『コーラスライン』(1986.2.25.丸の内ピカデリー1)
ブロードウェーの新作ミュージカルのバックダンサーを選ぶオーディションで、予備審査で残った17人のダンサーが、演出家(マイケル・ダグラス)を前に自分自身を吐露していく様子を描く。
有名舞台劇の映画化は、すでに視覚イメージがあるものを新たにフィルム上に焼き付けていく作業だから、作り手としては非常にやっかいなものなのではないか。にもかかわらず、『アマデウス』(84)にしろ、この映画にしろ、実にそつなく見事な映画にしている点には敬服する。
しかも、この映画の監督はリチャード・アッテンボロー。前作の『ガンジー』(82)とは全く違う題材なのに、変幻自在の演出ぶりがすごい。例えば、ボブ・フォッシーのように、ショウビズ界にどっぷりと漬かった者とは違い、一歩引いた視点から描いているためか、『オール・ザット・ジャズ』(79)のような陰惨な印象はなく(あれはあれですごい映画なのだが…)、後味のいい人間賛歌、あるいはアメリカの縮図として仕上げている。
また、演じる俳優たちの姿が役柄とオーバーラップしてくるところは、原作舞台の長所であろうが、それを映画として生かしたアッテンボローの手腕はお見事。加えて、隅から隅に至るまでの一人一人のダンサーたちの素晴らしい芸には、アメリカのショウビズ界の人材の幅広さや競争の厳しさを見せつけられたかのようで圧倒される。
そして、特筆すべきはマービン・ハムリッシュ作曲のミュージカルナンバーの数々だろう。『スティング』(73)『追憶』(73)などで、その才能はすでに証明済みだが、この映画でも「ワン」をはじめ、また何曲も名曲を残してくれた。
こうしてみると、監督、キャスト、スタッフ、音楽と、素晴らしい才能が集まって、それが一つになることで、初めてダンスシーンが映像として生きてくることが分かる。そして何と言ってもラストの「ワン」が素晴らしい。
自分のように、映画に比べると舞台は…と思っている者にとっては、この素晴らしい題材を映画として生かしてくれたスタッフ、キャストに感謝しなければならない。
テレビの「オレたちひょうきん族」でやっているパロディドラマはどうもいけない。この映画も、見る前に「コーラスカイライン」なるパロディ版を見せられたおかげで、シリアスな場面でそれを思い出して、思わず笑いそうになる始末。逆に言えば、見事にパロディにしているということになるのだが…。
「One」A Chorus Line Movie Finale
https://www.youtube.com/watch?v=s9pAGWtUiJ8
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