明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(421)「放射線防護に市民と科学者が立ち上がった」(『世界』4月号)

2012年03月09日 18時30分00秒 | 岩波ブックレット『内部被曝』発売中です!
守田です。(20120309 18:30)

表題の「放射線防護に市民と科学者が立ち上がった」というルポを、昨日発売
された岩波書店『世界』4月号に掲載していただきました!ぜひお読みください!

書いた内容は、東日本大震災以降、続々と立ち上がってきた市民放射線測定所の
動きと、これにも呼応しつつ、本年1月27日に結成記者会見を行って立ち上
がった「市民と科学者の内部被曝問題研究会」結成にいたるいきさつなどです。

市民測定所については、昨年末で50箇所近く、今年になってからさらに各地に
準備会が立ち上がっているのですが、その中から何といっても福島で立ち上がっ
てきた測定所の動き、また僕自身も関わりを持ってきた、宮城県南部の二つの
測定所、さらに避難者支援の延長に測定所開設を決意した京都の動きを紹介しま
した。

これらの取材を通じて、たくさんのことを学びましたが、印象的だったのは、
福島の測定所の開設に、フランスのNPOのクリラッド(CRIIRAD)が大きな力を貸し
てくれたことです。同団体は、チェルノブイリ事故のときに、フランス政府が
何ら積極的なアクションを行わないことに対し、放射線防護のために立ち上がっ
た市民と科学者による組織です。

クリラッドは、1991年からはべラルーシーに対する支援に乗り出し、さらに昨年
2011年にわたしたちの国への支援を始めてくれたのでした。頭が下がる思いが
します。チェルノブイリ事故による深刻な放射能汚染を被る中で、それと立ち向
かってきた欧州の知恵が、わたしたちを助ける力として供与されたのです。

「素晴らしいことだ、「市民と科学者の内部被曝問題研究会」も、そんな道を辿れる
といいな」と思っている時に、ある方から、外国人を含む大文字山ハイキングへの関
わりを求められて同行したところ、フランスの方ががいたので、早速この話をし
てみました。なにもフランス人のすべてがクリラッドの代表であるわけでもないこ
とは分かっているつもりでしたが・・・。

ところがなかなか話が通じない!なぜかというと、「クリラッド」というのは
CRIIRADを英語的に発音し、それがカタカナに転写された日本語なのですね。だから
相手がなんのことがわからなかったのです。途中から話が通じて、フランス語の
読み方を発音してもらいましたが、これがさっぱり真似できない。「フランス語の
Rは日本人には難しいです」とのこと。なのでカタカナに転写もできない。

それでも一度、話がCRIIRADのことだとわかると、相手の方もいろいろなことを
教えてくれました。この組織はフランスでも大きくて、代表的な組織で、放射線防護
に関して、実に活発な活動を繰り広げているのだそうです。その方が誇らしげに
語ってくれるので、なんだか嬉しくなってしまいました。

さらに僕が「フランスは市民運動が本当に活発で強いですね!」と語ると、「そう
なんです。フランスの市民は強いんです。それでフランスは闘争の国と言われます」
とこれまた誇らしげに語ってくれました。ここまでくると羨ましいというか、ちょっ
と悔しい気もしました。そんな風に自国の市民のことを誇れるのはいいなあ・・・。


そんなことがあってから後、ある講演会で知り合った女性と話をしていたら、実は
彼女が、フランス人のお父さんと、日本人のお母さんのダブルであることを知りま
した。彼女は何か放射線防護の関係で、フランスと日本をつなげることをしたいと
語っていたのですが、その彼女が、その後「在日フランス大使館」の放射線情報が、
日本政府などより、ずっと充実しているという知らせを届けてくれました。

実は昨年3月の事故時に、フランスがまっさきに日本にいる自国民に国外退去を訴え
たこともあって、3月から5月ぐらいまで、フランス関係の情報もよくチェックしてい
たのですが、彼女に促されて改めて在日フランス大使館情報をみて、そこには、食べ
るのを避けたほうがいい食品がリストアップされていたり、どうしても必要な用事以
外では、福島近県への旅行は避けるようにといったアドバイスなどが載せられている
ことを知りました。僕がチェックしたのは、昨年12月段階の情報です。

