田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『アンティークの祝祭』

2020-03-13 09:49:42 | 新作映画を見てみた

 最近、意識や記憶がおぼろげになってきたクレール(カトリーヌ・ドヌーブ)。ある日「今日が私の最期の日」と確信した彼女は、長年集めてきたさまざまなアンティークコレクションを、自宅の庭のガレージセールで処分することにする。そんな中、クレールの奇妙な行動を知った娘のマリー(キアラ・マストロヤンニ)が20年ぶりに帰宅する。

 ドヌーブとキアラという実の母娘の共演と、美しく幻想的なラストシーンが見どころ。あの天下の美女ドヌーブが、認知力が衰え、白髪で太った姿を見せるところに感慨深いものがある。それにしてもキアラは、お父さんのマルチェロによく似てきた。

 ただし、たった1日の物語なのに、主人公の意識を反映した現実と幻想の境を描いているので、時間の経過や人物像が曖昧になり、見ながら混乱させられるところがある。監督のジュリー・ベルトゥチェリは、自分の趣味や理屈を出し過ぎた結果、いささか整理不足に陥ったのではないかと思われる。

 これを見ると、タイプは違うが、是枝裕和の『真実』の方が、老境のドヌーブをうまく生かしながら、きちんと母と娘の話にしていたとも思える。フランス人よりも、日本人の方が彼女を生かした皮肉は面白い。

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「いちご白書をもう一度」『いちご白書』「ダスティン・ホフマンになれなかったよ」

2020-03-13 08:32:47 | 映画いろいろ

「いちご白書をもう一度」。この曲がはやっていたのはちょうど高校受験の頃だった。夜、勉強に疲れた時、悪友のIと「家を抜け出して、2人で時々出掛けた」屋台のラーメン屋のお兄ちゃんが、偶然ラジオから流れてきたこの曲を聴きながら、「君たちにはまだ分からないだろうけど、この歌の詩はしみるんだよなあ」と言っていた。お兄ちゃんも学生運動をやっていたのだろうか。恋人と別れたのだろうか、などと想像してしまった。

 

 ある日の教室で、「ばんばひろふみは、ラジオもやっているからよくしゃべるけど、相棒の今井ひろしって全然しゃべらないよな」と話すと、「でも、すごくギターがうまいんだぜ。レコードを聴けば分かるだろ」と訳知り顔で答えたのは、自分もギターを弾くSだった。

 確かに、荒井(松任谷)由実が作ったこの曲のギターソロはとてもいいのだが、後に、レコーディングの時にこれを弾いたのは今井ではないことを知った。実際に弾いたのは、太田裕美の「木綿のハンカチーフ」のギターソロでも知られる芳野藤丸だったのである(ちなみに、沢田研二の「危険なふたり」の松木恒秀のギターソロも素晴らしい)。

 となると、今井の存在は…などと、ずっと思っていたのだが、最近こんな映像を発見して少し安心した。今井のギターソロもすごくいいじゃないかと。でも、相変わらず一言もしゃべらないのが愉快だが。
https://www.youtube.com/watch?v=nmyVzMu0PCo

 で、肝心の映画『いちご白書』(70)は、この曲のヒットによって、ラジオの深夜放送に放映リクエストが殺到した結果、1976年の1月8日に東京12チャンネル(現テレビ東京)の「木曜洋画劇場」で放映された。主人公のサイモン役は『ウィラード』(71)にも出ていたブルース・デイビソン、監督はスチュアート・ハグマンだった。

 見てみると、1960年代の大学闘争を描いたもので、キム・ダービーのかわいらしさと、ジョン・レノンの「ギブ・ピース・ア・チャンス」を合唱するシーンや、ストップモーションにバフィ・セントメリーの「サークル・ゲーム」(作・ジョニ・ミッチェル)が流れるラストシーンが印象に残った程度で、正直なところあまりぴんとこなかった。そして「学生運動に入るきっかけって、結局はかわいい女の子の存在だったりするんだな」とも思った。
https://www.youtube.com/watch?v=zdvI-i81DNE

 ところで、こうした映画をモチーフにした曲で最も忘れ難いのは、曲中に『ジョンとメリー』(69)『卒業』(67)が登場する、大塚博堂の「ダスティン・ホフマンになれなかったよ」(作詞・藤公之助)だ。今は、こんなふうに洋画が曲のモチーフにはならないのかな。
https://www.youtube.com/watch?v=cfJ3WKaGdFc

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