細田守監督が、超巨大インターネット空間の仮想世界を舞台に、少女の成長を描いたオリジナル長編アニメーション。
舞台は、過疎化が進む自然豊かな高知の田舎町。17歳の女子高生すず(声:中村佳穂)は、母の死をきっかけに、大好きだった歌を歌うことができなくなり、周囲にも心を閉ざすようになっていた。
ある日、全世界で50億人以上が集う仮想世界「U」と出合ったすずは、「ベル」という名のアバターとなって参加する。仮想世界では自然と歌うことができ、自作の歌を披露するうちに、ベルは世界中から注目される存在となっていく。そんな彼女の前に、「U」の世界で恐れられている竜の姿をした謎の存在が現れる。
インターネットや仮想現実の世界に入り込み、アバターとして別の自分になるというのは、ジェームズ・キャメロン監督の『アバター』(09)はもとより、ディズニーアニメの『シュガー・ラッシュ』シリーズやスティーブン・スピルバーグ監督作の『レディ・プレイヤー1』(18)などもあり、決して目新しくはない。
この映画がユニークなのは、現実世界=リアル(田舎町の風景、地味なすず、学園生活、家族や周囲の人々)と仮想世界=ファンタジー(圧倒的な色と光、派手なベル、歌(音楽)、さまざまな仮想キャラクター)を対照的に組み合わせながら、『美女と野獣』をベースに、主人公すずの自分探しと竜の正体探しを描いているところだ。
加えて、例えばスピルバーグには仮想現実に対して懐疑的な部分があったが、細田監督は、インターネットが持つ可能性をポジティブに捉えていることがうかがえた。
ところが、最先端の仮想現実を描きながら、話の中心には、少女たちの純情な心根も含めて、極めて古風な日本の姿が見られるのが面白い。
実際、偶然同時期に公開され、実写とアニメの違いこそあれ、17歳の女子高生の厳しい現実を女性が描いた『17歳の瞳に映る世界』を見た後でこの映画を見ると、すずをはじめとする、いまどき珍しい“いい子たち”の姿は、細田監督のような大人(男)が抱く娘や若者の理想像なのではないのか、という少々意地悪な見方すらできるのだ。
だから、この映画を見て救われた思いがしたのは、自分もいい年をした男だからなのかもしれない、という気がした。