今後、こうした各国が出している情報についても、詳しく精査して紹介していきたい
と思いますが、こうした在日フランス大使館の対応は、けしてフランスが原発大国で
あるからではなく、まさにフランスの市民運動の強さに規定されているものではない
かと僕には思えます。市民が積極的に情報を集め、公開し、それを行動の指針として
いるので、政府もそれに対応せざるをえないのです。つまり在日フランス大使館の
インフォメーションもまたCRIIRADなどの活躍の中で生まれてきたように思えます。


ひるがえって私たちの国の政府をみつめると、本当に根深い情報隠蔽体質が目について
ため息がでます。残念ながらそれは、私たち市民の力の弱さの反映でもあるとも思いま
す。恥ずかしい気がします。しかし今、続々と立ち上がりつつある市民放射線測定所は、
そうした私たちの国のあり方を下から着実に変えていくものでもあります。

放射線防護に関する限り、フランスの市民とて、チェルノブイリまではけして大きな
力を持てていなかったのではないか。だからフランスが原発大国になってしまったの
ではないか。そしてそこからフランス、あるいはヨーロッパの市民たちは、大きな
あゆみを作り出してきた。だとするならば、私たちも今から、市民の力を強くしていけ
ばいいし、それはまったく可能だと思います。

・・・どうもフランスの話ばかりになってしまいましたが、『世界』のルポでは、
そんな私たちの可能性への思いを込めて、測定所と内部被曝研のことをルポしました。
フランスとの関わりは文章の中のごく一部で、もっといろいろなことが書いてあります!
どうか多くの方にお手にとって頂ければと思います。

なお4月号の『世界』のメインタイトルは「東日本大震災・原発災害1年 悲しもう」
です。僕は実に良いタイトルだと思います。「悲しもう」・・・そうです。意志を込め
て僕も悲しもうと思うのです。そしてその悲しみの中から、未来の可能性を、みんなで
紡ぎ出していきたいと思います。

岩波書店のHPから『世界』についての案内面をご紹介しておきます。
http://www.iwanami.co.jp/sekai/index.html




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明日に向けて(418)矢ヶ・守田著『内部被曝』(岩波ブックレット)3月6日出版です!

2012年03月05日 23時00分00秒 | 岩波ブックレット『内部被曝』発売中です!
守田です。(20120305 23:00)

タイトルにもあるように、『内部被曝』という本を物理学者の矢ヶ克馬さんと作りました。
岩波ブックレットの1冊としていよいよ3月6日に発売されます。みなさんにぜひ読んでいただ
きたいと思い、ご報告申し上げます。

まず帯につけていただいた案内を紹介します。
「東日本大震災以降、放射能による問題として重要視されている内部被曝とは何か。さらに
人体への影響の度合いに、様々な見解があるのはなぜか。いまの状況にいたるまでの軌跡を
たどりながら、その問題点をわかりやすく解説する。」

目次は以下の通りです。
第1章 被曝直後の福島を訪れて
第2章 内部被曝のメカニズムと恐ろしさ
第3章 誰が放射線のリスクを決めてきたのか
第4章 なぜ内部被曝は小さく見積もられてきたのか
第5章 放射線被曝に、どのように立ち向かうのか

A5版72頁 定価588円(税込)

ご注文先は以下です。
岩波書店販売部 電話03‐5210‐4111
岩波書店ブックオーダー係 電話049‐287‐5721 FAX049‐287‐5742
岩波書店ホームページ http://www.iwanami.co.jp/hensyu/booklet/

またアマゾンの以下のページからも購入できます。送料無料です。
http://www.amazon.co.jp/s/ref=nb_sb_noss?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&url=search-alias%3Dstripbooks&field-keywords=%E5%B2%A9%E6%B3%A2%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88%E3%80%80%E5%86%85%E9%83%A8%E8%A2%AB%E6%9B%9D&rh=n%3A465392%2Ck%3A%E5%B2%A9%E6%B3%A2%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88%E3%80%80%E5%86%85%E9%83%A8%E8%A2%AB%E6%9B%9D&ajr=0

内容は、矢ヶさんが解明してきた内部被曝のメカニズムと、その驚異が隠され、過小評価
されてきた歴史的経緯を、僕が矢ヶさんに尋ね、答えていただく形で作っています。
一番に心がけたのは「解りやすくすること」。矢ヶさんと一緒にずいぶん、苦労しました
が、何とか初期の目的を達成できたと思います。

