頃の便所はこのぼっとん式が主流。君の田舎の上田吉次郎の家ではどうだったんだ?
もう僕は寝るぞ。時計を見る。う、う。