『ザ・ディープ』(77)(1977.7.28.テアトル東京)
バミューダでスキューバダイビングを楽しんでいた新婚カップル(ニック・ノルティ、ジャクリーン・ビセット)が、偶然、難破船内で金貨を発見する。2人は遊び半分で宝探しを始めるが…。
この映画、真夏に見たので一時の涼を得ることはできたのだが、正直なところ、あまり面白くはなく、途中で少し寝てしまった覚えがある。当時の鑑賞メモにも「水中シーンは素晴らしいが、ストーリーが平凡で残念だった」と、たった一言だけしか記していない。
というのも、公開前から、ビセットの白いTシャツに透けた乳首の画像が話題となり、ラジオでドナ・サマーがセクシーに歌うテーマ曲(ジョン・バリー作曲)も聴いたので、見る前からエッチな気持ちを大いに刺激されていた。
しかも、原作は『ジョーズ』のピーター・ベンチリーで、監督はピーター・イエーツ。この時期乗っていたロバート・ショウも出ていたので、結構期待して見に行ったのだ。だからその分、落胆も大きかったのだろう。
『しゃべれどもしゃべれども』(07)(2008.4.18.)
二つ目の落語家・今昔亭三つ葉(国分太一)のもとに、「落語を習いたい、話し方を習いたい」と、無愛想な美人(香里奈)、友達とうまくいかない関西弁の少年(森永悠希)、口が悪い元プロ野球選手(松重豊、)がやってくる。
主人公の落語家を、ジャニーズ所属の国分が演じているが、全体の味わいは、同じくジャニーズの長瀬智也と岡田准一が落語家を演じた最近のドラマ「タイガー&ドラゴン」よりも、森田芳光の『の・ようなもの』(81)の方に近い感じがした。
国分をはじめ、香里奈、松重、子役の森永が各々頑張っているが、師匠役の伊東四朗と祖母役の八千草薫も大ベテランの力を発揮。それぞれの再生劇として面白く見ることができた。
劇中の核となる噺は、「まんじゅうこわい」と古今亭志ん生の十八番「火焔太鼓」だが、落語の魅力を再確認させるとともに、桂枝雀の「まんじゅうこわい」を登場させて、江戸(東京)と上方(大阪)の違いを示したあたりが見事だった。
『お早よう』(59)(1990.12.)
郊外(多摩川近辺)の新興住宅地を舞台に、子どもたちに振り回される大人たちの姿をコメディタッチで描く。子どもたちがおなら遊びに凝るシーンが印象に残る。
小津安二郎晩年の一本だが、比較的軽く撮ったような印象を受けるこの映画の方に、ユーモリストとしての小津の特性がよく表れている気がする。何より、見ていて笑えるし、彼が終生こだわった“家族”というテーマが、何げない描写の積み重ねの中から自然に浮かび上がってくる感じがした。
この時期、「小津は同じような映画ばかり撮って」という批判が随分あったようだが、今の国の内外を問わない評価のされ方を見ると、時評の曖昧さを知らされる思いがする。
ところで、小津映画の、ぶっきらぼうとも思える独特のセリフ回しは、今の山田太一のドラマ脚本に影響を与えていると思えるし、ひたすら家族にこだわる姿勢は、山田洋次の映画に形を変えて受け継がれている。
この2人が、いずれも小津と同じ松竹の出身ということも考え合わせると、彼がホームドラマというジャンルに残したものの大きさを改めて感じることにもなる。
【今の一言】久しぶりにテレビで再見したのだが、三宅邦子、杉村春子、高橋とよ、長岡輝子、三好栄子…。実際、こんな強烈で個性的なおばさんたちに囲まれて暮らしていたら、毎日が大変だろうなあと、しみじみ思った。次男の勇を演じた島津雅彦は、黒澤明の『天国と地獄』(63)では、間違って誘拐される、運転手の息子を演じた名子役。