そもそもこのブックレットを僕が作ろうと思った動機は、昨年7月に、被爆医師肥田舜太郎さん
と矢ヶさんに連続してお会いし、お二人が懸命になって解明されてきた内部被曝の実相を
できるだけ多くの人に知らしめることこそが、放射線防護を推し進める上で、もっとも大切だ
と考えたことによります。

とくに矢ヶさんの著作、『隠された被曝』を読んだとき、被曝のメカニズムの物理学的解明
や、放射線をめぐるさまざまな解き明かしに、目が覚まされる思いがするとともに、この内容
をもっと平易に、もっと多くの人に伝わる形に書き直せると素晴らしい、ぜひそれを担いたい
という思いが強まりました。

そんな思いで、7月に京都に講演にこられた矢ヶさんに初めてお会いし、『隠された被曝』を
平易に解き明かしたブックレットか何かを作りたいと提案すると、初対面であるにもかかわら
ず、二つ返事で「誰かそういう仕事をしてくれる人が出てくるのを待っていました」というお
答えを返していただけました。

それ以降、僕は講演に呼ばれた際に、肥田さんと矢ヶさんに学んだことを軸に話を組み立て、
いわばお二人のメッセンジャーとして、放射能汚染と前向きに立ち向かっていくことを訴える
とともに、どのようにすれば矢ヶさんが解き明かした内容を、より人に伝えられるのか、考
え抜いてきました。

それで矢ヶさんに幾度かインタビューを行なったうえで、文章を編み出したのですが、次第
に問題は単に、平易に書き表すことだけではないことが見えてきました。何よりも僕自身の
理解が問われました。読んだときには分かっているつもりのことが、説明しようとすると、十
分な把握にいたっていないことが見えてきました。

とくに苦労したのは、さまざまな専門用語でした。学問にはそれぞれの積み重ねがあります。
専門用語はそれらを要約したもので、多くの意味を一言で表せるけれども、それを知らない人
にはさっぱり意味が通じません。それで専門用語を噛み砕いて説明しようとすると、はじめて
自分自身がその積み重ねの部分しか理解していないことがみえてきました。

それで僕はどんどん物理学や放射線科学にのめり込んでいきましたが、さらに見えてきたのが
この領域の科学が、核兵器の開発や核戦略の維持に密接に絡んでいるために、相当に政治的な
介入によって歪められている事実でした。この政治的歴史的背景をつかまないと、放射線科学
の実際をつかむことはできないのです。

そのことを理解し、「専門家」任せにせず、市民自らが科学していくことが問われているのだ
ということが、まさに本書で矢ヶさんが主張していることなのですが、僕自身、本書を編む
ことを通じて、「科学すること」を強烈に体験しつつ、放射線をめぐる歴史を自らが辿ってき
たように思います。

とはいっても僕はまだまだ矢ヶさんの導きのもとに、物理学と放射線科学の大海の、ごく一
部を泳いだに過ぎませんが、ぜひこれを出発点にさらに科学的研鑽を積んでいきたいと思いま
す。その道を歩む楽しさ、素晴らしさもまた矢ヶさんに教えていただきました。本書を読ま
れる方が、そんな歩みの一旦をも追体験して頂けたら幸いです。

なお、本書の作成にあたっては、岩波書店の坂本純子さんが編集の労をとってくださり、校正
者の方とともに、実に丁寧な関わりをしてくださいました。文章を繰り返し読み返し、論述の
曖昧な点、不要な点を実に的確にご指摘くださり、とても頭が下がりました。本というのはこ
んなふうに、編集者の職人芸を通じて編まれてきたのかと、深い感慨にとらわれました。

同時に、この作業は多くのみなさまのお力添えによって可能になりました。とくにカンパをし
てくださったみなさま。本当にありがとうございます。みなさまのお力がなければここまでの
作業を行うことができませんでした。本書の出版に力を貸してくださったすべてのみなさまに、
深く感謝をさせていただきます。

ともあれみなさま。『内部被曝』は自信作です。どうかお手にとってください。本書が放射線
防護を進めんとするみなさまの、何かの力になることを願ってやみません。




コメント (3)
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