田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『17歳の瞳に映る世界』

2021-07-11 07:45:38 | 新作映画を見てみた

 原題は「Never Rarely Sometimes Always=決してない めったにない 時々 いつも」。

 17歳の高校生のオータム(シドニー・フラニガン)は、ある日妊娠していたことを知る。ところが、彼女の住むペンシルベニアでは、未成年者は両親の同意がなければ中絶手術を受けることができない。それを知った、いとこのスカイラー(タリア・ライダー)が金を工面し、2人は両親の同意がなくても中絶ができるニューヨークへ向かう。

 この映画の甚だニューヨークらしくない風景を見ながら、アメリカを描きながら別の国のように映ったジム・ジャームッシュの『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(84)のことを思い出した。

 また、ヨーロッパ系の、例えばダルデンヌ兄弟の映画を思わせるようなドキュメンタリー風の描き方と淡々とした視点から、男には理解し難い思春期の女の子の心理を描くという手法も、アメリカ映画としては珍しいだろう。正直なところ、彼女たちにはほとんど感情移入はできないが、オータムを救うことに献身するスカイラーの存在が救いとして映る。

 女性監督のエリザ・ヒットマンは、性的アイデンティティーに悩む青年を描いた『ブルックリンの片隅で』(17)で注目されたらしいし、セクシャリティーの問題を内包した『ムーンライト』(16)のバリー・ジェンキンス監督が製作総指揮に名を連ねていることを考えると、これは必然的に生まれてきた映画なのだろう。

 ただし、宣伝文句に「少女たちの勇敢な行動」とあるが、親にうそをつき、黙って中絶をすることが本当にそう言えるのか、また、出てくる男が皆ろくでなしというあたりに、ステレオタイプや女性側の一方的な主張を感じる、などと言うと、これは男の言い分として問題視されるのだろうか。こういう映画を論ずるのは本当に難しいと感じる今日この頃だ。

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『ライトハウス』

2021-07-11 07:30:58 | 新作映画を見てみた

観客を無視した独り善がりの映画

 1890年代、ニューイングランドの孤島。4週間にわたり灯台と島の管理を行うため、ベテランのトーマス・ウェイク(ウィレム・デフォー)と未経験の助手イーフレイム・ウィンズロー(ロバート・パティンソン)が島にやってきた。

 だが、2人は初日からそりが合わず、衝突を繰り返す。劣悪な環境の中、ウィンズローは心理的に追い詰められ、次第に精神に異常をきたすようになる。そして、任期終了の日、島を襲った嵐によって2人は島に閉じ込められてしまう。

 ロバート・エガース監督が、ギリシャ神話と実際の灯台守の手記をベースに製作したニューロティック(異常心理)スリラー。モノクロ、スタンダードの画面の中、舞台劇を思わせる異様な二人芝居が展開する。2人とも、もともとは舞台畑の人だから、こういう役を“嬉々として”演じるのだろう。

 ただ、意味不明の描写のほか、モノクロ故に多少は緩和されるが、グロテスクな場面も多く、見ている方は不快極まりない気分になる。よく言えば挑戦的だが、悪く言えば観客を無視した独り善がりの映画。見終わるまでが一苦労だった。

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