村上春樹の短編小説集『女のいない男たち』に収録された短編「ドライブ・マイ・カー」を、濱口竜介監督・脚本により映画化。同じ短編集に収録されている「シェエラザード」と「木野」も取り入れている。
舞台俳優で演出家の家福(かふく)悠介(西島秀俊)は、脚本家の妻・音(霧島れいか)と幸せに暮らしていた。だが、妻はある秘密を残したまま急死してしまう。
2年後、喪失感を抱えながら生きていた家福は、演劇祭で演出を担当することになり、愛車のサーブで広島へ向かう。そこで出会った寡黙な専属ドライバーのみさき(三浦透子)と過ごす中で、家福はこれまで自分が目を背けてきたことと向き合うことになる。
音が亡くなるまでの約40分のアバンタイトルが東京編で、残りの2時間あまりは広島が舞台となる。179分の長尺だが、少しも飽きさせない。全体を貫くテンポがいいのだろう。
そして、心に傷を持つ家福とみさき、家福を愛しながら複数の男たちと関係を持つ音、そして音と関係を持っていた俳優の高槻(岡田将生)の屈折、彼らの心情がだんだんと明らかになってくるところは、一種のミステリーを見るような面白さがある。
また、家福が演劇祭で演出を担当するチェーホフの『ワーニャ伯父さん』と、家福自身の心情が重なって見えてくるところが秀逸だ。
タイトルは、村上がビートルズの同名曲に倣ったものだが、話の中にこの曲が出てくるわけではなく、単に車の運転が核となる物語に対して言葉の響きや語呂がよかったからそう付けたのだろうが、そのタイトルを聞いただけで耳の奥であの曲が流れてくるから不思議だ。