手紙 (文春文庫) | |
東野 圭吾 | |
文藝春秋 |
初めて東野 圭吾の作品を読みました。
なかなか重い話でした。
冒頭から主人公直貴の兄、剛司の強盗殺人の描写から始まる。
受刑した兄は、罪に対し反省も深く、弟へ毎月、刑務所から手紙を送る。
強盗殺人の受刑者の弟の苦難な日々は、逮捕後から始まる。
受験前の高校3年生、逮捕されるまでは、互いを思いやる仲のよい
兄弟だった。逮捕後、弟は生活をひとりで立てて行くため、受験を
あきらめ、レストランで働く。そこに訪れた同級生から兄のことが
ばれ、最初の苦難、差別を目の当たりにする。
そこから、次の就職先、鉄屑屋、バンド、恋人の家族から同じような
差別を受けながらも生活をつなげていく。
差別による世の中に対する諦め、逃避とその葛藤。
差別を受ける境遇からの脱却のためのもがきが痛々しく伝わってくる。
なんとか大学に入り、量販店就職し家族をもつが、その過程での兄存在
手紙と距離を置き過ごす。
最後は、兄へ決別の意を伝えるが、そこへも弟の成長を感じさせる
終わり方で読み手に深くぐっとくるものを与える。
底辺の苦難に対処する主人公と冷たい世間、一部の救う人々の描写は、
現実味もあって考えさせられる本でした。