伝説のヒットマン市川進(石橋蓮司)74歳。だが、実は彼の正体はハードボイルドを気取り、御前零児を名乗る売れない小説家だった。
ハードボイルドスタイルで夜の街をさまよう時代遅れの主人公。こうしたこだわりをかっこいいと見るか、ただの老人の悪あがきと見るか。
かっこ悪けりゃ、ただの自己満足の悪ふざけだが、そうはならないところがこの映画の真骨頂 ハードボイルドもコメディもできる石橋が見事にその本領を発揮している。
石橋に加えて、桃井かおり、岸部一徳、大楠道代という、“原田芳雄の仲間たち”が、監督・阪本順治、脚本・丸山昇一いわくの「いい年をしてまだバカをやっている男と女の物語」を見事に体現し、かつて不良だった大人たちの“遊び心”を刺激する。
また、ドラマ「探偵物語」と『処刑遊戯』(80)の脚本が丸山だったこともあるが、この映画は、かつて黒澤満がプロデュースした東映セントラルフィルムの諸作をほうふつとさせるところがある。
そこには、ハードボイルドもコメディもやれる松田優作の存在があり、この映画の「小説家・市川進と彼を取り巻く個性豊かな登場人物たち」を、探偵・工藤俊作と、あるいは殺し屋・鳴海昌平と、に置き換えてみてもすんなりくる気がするからだ。
1970~80年代に場末の映画館やテレビで見た数々の映画やドラマを思い出してうれしくなった。