エド・マクベインの『87分署』シリーズを、「火曜サスペンス劇場」枠で2時間ドラマ化した「わが町」(92~98)が、日本映画専門チャンネルで連続放送されている。
原作は、ニューヨークをモデルにしたといわれる架空の街アイソラを舞台に、魅力的な刑事たちが織り成す集団劇としての面白さが読みどころのシリーズで、警察小説の元祖ともいわれる。学生時代に、ハヤカワ・ミステリ文庫の原作シリーズを、随分と読みふけったものだ。
マクベインの原作自体が映像的な文体ということも手伝ってか、欧米でも、テレビシリーズ「87分署」(61)、映画化された『複数犯罪』(72=『警官(さつ)』)、『刑事キャレラ/10+1の追撃』(72=『10+1』)などがあるが、最も映像化が多いのは、なぜか日本なのである。
黒澤明の『天国と地獄』(63=『キングの身代金』)、岩内克己の『恐怖の時間』(64=『殺意の楔』)、市川崑の『幸福』(80=『クレアが死んでいる』)、ほかに「裸の街」(80)と題された連続ドラマもあった。
で、久しぶりにドラマ化されたのが、この「わが町」であった。このシリーズは、舞台を東京の下町・月島に移し、地元に住む刑事たちが織り成す集団劇として、原作が持つ群像刑事ドラマとしての魅力を、和風人情ドラマの中で巧みに引きだしている。
鎌田敏夫の脚本が、主役となる刑事を1作ごとに入れ替えるという原作の手法を踏襲したので、連続ものではあるが、それぞれを独立したドラマとして見ても面白い。
また、このシリーズは、1年に1、2作という単発形式で、足掛け6年にわたって製作されたので、こうして通しで見ると、刑事たちが扱う事件から、当時の社会情勢の変化を一気に見ることができて、懐かしい思いがした。
ところで、このドラマ、原作の登場人物との名前の語呂合わせという、マニア向けのお遊びも楽しかった。
マイヤー・マイヤー=鳴海成巳(蟹江敬三)、アーサー・ブラウン=黒土朝男(佐藤B作)、ハル・ウィリス=向井春雄(平田満)、バート・クリング=栗山隼人(川野太郎)、コットン・ホース=綿貫勝(松井範雄)、ピーター・バーンズ=坂東清文(勝部演之)、そしてスティーブ・キャレラ=森田吾郎(渡辺謙)。主役は特に捻りなしか。